スマホでダンスビデオ撮影術_セクション2: 撮影の前に
この全6回のセッションでは誰でも始められるダンス撮影のノウハウを紹介します。
ここ数年、SNSを通じて個人が自己表現として動画を配信できるようになり、自主映画のように仲間を集めてグループで撮影すれば、もっと表現の可能性が広がると思います。特別なカメラを使わなくても、今のスマートフォンでも映画を作ることは可能です。実際、プロの世界でも、スマートフォンを使ってベースを撮影することはよくあります。
動画の撮影・編集・配信はとても身近になったものの、若いダンサーの中には、自分で動画を創作するには「何から始めていいかわからない」という声も聞かれたので、ここでは基本的な撮影方法と、映像の学校でもなかなか教えてくれない映像の文法について解説します。
セクション2:撮影の前に
2-1 カメラは誰の目線?
通常、私たちがビデオを見るとき、カメラがどこに置かれているかはあまり気にしないものです。しかし、映像を作るときには、誰の視点(ショット)で状況を説明するかを決めなければなりません。ダンスビデオは、エンターテインメントショーがベースになっているので、ステージの正面から撮影することが多いです。しかし、これにとらわれる必要はありません。例えば、次のようなショットを見たことがあるのではないでしょうか。
映画やテレビドラマでよく見かけますが、よくよく考えると、自分が野菜か何かになって、冷蔵庫の中から見ているような不思議なショットですよね。ほかにも、スケートボードを紹介する映像では、スケートボードにカメラを取り付けたり、カメラマンがスケートボードに乗った状態で撮影しているものが多いですね。カメラの位置で意味が大きく変わるのはわかりますが、なぜそのように撮影しているのか、考えてみましょう。
2-2 映像鑑賞シチュエーションと映像表現の関係
ここでは、映像が視聴される状況(シーン)、もしくはその環境について考えていきます。
作品を作る前に、鑑賞者の立場で考えてみましょう。
映像が映画館でしか見られなかった時代から、テレビ、そしてスマートフォンで見られる時代になりました。
昔の映画はフルフィギュア(人物の全身が写るショット)で撮影されたものが多く、これは芝居を劇場で見ていたことが大きな要因です。
現在では、カメラが小型化され、空間を自由に動き回りながら撮影することが可能になっています。このように、写真機材の変化は、新しい表現を生み出しています。
また、家族や友人とおしゃべりするためのテレビモニター、VRで360度映像を見るためのヘッドマウントディスプレイ、スマートフォンなど、現代では映像を見るための環境はさまざまです。
そして、一言で「映像」といっても、その内容や視聴環境によって、さまざまな表現方法があります。ここでは、以下のフォーマットについて、メディアごとにどのように再生されるかを見ていきましょう。
映像コンテンツは、映像を見る環境やデバイスによってカメラワークが異なることに気が付くと思いますが、他にどのようなところで異なるのかを考えてみましょう。
視聴者が映像コンテンツに没頭するのか、通勤や食事など他のことをしながら、サブディスプレイとして”ながら見”しているのかによって、撮影方法や表現方法は大きく異なります。
ここではあまり詳しく説明しませんが、VRなどの没入型表現は一人称視点が強調され、ニュースやサイネージは三人称視点で表現されます。
まとめ
映像視聴の状況や環境が変われば、映像表現も変わる。
新しい映像配信プラットフォームが登場すると、新しい表現が生まれる。
2-3 映像文法
ここでは、ストーリーなどの「状況を説明を撮影する」ために必要な文法について書いていきます。説明的な映像があまり必要でない方は、この章は読み飛ばしていただいて結構です。
映画やドラマだけでなく、ニュース映像やプレゼンテーション映像の撮影・編集にも同じルールが適用されます。
前章では、ディスプレイとそれを見る環境について書きました。ここでは、基本的なショットを確認し、被写体とカメラマンの関係からシーンの作り方を考えてみたいと思います。
ひとつの事象を表現するためには、さまざまな方法が考えられますが、いったいどれだけのショットが必要なのでしょうか?
例えば、「花を見ている人」という事象を撮りたいとき、何枚のショットが考えられるでしょうか?
試しに撮影してみましょう。
「誰が」「誰に」に向けて「アクションを起こすか?」によって、ショットが変わってきます。
実際に1,と2,を並べて見てみると、「花を見ている」という文章になります。
3,と4,のように、画面の手前に後ろ向きの人物(物)を置くと、その人物(物)の目線になります。これを肩越しショット(Over the shoulder)といいます。
このように、主観となる視点=主語を明確にすることで、肩越しの人物(物)が主人公(主語)になったり、視線の先にあるものにアクションを向けている、もしくはアクションを受けているように見えます。
ニュース映像やプレエンテーション映像など短く的確な説明をしたいときは、撮影前に文章で書き出し、単語ごとに撮影します。
その場のノリで撮影してしまうと、編集時に使うショットが足りなくなり、ショットをうまくつなげることができず、撮り直しになることがあります。一方、文章で書き出た単語ごとに撮影すると、テキストに書き出された以上の撮影をする必要はなく、撮影の目的がはっきりしているので、機械的に撮影でき、時間が無駄になりません。ゆっくとっても構いませんが、日が沈んでしまい絵の辻褄が合わなくなったり、役者が疲れてしまったりするので、計画的に撮影しましょう。
例えば、ダンスビデオを撮影する場合、ストーリーを説明するための説明映像を計画的に撮影して時間を節約し、ダンスパートに時間を割いた方がスムーズです。
まとめ
説明的な映像を作るにはまず文章化して、要素ごとにショットを考えよう。
ニュースや映画などの説明的な映像を撮影する場合は、撮影前に文字に書きだし、必要なショットを書き出しておこう。
書き出したショットは、右側左側など考えられるすべて撮影しておこう。
2-4 カメラの高さ
KPOPアイドルの動画は膝の高さにカメラを置くことが多いですし、ラッパーなどのボーカルの動画はボーカルの顔を真ん中に置くことがあります。
つまり、見せたいものを際立つようにそれにカメラの高さを合わせるというのが基本的な考え方です。
カメラを三脚に取り付けて見慣れた風景を撮るのは簡単ですが、ダンスビデオで大切なのはインパクトのある映像ですから、まずは既存のカメラワークにとらわれず、ダンスがよく見える位置にカメラを置くことから始めるとよいでしょう。
いろいろなカメラポジションを試してみて、一番しっくりくるものを見つけてください。
上の3枚はラップバトルを様々な角度から撮影したものですが、位置によって印象が変わってきます。逆に、カメラの位置に合わせてカメラの動きのコンセプトを変えることで、よりインパクトのある振り付けにすることができます。
グループで撮影する場合、全員が画面に収まるように画角は水平にする必要がありますが、2-2で説明した視聴パターンを考慮し、最終的にスマートフォンで閲覧する場合は、横だけでなく縦撮りも取り入れるようにしましょう。
以下の参考動画は、1つの振り付けを、縦撮り横撮り、スマホカメラの標準レンズ、望遠レンズ、広角レンズを比較したものです。
今回は、TikTokで一般的なニーショットで撮りました。
クローズアップ撮影は、全身が見えませんが、質感がよくわかるので、撮影の醍醐味です。
標準レンズとズームレンズの違いはわかりにくいのですが、ズームレンズで撮った写真は遠近感が失われズームレンズで撮った写真は平面的な印象になる。メリットはわかりにくいですが、空間をが意識しづらくなったり、天井が見えにくくなります。
広角は、部屋全体を入れたいときに有効です。ただし、画面の端に行くほど画像が歪むので、グループ撮影の場合は注意が必要です。
時には積極的にアングルを変えてみていいいかもしれません。
天井から床へのブレーキングを撮影すると、上下動よりも回転が強調されます。
床ギリギリにカメラを置き、ダンサーがカメラに近づいてくるところを撮ると、足が近づいてくるのでよりインパクトのある絵が撮れます。
映像全体がワンパターンにならないように、それぞれのシーンに合ったカメラアングルを探してください。
まとめ
最初はカメラの高さに気をつけてみる。
動きのコンセプトを考えて、それがよく見える場所にカメラを設置する。
カメラの置き方に合わせて動きのコンセプトを考えてみる。
2-5 モーションの力
シャープでスピード感のある動き、高速カット編集、ドローンカメラの滑らかな空撮、スローモーション映像などが、見る人に躍動感を与えます。そもそもダンス表現の本質は、躍動感や優雅さを感じさせるダンサー独自の動きを組み立て、演出することにある。映像におけるカメラワークやエフェクトは、ダンスと非常に似ていると言えるでしょう。
カメラワーク、エフェクト、映像効果には、次のような種類があります。
撮影時
特殊なカメラの使用(スローモーション撮影、ドローン撮影など)
カメラの高さ
カメラワークの基本的な演出(パン、ティルト、ドリー、ズームなど)
撮影と編集の組み合わせ
伝統の効果(例:TikTokで見られる画像間の素早いパンニング)
編集
編集効果(マッチカ、スウィッシュパン・トランジションなど)
基本テクニック、スウィッシュパン・トランジション
エフェクト
ここでは詳しく説明しませんが、映画などで使われるモーションエフェクトは、その難易度の高さ比べて、持って自分で動かす効果よりも思うような効果が得られないことが多いです。
ここではカメラを手で持って自分で動かすことを強くお勧めします。
ジンバルが使えるなら使ってもいいですが、最近は編集で手ブレを補正できるので、まずは気にせずいろいろな角度から撮影してみることをおすすめします。
2-6 ここまでのまとめ
コンセプトは視聴者に伝える内容だけでなく、制作グループ内でのイメージ共有でもあるので、しっかり考えてみよう。
カメラは誰の視点なのかよく考えてみよう。
どのような環境で映像作品を見られるか一度考えてみよう。
映像効果やエフェクトは、ダンスと同じように動きを演出する方法の一つです。制作の各段階でさまざまな効果を出すことができますので、コンセプトをもとにいろいろと試してみよう。
まずは手持ちカメラで体を動かして撮影しよう。
コンピューターエフェクトを前提に制作を進めると、どうしても画一的な印象の作品になりがちです。
カメラを手に持って撮影するということは、カメラが撮影者の身体となり、ダンスが一番よく見える場所から撮影することになります。撮影者の視点は、映像を見る人の視点でもあるのです。
カメラを三脚に乗せ、ダンサーが見える場所に移動してもらうことも必要ですが、カメラマンがカメラを持って、そのダンスが一番よく見えると思う場所から撮影すれば、その気持ちが映像に反映されるのです。
目安としては、ダンスなどの被写体のコンセプトや内容が60%、カメラのフレームワークが30%、エフェクトが10%以下という感じで始めるとよいでしょう。