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クソリプ屋
先日、国際ベンチャー会議(IVC)のピッチコンテスト、Starting Grid(スターティンググリッド、略称スタグリ)に出場してきました。
スタグリは日本で最も古くからあるベンチャーコンテストの一つなのですが、今回は初のフル・リモート開催。僕も自宅でパソコンの前で必死にプレゼンしました。
結果発表までしばらく時間があるのですが、ご覧になれなかった方のために、ここでそのプレゼンの内容を皆さんにシェアしたいと思います。
私達の想い
いま、世界は痛みに溢れています。日々大量の、誹謗中傷や余計な一言、理不尽な攻撃が垂れ流される。クソリプが怖くて自由に表現できない。インターネットはそんなものだったんでしょうか?みんなが自由に使えれば、きっともっと世界は良くなるはず。人類をクソリプから開放し、インターネットをもっと自由に。それが私達の理念です。
私達のサービス名は「ピースメーカー」と言います。言葉を扱うサービスであることから、ロゴには「葉っぱ」を使いました。広げているのはバッタが飛ぶ時の羽のイメージでもあります。言葉で平和を作りたい。大空にばら撒きたい。そんなイメージを形にしてみました。
「クソリプ」には、まっとうな批判やアドバイスが含まれていることもあります。その場合、「誹謗中傷」とまでは言い切れません。しかし、私達は人を不快な気持ちにさせるものは広い意味での誹謗中傷であるととらえ、全てのクソリプを撲滅することを最終目標に置いています。
サービスイメージ
私達の実際のサービスイメージをご紹介します。
クソリプの被害を受けた情報の発信者(ここでは「インフルエンサー」としていますが、それに限りません)から私達に対策の依頼が入るところから仕事が始まります。
対策をしたいクソリプに対して、私達のアカウントから適切な返答(リプ)を投げかけていきます。1件ではなく、同時に数十〜数百のリプを飛ばします。
さらに、ツイートをした本人(クソツイ主)に対しても、DMや、本人のツイートへのリプ、コメント付きRT等を通じて、直接的にメッセージを送っていきます。これも、数十〜数百のアカウントから同時に送ります。相手から返信があった場合、それに対しても内容を解析した上で適切な返信を送っていきます。時間は短いときは30分程度。しぶとい場合は、3日程度かけて、執拗に送信を行います。
ここで審査員の方からご質問がありました。なぜ、ツイートが全て「。/」で終わっているのか?というご質問でした。詳しくはこの後ご説明しますが、我々は言語処理にAIを使っています。そのAIが自分自身のツイートを誤認して学習しないよう、区別をするために一定の記号を入れています。ここで表示しているのは最も基本的な「文末に。/」のパターンですが、他にも複数のパターンがあります。他のパターンについては企業秘密となります。
なぜクソリプを撃退できるのか?
それには2つの理論的背景があります。まず第1がクソリプの特定です。
既に知られているように、クソリプにはいくつかのタイプがあります。
論考1
クソリプを分類しました。 pic.twitter.com/H34W0lIWnT
— ジェット・リョー (@ikazombie) September 22, 2014
論考2
クソリプをタイプ別に分類してみました。ご査収ください。 pic.twitter.com/3EJcCAER7U
— sogitani / baigie inc. (@sogitani_baigie) May 18, 2020
私達は、これらクソリプのパターンをAIに機械学習させることで、「必要な批判」と「誹謗中傷」を区別することに成功しました。誹謗中傷と判断した言葉は「罵詈雑言DB」(別名「チクチク言葉」DB)に格納します。
私達のAIの精度は抜群で、DBは世界最大級です。なにしろ、学習データはネット上に無限にあります。これを使って、最も効率な方法で攻撃者に対して働きかけをしていきます。
クソリプは発信した人にも痛い
私達は、自ら構築した「誹謗中傷AI」と、そこに含まれる「チクチク言葉DB」で攻撃者に対して、一度に大量のリプをぶつけます。
クソリプが「質よりも量」であることについては、ここにインフルエンサーである、けんすうさんの素晴らしい論考があります。
また、大リーガーのダルビッシュ有さんは1枚の写真でそれを巧みに表現しました。
たまーに来る誹謗中傷をスルーしただけで対処法わかってますって感じの人へ。
— ダルビッシュ有(Yu Darvish) (@faridyu) May 23, 2020
著名人への誹謗中傷はこんな感じです。 pic.twitter.com/eFkDIGN6gG
クソリプの痛みとは、質よりも量なんです。
私達が1回の対策で使うアカウント数は数十から最大で200件ほど。
人から突然「バカ」と言われたら腹も立つ程度でしょう。しかし、仮に道を歩いていて200人から立て続けに「バカ」と言われたら、大きな不安と恐怖を感じるのではないでしょうか?私達のやり方は、まさにそれです。対象者に対して、200のアカウントから同時に語りかけを行います。インフルエンサーならまだしも、一般の人にとっては、耐え難い分量です。
私達の火力
いつも同じアカウントを使いまわしていては、すぐにAIであるとバレてしまいます。そのため、私達は複数のアカウントを運用しています。その件数13万件以上。当初は決められた単語レベルの発信しかできませんでしたが、AIの進化に伴って、これらのアカウントは普段は相互に平和的な会話を行うようになり、今ではAIであると気づく人はほとんどいません。
私達のAIは対象者の属性を吟味・分析し、その対象者が最も弱いであろうと思われるポイントに対して、DBから抜き出したよりすぐりのチクチク言葉をぶつけます。通常であればリプの件数で数十件、多くとも1,000件喰らえば、大抵の人は鍵付きにするか、アカウントを消して逃亡します。数日から数週間はSNSを開こうともしないでしょう。こうしてインターネットが平和になっていくのです。
ビジネスモデルと料金体系
私達のビジネスモデルと料金体系についてご説明します。
Twitterの場合、ツイート1件ごとの依頼が基本です。この表の通り、FavとRTがあわせて9万件だったとしても、900円です。利用しやすい価格とすることで多くの皆様をクソリプの痛みから開放したいと考えています。また、芸能事務所や政治団体とは別途包括契約を締結し、一定の範囲内であればクソリプを気にすることなく、自由に表現活動をしていただけるサポートをしています。
私達のサービスは開始から半年程度で信頼されるようになり、現在では多くの方にご利用いただいています。今年の4月には月商1億円を突破しました。
この収益で、AI技術者とデータサイエンティストを採用しました。世界各国、全11名体制でAIの進化とDBの最適化を向上させています。
また、実は今年の2月より、もう一つ新たな施策を展開しています。
あるグラビアアイドルの女性から、「とあるプロデューサーに執拗に付きまとわれている」という相談がありました。そこで私は、そのプロデューサーになりすまして、彼女のアカウントにクソリプを投げ、AIがそのプロデューサーを攻撃するように仕掛けました。すると今度はそのプロデューサーから私達に対して「クソリプが多いからなんとかしてくれないか?」という相談を受けたのです。
これがビジネスチャンスであると私達は気づきました。
「数万人程度のフォロワーがいて、お金もある」という人には潜在的な炎上対策のニーズがあります。私達は「発火用」アカウントを用意し、狙いをつけた人物に対してその人に最も効くと思われるチクチク言葉を投げ続けてみました。約500人ほどを対象に実験してみたところ、効果はてきめんで、一週間で発火した対象の31%から受注を頂くことに成功しました。私達のサービスを利用した人は、二度と他人を攻撃しようと思わないでしょう。
こうやって潜在的な被害者・攻撃者を減らしていくことも私達の目指す未来により早く近づく道だと信じています。
なお、発火実験において私達のサービスを使わなかった人のうち約半数はSNSを辞めてしまいました。発火手法についてはまだまだ改良の余地があると考えています。
これからについて
私達のサービスは、現在12カ国で展開しています。「チクチク言葉」も国によって異なります
たとえば、イタリアでは「このツイートをマンマにみせてもいいのか?」などと書くと、50%ぐらいの確率でその日のうちにツイートが消えることがわかっています。また、安全保障上どことはいえないのですが、某国の大統領も弊社のサービスを利用しています。
さらに、今後の対応として、インスタグラムとFacebookにも対応していきます。インスタグラムについては画像認識AIを構築し、似たような画像にばかりFavをつけるなど不審な行動をしている人物は始めからブロックする機能を実装しています。Facebookにおいては、政治や経済のできごとについて「これはいけない、もっと早く改善すべき」などと無責任に息巻いている人物を老害と判定し、その投稿が他人に見られる前に自ら消すように仕向ける実験をしています。今後もプラットフォームに応じた対策を行ってまいります。
まとめ
以上が、今回のスタグリでのピッチの内容となります。
今回、私達がスタグリに出たのは資金調達が目的です。売上は急速に伸びているのですが、対応にかかるAIの計算パワーも増え続けています。
また、実は別の対策が必要になってきています。
私達たちのツイートの中には、私達だけがわかるAI判定用のコードが入っているのですが、AIがクソリプを分析する中で、私達のものとは異なる判定コードが入っていることがわかったのです。つまり、何者かが我々のモデルを盗み、クソリプ対策の対策を行っているようなのです。
これは由々しき問題です。AIには感情攻撃が効きません。
実際、最近、大手クライアントの芸能プロダクションが一社離れていきました。「ネット上にあまりにクソな情報が増えすぎてしまって、やっている意味がなくなってきたので、昔ながらの紙の会報誌に戻すわ」とのことでした。これは間違いなく私達のAIに対抗するAIが出てきたからにほかなりません。現在のクライアントがいなくなるまえに対応策を打つ必要があります。
幸い、対抗策もわかっています。AIには感情攻撃は効きませんが、処理能力を超える大量のリプライをすることで対応できなくなる(ロックダウン)することがわかっています。
私達の試算によれば、50億アカウントあれば、競合AIが出てきたとしても完全に打ち勝つことができます。クソリプを無くし、インターネットを平和にするために、なんとしても今回の資金調達に成功しなければならないのです。
キナリ杯について
【作者によるコメント】
締め切り2日前に「キナリ杯がある」というのを知り(遅い!)、これは出さないと時代に乗り遅れる!と思って必死に考えたのがこの作品です。
期間も無いことだし、星新一さんのショートショートみたいな作品が書きたいと思いました。ただ、そのまま書いては単なる真似なので、今っぽい感じ、現実とフィクションが交錯しているものにしたいなと思いました。見せ方も、小説というよりnoteっぽいものにしてみました。そのへんは実験です。
「クソリプ屋」のアイデアを思いついたのが締切の24時間前。そこから頑張って仕上げて、この作品の制作時間は13時間ぐらい。最終的にエントリーしたのは締切の7時間前でした。あらすじを考えた後は、ほとんど時間をロゴの作成やパワポでのスライド作成作業に費やしました。はたからみたら仕事してるようにしか見えなかったはず。
キナリ杯をきっかけに書きましたが、フィクション書くの、いいですね。もっと他にも書いてみようかな。