第7話 キャバ嬢との睨めっ娘
気づいたらまたキャバクラにいた。
T社長とLINEをしていた。最近うちの近所で一人呑みする立ち呑みの店がある、と言ったら「今度連れてってよ」と。
T社長とは中学、高校で同じ部活だった。お酒や音楽が好き、という共通の趣味がある上に二人ともフットワークが軽いこともあり、仲がいい。
独身時代に都心に住んでいたときも、T社長も都心に住んでいたからお互いにカジュアルに呼び出しあっていた。そして今もまた近所に住んでいるのだ。危険だね。
駅チカの立ち呑み屋で待ち合わせて飲む。そして「河岸を変えようか」という話になり外を歩いていたらまたキャッチが。
「New Open記念、ファーストセット40分900円」と書いたポケットティッシュを渡される。
こっちだってマーケティングのプロだ、900円で済むはずがないことくらいわかっている。でも言ったはずだ、キャバクラは嫌いじゃないんだ。
「行きますか」
そうして僕らは夜のビルの中に吸い込まれていった。
店に入ると、狭い入口近くに女の子が10人くらい立って整列していた。
なんだか圧迫感があって怖いぞ。
昔テレビでみたタイとかの売春宿にズラッと女の子が整列している様子みたいだ。
それでも「別に平気だから」という風を装ってその前を横切ると、一人の女の子が目に飛び込んできた。
「ちょっとタイプ」
わずか1.5秒の間に10人の中から識別して判断。日頃インスタをばしばしスワイプしているせいで動体視力が鍛えられたか。
とはいえ別に深追いするわけでもなく通されるがまま席に着く。
と、いきなりその子、アイカちゃんが僕の隣に付く。ビンゴ!
話をしてみる。うんうん、オレの嗅覚衰えてないぜ、いい感じいい感じ。
歳も27歳。前回行ったときに付いてくれた子は21歳だったから僕の半分の歳にも満ちていなかったけど、今度は半分はクリア(だから何だってんだ、だけど)。やっぱりある程度侘び寂びがわかる年齢じゃないとね。
楽しく話していても周囲の様子を後ろの目で見ていてボーイの動きもチェック。「気が利くね」とそのことを指摘すると、「気づかれているようじゃまだまだだけどね」と返してくるところも中々僕好みだ。
前回はトークが勝手に口から淀みなく出るちょいエロオヤジな自分を楽しんでいたけど、今回は違う。話していて楽しいぞ。
いいね。
おっ、僕には見える。アイカちゃんと僕が楽しく過ごしているバース(世界線)が。
これはなんだ、あれか?
恋なのか?
恋なのか?
もちろんガチ恋ではないけど、虚実入り交じる夜の世界での疑似恋愛としては100点満点なのではないか。
楽しいぞ。うん、楽しい。
いやあ、楽しいね。
と満喫して家路に付く。
そして翌日Spotifyのプレイリストを聴いていたとき、流れてきた曲に愕然とする。
えっ、この歌ってそういうこと?
まさに今の僕の状態じゃないか。
AIはこれをここで選曲してくる?スゴくね?
そう、Spotifyが僕に聴かせたのは友成空さんの「睨めっ娘」。
離婚したばかりの52歳にはたまらないヒリヒリした緊張感。
危ない別品さんのあの子との顛末はいかに?
(つづく)
あっちゃぁ あっちゃぁ またやった
惚れたら最後とわかるのに
やっべぇ やっべぇ 眼が合った
危ないあの子は別品さん
アタシとあなた
ぴったりな気がするの
愉しいことして游びましょ
本当ですか 嘘ですか
アンタに恋していいですか
本当ですか 嘘ですか
気づいた時にはいっちゃった
泣いたら負けやで
あっぷっぷ