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【音楽遍歴】2004年に行ったライブ①
はじめに
2003年はMagic Rock Out、Fuji Rock Festival、Summer Sonicを全日見に行くなどライブ三昧だったのですが、一転して2004年はどのフェスにも行かず、単独公演に行った数も8本とそれまでと比べると比較的少ないものでした。
今回はそんな中から、グラスゴー発のアマチュア風プロフェッショナル音楽集団Belle & Sebasitan、暑苦しさ&熱苦しさ無限大Muse、またしても狭い空間での大人数ライブSpiritualized、一体何故この場所で?Radioheadの、中堅どころからビッグネームの4本のライブに関する出来事について書きたいと思います。
ライブ情報
Belle & Sebastian(2004年1月25日@Zepp Osaka)
Muse(2004年2月11日@なんばHatch)
Spiritualized(2004年3月11日@心斎橋クラブクアトロ)
Radiohead(2004年4月14日@インテックス大阪)
The Polyphonic Spree(2004年9月6日@心斎橋クラブクアトロ)
Kasabian(2004年11月9日@IMPホール)
Franz Ferdinand(2004年11月27日@Mother Hall)
Keane(2004年12月15日@なんばHatch)
出来事もろもろ
Belle & Sebastian
2年前のライブは本当に楽しかったけど、最新作"Dear Catastrophe Waitress"に何とも言えない違和感を感じたこともあって、チケットの整理番号は30番台だったけど、開演時間の10分ほど前に到着。会場は8割くらいは埋まっていたけれど、前方にも充分なスペースがあったので前方センターへ移動。開演時間が近づいても、いわゆるロックのライブとは違い、緩くフワフワした雰囲気。予定時刻から15分くらい遅れておもむろに客電が落ちて、メンバーが登場。
インストゥルメンタル"Passion Fruit"の最初の音が鳴らされた数秒後には、もう見事なまでのベルセバワールドが構築されて、モヤモヤ感は瞬時に消え去りました。2曲目の"Expectations"では忙しくストロークを刻むStuart Murdochのギターをにバイオリン四重奏が厚みを加え、トランペットが加わり、Stevie Jacksonのハモりがプラス。発表から10年近く経っても瑞々しさを損なわない楽曲の強靱さと、その楽曲を慈しむような丁寧な演奏力は圧巻です。。
ライブではテンポを上げたり、ギターを強調したり、アグレッシブなアレンジにしたりすることが多いですが、Belle & Sebastianの場合は各パートのバランスが忠実に守られつつ、曲全体の温度感や雰囲気を壊すことなく、躍動感だけが強調されています。そういう意味では彼らは確実にライブバンドですが、それは実は諸刃の刃で、序盤こそシッカリと楽しめた新作の曲も、途中からアルバムで気になっていた下世話さが顔を出し始め、初期の楽曲の輝きが全く失われていないのに対して、既に手垢が付いて輝度が落ちてしまい、そのクオリティの絶対的な差が浮かび上がる結果になってしまいました。
セットリストはコチラ。
Muse
2003年度ベストアルバムが"Absolution"だったこともあり、待ちに待った単独来日。会場のなんばHatchのキャパは1700-1800人程度で、既に様々なフェスティバルのヘッドライナーを務めている彼らのライブをこの広さで見ることができるのは非常に贅沢。
ライブは"Absolution"の仰々しさを詰め込んだ"Apocalypse Please"でスタート。大袈裟な照明やキーボードの前面に組み込まれたネオンの怪しげな光との相乗効果で、一瞬にしてアルバムの雰囲気が再現。その世界はまさに「オレ流」で、冷めた感じでシーンと距離を取るのではなく、熱くなりまくってシーンから浮いてしまう姿が強烈。その一方で、ステージの様子をリアルタイムにエフェクトをかけてスクリーンに投影した映像は、目の前の熱いパフォーマンスを適度に抽象化していて、ステージの熱さを程よく中和するというクレバーな演出。
世界観の統一感は"Absolution"が圧倒的ですが、楽曲の破壊力の面では"Origin of Symmetry"も負けず劣らずで、要所で"Space Dementia"や"New Born", "Plug in Baby"などの"Origin of Symmetry"の曲が配置され、"Absolution"で構築したMuseワールドのフレームワークに渾身のエネルギーを注入します。特に、本編ラストの"Plug in Baby"は圧巻のひと言で、有無を言わさない力でねじ伏せた感じ。
ライブラストの"Stockholm Syndrome"では、白い巨大な風船がステージからフロアに次々に投げ込まれ、その数は15個。曲が終わっても割れない風船が何個か残っていたので、メンバーがギターを使って割り始め、それでも全てが割れなかったので、メンバは演奏をリスタート。しばらくオーディエンスとメンバが風船と格闘した結果、見事に全ての風船が割れ、その時点でライブは終了。
シーンのコンテキストを完全に無視するリスクを背負いながらも、他のバンドとの圧倒的な優位性を生み出しているMuseは、クリエイティビティの追求とマスからの支持を両立した、有る意味で奇跡的な位置。シーンのメインストリームから乖離しているにも関わらず、間違いなく今のシーンを代表するという不思議な最強のバンドの一つです。
セットリストはコチラ。
Spiritualized
定刻を少し過ぎた頃、BGMがフェードアウトされると同時に照明が落とされ、オルガンのような音のループが5分ほど続いたところでメンバーが登場。今回は残念ながら生ブラス隊はおらず、ボーカル&ギター、ギター×2、ベース、ドラムス、キーボード、パーカッションの7人編成。そして、Jason Pierceはステージの右端に座って、今回も横を向いたまま。
"All of My Thoughts"の軽めのサイケデリアで始まると、ロックの"Electricity"、スローサイケデリアの"Shine A Light"、ポップブルースの"Walking with Jesus"と来て、最新作"Amazing Grace"から"Hold on"へ。音の少ないイントロから始まり、言葉を選ぶように丁寧に歌い上げていくJason Pierceのボーカルに、次第にギターが重ねられる必要十分なアレンジは曲の秀逸さが表れており、「起」を完璧に締めくくりました。その後は、痺れるロック"She Kissed Me"、ゴスペル"Lord Let It Rain on Me"、緩やかな感情変化と広いダイナミックレンジを持つ"Oh Baby"と、会場の温度をゆっくりと温めつつ、序盤のバラエティの豊かさと力強さを受けて、「承」のパートを表現していました。
そして、アルバムではちょっと物足りなかったプリミティブさがライブの「場」を借りて威力を発揮し、ジワジワとアチラ側の扉のノブに手をかけ始めます。"Come Together"で生ブラスをフィーチャーして欲しかったというのは贅沢な望みかも知れませんが、何はともあれこのくらいからライブの様相が変わり始めます。背後からのライティングに浮かび上がったメンバーは楽譜で表現できるのかと思うようなフレーズを発し続け、個々は好き勝手演っているようなのに、全体の中で必要不可欠な役割を果たしているという凄さ。それまで敢えて控えてきた狂気の世界をこの一点で解き放ったような凄みを感じさせるノイズギターとドラムのロールが叩き出された瞬間に全ての音が停止。
この日Jason Pierceが放った言葉は、この後にボソッと呟いた"Thank You"のひと言のみ。曲間はオーディエンスからの無駄な声援を抑制するかのようにSEが流され、音のみによる一方向のコミュニケーションにも関わらず、閉塞感や圧迫感、抑え付けられたような感じが全くない不思議な感覚。サイケデリア一辺倒ではない彼らの音楽の底力を目の当たりにできた夜でした。
Radiohead
去年のサマーソニック以来というのは、急速に巨大化したバンドの状況を考えると非常に短いインターバルでの来日。この日は彼らにとっても久々のライブで、日本とオーストラリアを回る短いツアーの初日。会場にはレゲエっぽい曲が流されておいて、彼らのライブならではの渇望感や異常なテンションのようなものは感じられません。ただ、開演予定時刻を少し過ぎてメンバーが登場したとき、瞬間的にフワフワした空気が収縮したような感覚はRadioheadならではでした。
ライブ序盤は、マイクがハウリングを起こしたり、スクリーンを映すカメラのアングルがズレたり、映像にノイズが乗りまくったりと、セッティングの甘さが目立ちました。その究極の形が、メンバーがステージ袖のスタッフに手を下に動かすようなジェスチャを続けた挙げ句、Thom Yorkeが「どうしようもないので、次の曲に行こう」といって演奏を止めてしまった"Backdrift"。常にハイクオリティのライブを産みだしていたチームだったのでちょっと驚き。
この日感じたのは、新しめの曲も昔の曲も、この時点のRadioheadのポジションに立って再構築されていたこと。特にシーケンサやリズムマシンを使ったエレクトロニカっぽい曲ではビートの強調が目立ち、ダンサンブルな面がデフォルメされていたのが印象的でした。"Myxomatosis"では太いアナログシンセの音を後ろから支えるリズムトラックが前面に現れ、"Where I End And You Begin"でもリズムとベースが強靱化されていて、インスタント感覚なキモチヨサが強調されていました。
ただ、アンコールになると、比較的原曲に沿った表現が目立っていて、最たるものは別格の美しさを放つ"No Surprises"、この日最も感情のダイナミックレンジの広さが現れた"A Wolf at The Door"では若干のフェイクを入れながらも、サウンド自体は産み落とされた時代の音と大きく変わることはなし。2度目のアンコールで"I Might Be Wrong"と"Everything It's Right Place"を演奏し、サンプリングの音が響く中、スクリーンに"FOREVER"の文字が流れて約2時間のライブは終了。
エレクトロニカへの傾倒を強め、スマートさとクールさは増幅されていましたが、身体の中を直接掴まれるような激しさはなく、完成度の高い曲を曲をポテンシャルの高いミュージシャンが演奏したという印象。ツアー開始直後の影響もあったのか、ダメダメとまでは言わないまでも、Radioheadのライブとしては満足できなかったというのが正直なところです。
セットリストはコチラ。
おわりに
今回は2004年に行ったライブの内、上半期に行った4本のライブについて書きました。Museはキャリアの中でも成長が著しかった時期のライブで、この後にも彼らのライブを見ていますが、このときのライブが最も彼らの唯一無二の世界観が感じられたもののような気がします。
そういう意味では、Spiritualizedの年が経とうが、会場のキャパが変わろうが、言い訳一つすることなく、常に自分達の世界をハイクオリティで表現するところには感服します。Belle & SebastianもRadioheadもそうした実力は持っていて、ライブに行くと楽しめる訳ですが、この前後をピークに少しずつ魔法が溶け始めた感じもあります。