スマホでダンスビデオ撮影術_セクション1: コンセプトを考える/参考映像
この全6回のセッションでは誰でも始められるダンス撮影のノウハウを紹介します。
ここ数年、SNSを通じて個人が自己表現として動画を配信できるようになり、自主映画のように仲間を集めてグループで撮影すれば、もっと表現の可能性が広がると思います。特別なカメラを使わなくても、今のスマートフォンでも映画を作ることは可能です。実際、プロの世界でも、スマートフォンを使ってベースを撮影することはよくあります。
動画の撮影・編集・配信はとても身近になったものの、若いダンサーの中には、自分で動画を創作するには「何から始めていいかわからない」という声も聞かれたので、ここでは基本的な撮影方法と、映像の学校でもなかなか教えてくれない映像の文法について解説します。
セクション1:コンセプトを考える
動画全体を貫くストーリーをコンセプトと呼びます。製作者が視聴者に伝えたいイメージだけではなく、仲間と作り上げていくために共通のイメージやコンセプトを共有しておくと、撮影中に困ったとき、コンセプトを参照することでスムーズに撮影を進めることができます。
例えばコンセプトを「赤ずきん」と決めたら、赤頭巾、森、狼、狩人、肉食、ハッピーエンドといったキーワードがありますし、少女役は無知で純真、狼は野性的な肉食、という具合に動きの演出の方向性もある程度絞ることができます。
カスタムストーリーを作らず、シンプルにダンサーのスタイルを表現したい場合でも、「いつ」「だれが」「なにを」「なぜ」「どのように」といった基本的な流れは考えていく必要があります。また、マートフォンや360度カメラなどの撮影機材や手法にこだわることもコンセプトのひとつです。
コンセプトが決まっていると良いこと。
視聴者に伝えたいことが明確になる。
制作時に仲間へイメージ共有する際のコミュニケーションの円滑化。
どのように撮影するか悩んだときは、コンセプトを参考にしながら方向性を決めるとよい。
コンセプトを作品に繋ぐ方法
コンセプトに具体的なストーリーのイメージを持っている場合。
コンセプトに基づき、タイムラインに沿ったストーリーの流れを決める。
キャラクターに沿って振り付けの質や脚色を決める。
コンセプトに基づいて衣装やカラーリングを選択する。 など
抽象的なコンセプトで、ドキュメンタリータッチなコンセプトの場合
なぜダンサーがカメラの前にいるのか?背景はどうなっているのか?その後どうなるのかを考えてみましょう。
「いつ」「だれが」「なにを」「なぜ」「どのように」を決めておく
参考映像
Red Bullで2021年に優勝しているダンサーなので知っている人も多いと思いますが、ビデオは派手すぎず、とても丁寧に撮影されています。ロケーションの世界観や、ダンサーの存在感がよく出ています。(2024年パリオリンピックでUS代表選手です)
出どころがよくわからないのですが、多分南アフリカで撮影されたPVです。編集がとてもうまい。二人のダンサーの動きが編集によって引き立てられている。日本やアメリカのミュージックビデオでは見られないようなワイルドなダンスです。
このビデオはダンスビデオではありませんが、撮影やストーリー展開に工夫が見られ、360度カメラも非常に効果的です。
Emma Watkinsさんはオーストラリアの女優・ダンサーであり、手話とダンスに関する博士課程でもあります。彼女が撮影・編集を手掛けた作品の多くは、よう見ると手は手話をしています。また、手話とダンスのテクニックを独自に開発しています。
この映像を紹介するのは、SNS時代の表現として、巨大エンターテイメントの模倣ではなく、例えばダンスを通じて聴覚障害者との境界をつなげたいという思いが、独自の手法として発信されていることに意味があるからです。
自分の作品で恐縮ですが、2004 年、27歳の時に作ったので古いのですが、空間の亀裂としてのダンスというコンセプトで作りました。カメラは自作の電動雲台でパンをしています。あらかじめ決められたルールのもと、ダンサーが即興で踊り、雲台の動きに合わせて連続的に踊っているように編集しています。真っ白の広い空間に見えますが、駐車場のような細長いスペースに白いターポリンを貼って編集で広く見せています。
コロナ禍をきっかけに、アメリカのポストモダン振付家たちが制作した連歌形式のビデオダンス。やたらに動けるご年配ダンサーが次々と登場しますが、知る人ぞ知る巨匠のオンパレードです。
90年代に低予算とトリッキーな演出で人気を博したミュージックビデオです。ショットとショットのつなぎを同じポーズを使うことで、つながっているように見せる効果を緻密に利用しました。
ケースマイケル振付け、Rosasのローザ・ダンス・ローザスは、色々な作家がオマージュしている有名なビデオダンスです。
青い部屋から黄色い部屋を見るというコンセプトで、三脚を使わず、観察するように撮影されています。この方法を用いることで、鑑賞者の世界とダンサーの世界との境界を強く意識させることができています。
バスター・キートンは、チャップリンと並んで有名な映画初期の喜劇俳優で、映画の中でさまざまなアクションの実験に多大な貢献をした人物です。この映像は、彼の歴史と創意工夫を紹介されています。
トニー・ヒルは実験映画の世界では有名です。彼のカメラトリックは、今でも多くの映画制作者を魅了しています。