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第4話 「あっ、オレ、エロい」
持つべきものは友だちです。
離婚を聞きつけた友だちが飲みに誘ってくれました。
やはり中年になってからの離婚で参っちゃう人も多いので、心配してくれたのでしょう。あと、正直いうと結婚中はなかなか僕のことを誘い出しにくい空気があったんだと思います。男女問わず、配偶者によって誘いやすい友だちと誘いにくい友だちってありますよね?僕の場合は後者だったので、ここぞとばかりに声を掛けてくれたのかも知れません。
中学、高校の同級生4人で囲む酒。僕の離婚話は最初の5分だけ。後は50を越えたオジサンたちのただの飲み話。気兼ねがなくていいね。
1次会は18時と早めのスタートだったので(若い頃はこの時間のスタートは設定できなかったね)、しっかり飲んでもまだまだ宵の口。
なんとなくスナック的なところに流れようか、という雰囲気になったのだけれども、気づいたらT(なかなか離婚届に判子を押してくれなかった離婚証人)がキャバクラのキャッチと交渉を始めてます。どうやら前にもそこの店に行ったことがあったようです。
キャバクラですか、それも一興。
皆さんってどれくらいキャバクラとかいくんでしょうね。僕は結婚中は海外が長かったこともあって行ったことはないのですが、正直結婚しているから行っちゃダメ的なところだとは思っていないですし、独身時代は行ってたこともありました。
まあ、別にハマったという程通ったことはないけど、風俗とかは興味がなかったのに比べるとキャバクラの方が楽しんでいました。たぶん好きな方だったかも知れません。
しかしこちとら50過ぎ。ぶっちゃけ、色々な意味で枯れて始めているとも思っていたわけです。50過ぎてキャバクラ的疑似恋愛もなかろうと。
とはいえ、こういう離婚祝(?)というめでたい(?)席、久しぶりにキャバクラもいいのではないかといざ出陣です。
店に入るとキャバクラは20年前と大して変わっていません。キャバクラです。
席に着くと女の子が付く。うん、大丈夫。ここまでは僕が知っているのと同じキャバクラ。
そんな気持ちでなんとなく様子を伺いながら飲み始める。そう、飲みの場は団体戦なのだということを10代の頃から徹底的に叩き込まれてきた僕は、キャバクラだからといっていきなりマンツーマンで口説きに入るというような蛮行はしないのです。
とりあえず場を作るか、と話を始める。今の言葉でいうといわゆる「回し始める」という奴ですか(うわっ、恥ずかしい)。
するとあれ?何かがおかしい。いつもと違う。。
なんでオレのトーク、こんなに軽妙なんだろう???
なんか合コンを仕切っている20代後半のサラリーマンみたいだぞ。
猛烈な違和感を覚える。
だってこっちは50過ぎ。普段は小難しいことを言いがちな頭よさげで、ちょっととっつきにくいみたいなイメージをもたれているオジサンだぞ。こんな現役感バリバリのイケてる(多分。。)トークがなぜ口から出てくるんだ??
確かに若い頃はキャバクラを楽しんだこともある。でも、もうキャバクラなんて一生縁のないところだと思っていた枯れたオジサンだぞ。何かがおかしい。
そうしているうちにT社長(友人Tのこと。ここからはT社長でいく)の方にチラッと目をやると、前回指名していただろう女の子とマンツーマンモードに。こちらも流れるようにスムースにギアを入れ替えてマンツーマンモードに。
隣に座っているのは学生さん。こちらの歳の半分にも至っていない。ほぼ娘同然。それでも流れるトークは止まらない。
「こういうお店馴れてそう」と言われるが、こっちは20年ぶり。
っていうか、キャバクラ馴れてそうと言われるのは微妙すぎる。はっきりいってカッコ悪いぞ。
それでも僕の舌は止まらない。もちろん節度はわきまえる。しかし夜の帳は降りているのだから、それなりに夜の世界の攻防戦。
正直、隣についてくれた子は好みというわけではなかった。それでもついつい「男と女のラブゲーム」を楽しんでしまう。
遠くの方で「りこたろ、変わんねぇな」という声が聞こえる。
+++
別に貞淑な夫であろう、とことさらに力んでいたつもりはない。無理をして自分を抑えていたつもりもない。
キャバクラ的な楽しみなんてもはや自分には関係ないものだと心から思っていた。
でも、久しぶりにキャバクラにいって楽しんで、自分の中の雄の部分、エロい部分がまだまだこんなにあるんだということに心から驚いた。
元々はどこ吹く他人なんだから、結婚して共同生活をするようになると互いに何かをガマンする。ガマン自体はあまりいいことじゃないかも知れないけど、お互いがお互いを尊重しあったら、ある種のガマン的なものが生ずるのは当然だと思う。
ただ僕の場合は、自分が思っていた以上に自分のことを抑圧していたんだな、と気付かされた。もちろんだからといって、結婚生活中にキャバクラ通いをしたり、浮気をしたらよかったということじゃない。
どうしたらよかったのかは、正直今でもわからない。
ただ確かなのは、僕は無意識に自分を抑圧していたということ。
そしてもう一つ確かなのは、今は自分を抑圧する理由がなにもない、ということだ。
エロい52歳というのは、ちょっとばかし微妙かも知れない。
でも仕方がない。エロいんだから。そしてきっと少なからぬ52歳は、自分に素直に生きたらそれなりにエロいはずだ。
りこたろう、52歳。
これからはエロいオジサンとして生きることになるだろう。
52歳としてのたしなみは守りつつ、自分を偽らず。
(つづく)