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「ものがたり列車」で四国を再発見する
「おもてなし」再発見
滝川クリステルさんは東京オリンピック招致の際に「おもてなし」で日本の接待文化を表現した。確かに、「おもてなし」は日本が誇るべき文化の一つであろう。
しかし近年、その「おもてなし」に綻びが見え始めていると感じる。
オーバーツーリズムにより観光地はどこに行っても大混雑、テロ対策により街中のゴミ箱は数を減らし、通りには食べ歩きのゴミが溢れている。2024年問題などで運輸業も人手不足が深刻化し、乗り物の混雑も激しくなった。
しかし、そんな状況とは無縁の場所がある。
四国である。
四国には著名な観光地は少ない。北海道のような雄大な景色も、九州のような山間部に点在する温泉も、京都のような歴史ある神社仏閣もあまり多くない。観光地としてはかなり地味な存在だ。最近でこそInstagramで父母ヶ浜や高屋神社などの絶景スポットが有名になってきたけれど、まだまだその魅力が十分に発揮できているとは言いがたい。
しかしそんな四国にはおもてなし文化が根付いている。もともとお遍路(弘法大師:空海が開いた88カ所のお寺を回る修行)にきた人に食事や飲み物などを提供する「お接待」の文化がある。そんな「お接待」の文化を取り入れて成長してきたのが四国を走る「ものがたり列車」である。
今回はオーバーツーリズムと無縁の地、四国を走る3つの「ものがたり列車」の中でも最も歴史が長い「伊予灘ものがたり」について取り上げる。
伊予灘ものがたりの概要
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2014年に運行開始されたものがたり列車で、ものがたり列車の中では最も歴史が長い。かつては普通列車として運行されていたが、車両の老朽化にともない2021年末で運行を終了、その後2022年4月から新たな車両で運行を開始した。
愛媛県の松山〜伊予大洲間、松山〜八幡浜間で1日あたりそれぞれ1往復運行される。それぞれの列車に名前がつけられ、午前中が「大洲編」と「双海編」、午後が「八幡浜編」と「道後編」となっている。
ものがたり列車の最大の特徴はやはり食事である。4本の列車にはそれぞれ時間帯に合わせて違った料理が提供される。例えば13時台に松山を出発する八幡浜編の食事は松山に店を構えるフレンチ「レストラン門田」提供のミニコースだが、折り返しとなる道後編はパン屋「Petit Paris」監修のデザートセットである。いずれも予約が必要だ。
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ただ、食事を頼まなくてもものがたり列車は十分楽しめる。例えば地元のスイーツをふんだんに使用した季節のケーキセットは、時期に合わせた甘味を楽しめる。
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フィオーレ・スイート
伊予灘ものがたりは3両編成で運行される。1号車 茜の章、2号車 黄金の章は座席が並んでいるが、3号車の陽華(はるか)の章は全く異なり、完全貸切の個室である。2~8名の団体で予約を取れば、ほかの人に邪魔されることもなく身内だけの時間を楽しむことができる。フィオーレ・スイートはこの3号車の個室に付けられた名称である。アテンダントも専用の人が用意され、まさに至れり尽くせりの
サービスである。
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列車外からの歓迎
ものがたり列車の車内サービスは素晴らしいのだが、おもてなしは列車内にとどまらない。列車外からの「お手振り」や地域の人による歓迎が加わって初めてものがたり列車の「おもてなし」は完成する。中には大漁旗を振ったり、お手製の垂れ幕があったりとなかなか手がこんでいる。これらに応えるため、アテンダントはお手振りのたびに車内放送を流す。食事、お手振り、途中下車などをしていると観光列車にありがちな「のんびりゆったり列車の旅」にはならず、かなり忙しいことは覚悟しておかなければならない。しかし忙しくてもあまり疲労感は残らないのが不思議なところである。
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みなさんもぜひ、四国を走るものがたり列車、特に伊予灘ものがたりに乗ってみてはいかがだろうか。フィオーレ・スイートに乗らないのであれば、四国グリーン紀行というきっぷがオススメである。