優しい嘘
前回の記事の続きです。
自分が癌だってわかったら、知りたいです?
それと、
大切な人ががんだってわかったら、それ教えたいです?
僕は自分ががんになったら末期で余命幾ばくかだろうと知りたいです。
でも大切な人ががんになったらそれ教えたくはないです。
母の主治医から聞いたのですが、がん治療を開始するのって本人への告知が必要ってガイドラインで決まってるらしいんです。
先生曰く、法律で決まってるわけじゃないんだけど、がん治療って副作用が伴うからそれを知らないままするのは倫理的に問題があるから、とのこと。
先生からそれ聞いた時、こいつ何言ってるんだって思いましたし、僕は倫理なんてクソ喰らえってタイプの人種なんで、一生理解できませんけどね。
なんで告知したくないのかっていうと、
余計な心労かけさせたくないからですよ。
ただでさえ体調面で苦しんでいる、そんな中であなたは末期癌ですなんて言われたら不安で仕方がないでしょう。
でも父は治療させたいといい、僕も症状が良くなって少しでも寿命が伸びればとそれは同じ意見だったのでしょうがないことだと思ってたんです。
思ってたんですけどね、一昨日までは。
昨日の面会の時に先生に話があると呼び出されました。
そんとき頭真っ白になりました。詳しい医学用語とか数値とかハッキリと記憶できなかったので覚えてる限りで書きます。
数日ごとに数値とってデータ化しているとのことですが、なんか急激にいろんな数値が跳ね上がったって言われました。
でも母は別にいきなり体調悪化したとかじゃないし、それなりに元気はあるように見えるんです。
これね、どういうことかっていうと、
先生曰く
「改めてClass-Vで癌で確定でした」
「本当によくある話で、亡くなる1~2週間前はこうなる」
「こうなってしまったらもう無理、治療も間に合わない」
「そもそもこの状態の患者を受け入れてくれるがんセンターもない」
「今日明日死んでもおかしくない」
いやもう、唖然だよね。
急性期の治療は終わったから退院先はどうしようとか、
そういう計画を先生と話し合いながら立てていた中での唐突な死の宣告ですよ。
ほんまやめてくれって感じよな。
でね、病院にキーパーソン登録しているのは夫である父ではなく僕であって、基本僕に最終決定権があるので、
がん治療が間に合わないなら今どうすべきか、ということで、
母本人に、癌であることは告知しない、という選択をしました。
万が一の際の延命措置っていうのもあって、心肺停止したときに無理矢理にでも蘇生させるかってものなんですけど、
そうなった時、戻ってこれても1時間が限度と聞かされていて、病院との距離的に僕は間に合わないけど父なら間に合うかもしれないので父に相談したところ「してほしい」と言ったのでそのまま先生に伝えていたのですが、
先生から「戻ってこれる確率のほうが低いし、胸の骨バキバキになって苦しみながら死にます。本当にするんですね?」
って言われたから、「やめてください」としか言えなかったよね。
僕が告知しない、延命措置をしないという選択をとったのは、
母が少しでも不安を抱えず、苦しみを感じずに安らかに逝ってほしかったからです。
僕や先生方は今、母に嘘をついています。
母は「退院したら一緒に散歩しよう」とか「今度あれが食べたい」なんて口にしています。
僕も悟られないように必死に今後の話をしています。
自分が終末期の癌で余命あと僅かなんて思ってもいないです。
この選択は正しかったんだろうか。
せめて最期は安らかに、と優しい嘘のつもりだったけど、
もしかしたら僕はとんでもない親不孝者なんじゃないだろうか。
そういうことがあったから、近況を共有するべく父と電話をして全てを伝えたのですが、
「そうか・・・間に合わなかったか・・・」
「じゃあ明日俺も一緒に面会行くわ」
なんて言い出したんです
僕は母が入院してから毎日面会に通ってるけど、父は1回しか行ってないのもあって薄情者だと思ってたから
「どしたん?急に」
ってちょっと煽り気味に言ったんです
そしたら「だってもう会えないかもしれないだろ・・・・」
って泣きそうな声で言うんですね
そんなわけだから今日父と一緒に面会に行ってきたわけですが、
最中、父泣き出しました。
まず僕の両親は決して夫婦仲が良好とは言えないです。
むしろ最悪。喧嘩は絶えない。
父はむしろ母のことを嫌ってるもんだと思ってたから、
「お前母さんのために泣けるんや」
って思ったのと同時に
「大の男のくせに泣くんじゃねえよ」
ってちょっとイラっとしましたね。
涙が出ちゃう男のくせにって、はじめてのチュウじゃねえんだからさ。
僕は長男だから我慢できたけど父は次男なので我慢できませんでした。
だってね、泣かれると、
母が不安がるじゃないですか。
死期が近い人って、そういうのに敏感になるから、
普段泣かないような父が泣いたり、そういう変化でもしかしたら自分は、って察知しちゃうかもしれないじゃないですか。
僕が一生懸命元気づけたりメンタルケアしてるんだから、やめてくれよって感じですね。
でもね。
母は「幸せだ」って言ったんです。
僕が毎日面会に来てくれることが、母にとっての幸せだったそうで。
母から聞いたんですけど、看護師の人と僕のに関する話をすることが結構あるみたいで、
毎日面会に来てくれる優しい息子さんですねなんて言われたらしい。
でも、他の人が1日、2日おきなのに僕だけ毎日来るもんだからついに看護師の人も僕の心配をしだしたとかなんとか。
僕にとってはそんなことはどうでもよくて、母と過ごせる時間を少しでも確保できればそれでいいです。
前回も書いたけど、本当に後悔したくないから。
自分は幸せだったって思いながら逝ってくれる、残された家族にとってこれ以上嬉しいことはないですね。
で、実際に幸せだったのかというと、
母はめちゃくちゃ幸せ者だと思いますよ。
これ、自画自賛とかじゃなくて本当に。
自分のことを気にかけて毎日動いてくれる息子がいる、自分のために泣いてくれる夫がいる。
母が人生の中で培ったかけがえのない宝物だと思います。
多分僕が母と同じ状況になって死ぬとしても、僕のために動いてくれたり泣いてくれる存在っていないと思います。
せいぜい、友達が「あー、あいつ死んだのか」ってちょっとは悲しんでくれたらいいなぁ。
僕が次に顔を出す時。
多分、母が亡くなって、全て終わってからになると思います。
人が死ぬのって、めちゃくちゃ大変なことなんですよ。
死にました、悲しいです、ハイ終わりじゃない。
生きてる間にあと何ができるか、亡くなったらどうすればいいか、その後の諸々の手続きとか、全部ひっくるめて綿密に計画しなければならない。
ましてや僕は一人息子で長男。
僕がしっかりしなかったら誰がしっかりするの?って話なわけです。
本当に他人事じゃないですよ。
僕も母が癌だなんて思ってもいなかったし、今でも信じたくない。
癌に手遅れはあっても大げさはありません。
家族を大切に想うのであれば、年に1回とかでいいから、必ず検診に連れていきましょう。
このnoteはがんと闘病中の方、それを支える僕と同じ境遇の方にとって、
何か参考になれればと思い始めたので感じてくれるものがあれば幸いです。
最期の時、幸せだったって思えるような人生だったらいいですね。