航空相撲の稽古風景

航空相撲の基礎稽古は、かつて土俵が地面にあった頃からさほど変わっていない。
四股を踏み、鉄砲を打ち、すり足と股割りによる肉体作りは欠かせない。

全身にバーニアと衝撃吸収オーバーボディを着用し、大空を土俵に見立て高速肉弾戦を行う航空相撲において、しなやかな五体操作は必須のテクニックだからだ。
航空相撲の設立当初、航空相撲は相撲でないからという理由で多くの航空力士たちが旧来の稽古を捨てたが、どれも大成はしなかった。

基礎稽古を終えたら、いよいよバーニア制御とぶつかり稽古の時間だ。
まだ未熟な若手力士たちは低空でのホバリングを学び、慣れてきた力士は空中での姿勢制御、そして互いにバーニア噴射しながらのぶつかり稽古に臨む。

「ゴゥ…!」

立ち合いは一瞬だ。一瞬でバーニアを噴かし、相手の体勢を崩すのが航空相撲の基本だ。
その一瞬を制した力士が勝つ。

『ノコッタ!』

内臓スピーカーから取組開始の合図が流れ、取組相手は真っ直ぐに突っ込んでくる。
当然こちらも真っ直ぐといきたいところだが、極限まで姿勢を下げ、相手の懐に飛び込むのではなく…下をすり抜ける!

「えっ!しまっ…」

取組相手は一瞬狼狽える、その一瞬でいい。
バーニアを噴かして上昇、相手の脚部を掴み、天地逆転の姿勢をつくる。
そのまま土俵を割るまで突撃…実戦ではそうなるところだが、これは稽古だ。勝負のついた相手を仕留めるような野暮はしない。


「いやあ流石です大櫛羅関、見事な『モナコ落とし』でしたよ」
稽古を終えた頃合いを見計らい、番記者が詰めてくる。『モナコ落とし』とは先程の落下技の呼び名で、モナコ巡業で初披露した事からそう呼ばれている。

「まだ下を取ってからの体捌きに課題があります。後は本場所で調子を出せるよう、稽古に精進するのみです」
「ええ、今日からの本場所、期待していますよ」

稽古を終え、全員で食事を摂った後、いよいよ本場所となる聖地へと向かう。
両国を離れた航空力士たちは、誰にも危害が及ばない海上を、新たな聖地として定めている。

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