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【小説】女衒ボーイズ〜ワーママクライシス〜④

この小説は、スタエフで市場性と逆算思考さんが配信されている妄想ネットフリックスドラマ「女衒ボーイズ〜ワーママクライシス〜」の解説をベースにし、もしも妄想ネットフリックスドラマがヒットしてノベライズが発売されたら、という更なる妄想をもとに書き下ろした内容の第4話です。
内容は実際の人物、団体等には一切関係ありません。

元となった市場性さんの配信はこちら

前回のストーリーはこちら
1話から読む場合はこちら。

尚、ノベライズ版では「何故ワーママたちは自殺したのか」の謎を強めるため、音声配信に比べて会話内での情報を少し減らしています。加えて、冒頭に多少ですが性描写が含まれますのでご注意ください。
では、本編どうぞ。

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女衒ボーイズ〜ワーママクライシス〜 第4話
原作(仮想ドラマの語り部) 市場性と逆算思考
ノベライズ キモトリコ
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仄暗い一室で、男と女が、絡み合っている。
キングサイズのベッドの上、男は女を後ろから執拗に責めたてていた。男の隆々とした背中には一面に女を喰らう毒蜘蛛の刺青が彫られている。男も今まさに、目の前の女を喰らっていた。女の長い黒髪からは白いうなじがこぼれ、瞳が潤んでいる。程なくして女が達したところを見届けると、男も満足げに女の中で果てた。

男がベッドの上で大の字になると、女は男の腕に頭を持たせかける。
薄明かりに照らされた室内は瀟洒なしつらえで、カーテンの隙間から見える夜景はこの部屋がかなりの高層階にあることを示していた。
女は、男ーー江口の頬に軽く口付けると、深い満足のようなため息を漏らした。江口はそんな女の頭をぞんざいに撫でながら話しかける。
「最近、店の方はどうなんだ?」
「終わったらすぐに仕事の話?いやね」
「お前だって馴れ合いみたいな関係は求めていないだろう?」
「どうかしら」
女ーー麻生はふふっと妖艶に微笑んだ。歳の頃は40をいくぶん過ぎた位か。まさに女盛りと言った風情で、吸い付くような白い肌に艶やかな黒髪が汗でまとわりついている。匂い立つような色気だ。
「おかげさまで、店の方はなんとか。あなたの方はどうなの?」
江口は苦笑いしながら、女の胸の先端ををつねった。
「痛っ。ちょっと、何するの」
「知ってて聞いてくるお前の方が悪い」
「それは私が悪かった、けど……ねぇ、ちょっと。今日はもう、おしまい」
麻生は声に欲情を滲ませつつ、悪戯を止めない江口の手を優しく掴んだ。
「このところ、騒がしい出来事が続いていたものね」
「ああ、参ったよ。まさか立て続けに女どもがとびおりるなんてな」
江口は事態を思い出したのか、苦々しい表情を浮かべる。
「松坂にはこの前、女の管理についてきっちり話しておいた」
「あんまり、彼のこと責めないであげてね。もとはと言えば私のせいでもあるんだし」
麻生は同情的な言葉とは裏腹に、少し蔑むように薄く笑った。
「松坂くん、メンタル弱そうだし」
「まぁ、な」
江口は、麻生がこれ以上応じる気がない事を察して、ベッドサイドのタバコに手を伸ばす。
「ちょっと、寝室では吸わないでっていってるでしょ」
「一本ぐらいいいだろ。しっかし、お前はいいカモ見つけてきたよな」
「頭の弱いワーママ?確かに見つけたのは私だけど、有り金以上に搾り取れるカモだって気付いたのはあなたじゃない」
「そりゃま、こちとらプロだからな」
江口はそう言って深々とタバコの煙を吸い込んだ。

「音声配信のトップパーソナリティの話ってね、ほんとにしょうもないのよ。あなた、聞いたことある?」
「お前の話ってことか?」
「意地悪ね。まぁ、私の話も似たようなものだけど。みーんな、おんなじような話ばっかりで、あれでなんで人気が出るんだかさっぱりわからないわ」
「そのおかげでお前の配信も人気があるんだろ?いい事じゃないか」
「それはまぁ、そうなんだけど」
麻生はベッドから降りると、重そうなクリスタル製の灰皿を持ってきて、江口の横に置いた。
「灰、落とさないでよね」
「わかってるって。でもま、あれだろ。同じ組の出だからそりゃ話す内容も似るんじゃないか?」
「組なんて言い方しないで。塾生よ、塾生」
麻生は一時期、松下塾というコミュニティに入っていた。そこでは、自分の強みを活かして働く方法や、良質な仲間との活発な交流、会社にとらわれない資産形成などに加え、健康にまつわる話など、いわゆる意識が高いと言われるような内容を講師の松下直々に教わり、塾生は日々それを実践し報告していた。麻生は肌が合わず入って一年足らずで辞めてしまったが、塾の卒業生の中には活躍している人も多く、今のBCのトップパーソナリティもその一人だ。
「今みんなが発信していることって、みんな塾長の言葉の焼き直しばっかり。それでも人気が出るんだから、笑っちゃうわ」
「ウイスキーも原酒じゃ飲みづらいだろ。アッパラパーの女どもには炭酸で薄めて砂糖でも足してやった方が飲みやすいって訳だ」
「確かに、そうかもね。私も配信を始めてみてわかったけど、何かに縋りたい一部のワーママたちは、口当たりの良い夢を探しているのよ。最初に共感できるような悩みの例を出して、さもそれが解決できるように話してあげる。すると、自分の求めていた答えがそこにあるように勘違いしてくれる。そんなやりとりを何回か繰り返せば、あとは簡単。欲しい言葉をかけてあげるだけで、高額の講座だろうと、どんどん金を支払うようになったわ」
「悪い女だな」
「あなたに言われたくないけど」
麻生は肩をすくめた。
「でもこの世界にきて、つくづくわかったわ。お勉強ができるのと頭の良し悪しは全然別ね。私のセミナーにきてくれるワーママたちも、結構いい大学出てる人が多いのよ。だけど、全然ダメ。社会を学校の続きみたいに思ってる。社会に出たら決まった答えなんてないのに、まだどこかに正解があって、誰かが答えをくれるって信じてるんだから」
「お前はさながらワーママ学校の先生ってわけだ」
「そういうことね。そして、優秀な生徒の皆さんは、悪い先生のいいなり」
「でもそっちでそんなに稼げてるなら、店の仕事の方はもういいんじゃないか?」
「馬鹿言わないでよ、定期収入は家計の要なんだから。一気に稼げるようになった仕事は一気に稼げなくなることがあるって、あなたが教えてくれたんじゃない」
「そういや、そうだったな」
「とはいえ、稼げるうちは稼がせてもらいます。来週も新規受講生を集めるためのセミナーがあるのよ。しっかり準備して臨むわ」
そういって嫣然と微笑む麻生からは、江口と同じく狩る側の人間のオーラが滲んでいた。

第五話に続く。

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