白い鳩が舞い上がり
白い鳩は舞い上がって霧に溶け
霧のひとしずくとなり ただ翼だけはぴんと広げ
どうやら月にはりついたようだ 白き顔の母に
そこでは 肉体なき愛が光に溢れ
愛しい鳩は 原初の乳へと戻りゆき
その白き種を 原初の粘土へと吐きだし
そこでは私の臆病な魂が目を伏せて
おまえの魂にくちづける 時間と空間を克服し
現在オランダに暮らすマリーナ・パレイ(1955-)という作家が、膨大な量の詩を書いていることを知る人はそんなに多くないかもしれない。彼女は日々、呼吸するように詩を書いており、詩集を作っている(ただし現在は政治的なポリシーによりロシアでは出版していない)。
ここに訳出した短い詩は、叙情詩をまとめた詩集『修道僧』(2019年、ハリコフ)に収められたもの。この詩集は、鳥、羽(翼)、霧、夜といった世界の原初の風景に満ちている。歴史に染まらぬ原初の世界は、生/死の世界は境界もまた異なるものだ。
誰もが空を見上げ、月の満ち欠けと束の間の消失に息の呑んだ今夕、暗く重く沈む心を抱えて帰路につきながら、宙に目を向けると欠けて滲んだ月が悲し気に空に転がっていた。静かにそこにいたいのに、ただそこにいるだけなのに、光など浴びたくないのに、ずっと隠れていたいのに……そう訴えるうるんだ切れ長の眼のようだった。