第4話 関わってはいけない一族

李さんの孫かひ孫のうち1人が体験した話。彼は現在会社員をしている。多くの会社員がそうであるように、彼もまた仕事上、取引先の企業と会うことがある。会議や見学会、製品の試験への参加など、その仕事も様々だ。

その日会ったのは、相手先企業の担当者数名。その中に、彼女がいた。本人のプライバシーを考慮し、彼女の名前として「田中」を仮名として使う。田中さんはほっそりとした顔立ちの美人、ストレートヘアーにスリムな体型。初めて会った際、まだ若手だった彼は年の近い彼女が「いいな」と思ったそう。後日彼が
「今度一緒にお食事でもいかがでしょうか?」
と誘ったところ、彼女は「喜んで」と、快く承諾してくれた。

休日、2人はランチでのおしゃべりを楽しんだ後、お決まりのデートスポットに行った。仕事の話はほとんど出ず、楽しい時間を過ごした男女。その日は快晴。デートは成功だと思われた。
その日の夕飯時、実家暮らしだった彼は家族からの詮索攻撃を受けた。
「で、どんな子だったの?」
適当にはぐらかしながら彼は親と兄弟姉妹からの質問に答えていた。そのとき彼は、彼女との会話で苗字についての話題が出たことを思い出した。彼らの家系が大陸にルーツを持っていることもあり、彼もまた苗字や家系に関する話には一定の関心を抱いていていた。
「私、よくある苗字だから、いつも誰かと間違われたりして大変」
「ポピュラーな苗字でいいことって言えば、ハンコ忘れても借りられることかな」
彼の家族が使っていた苗字がそこそこ珍しいものだったため、そんな話が出たのだ。その会話の中で彼女が話したのが、
「親戚に『xx』っていう苗字の人がいるの。すごく珍しい苗字で、うらやましいときがあって」
というもの。彼のルーツが李家という、世界規模でありふれた苗字だったこともあり、そのうらやましさという点では彼女に共感できた。そんな話も家族にし、彼は何とかその場を切り抜けた。

彼が親から呼ばれたのは、数日後、次回の田中さんとのデートについて考えていたときのことだった。親は本家から古い本を持ってきており、リビングに新聞紙を敷いて中を開いて見せてくれた。それはとても古い本、隣の半島の国がまだハングルを開発する何百年も前のもの。本の中身は全て漢字で書かれていた。それも、現在は使われていないような漢字、文法が並んでいるものだ。
「この本に載っているのは、祖先が苦心して集めた家系の調査結果だ。どの家系はどこの由来で、どんな生業を営んでいたかが書かれている。要は、その家系の身元が怪しいかどうかを調べるのにご先祖様たちが使っていた本だ」
と、両親は説明してくれた。その本の中に「この家系とのつながりは、それがどんなものであったとしてもその全てを禁止する」という章があった。その章の最初に書かれていたのは、家系の一覧と個々の家系に関する説明がどの頁に書かれているか。親が「ここ」と言って指さした箇所に、確かに彼女の話していた『xx』の記載があった。『xx』の説明が記載されている頁に進むと、そこに書かれていたのは『xx』が犯罪者の家系だという内容だった。世の中には一族のほとんどが犯罪者になっているという家系がある。彼女の親戚の『xx』もまた、その家系のようだ。暴行、恐喝、ゆすり、たかり、横領、売買春、薬物密売、強姦、そして殺人。この家系は現存する犯罪を総なめにしていたようだ。
しかしそれは何百年もの過去の話。その頁には現在では必ずしも犯罪とは言えないようなものも存在した(例;酒・たばこの販売、禁書の販売)。彼は両親から
「その女の人と付き合う際は気をつけなさい」
というアドバイスだけをして、この話を終えた。

後日、その古書の内容が心に引っかかっていた彼は田中さんと一緒の出身地の人、または出身校が一緒の人を探した。すると偶然、彼の会社の同僚の中に該当者がいた。その同僚は彼女と同年代。しかも彼女のことをよく知っていた。その同僚曰く、
「彼女に関して、あまりいい噂を聞かなかった」
とのこと。それでもその同僚の話は過去のものなので、彼が田中さんと付き合い始めた際もその過去の噂については黙っていたそう。なんでもその同僚の話によると、彼女は
「支配欲が強く、どんな手段を使ってでも人を自分の意のままに操作しないと気が済まない性格」
であるとのこと。彼はまだ付き合って日が浅いので、彼女は本性を見せていなかったのだろう。その話を聞いて以来、その李さんの孫かひ孫の彼は田中さんと会わなくなり、2人の関係は終了した。

「彼女は学生時代にリベンジポルノを使った脅迫や知られたくない秘密を握ることなどの手段で他人を支配し、危うく警察沙汰になる寸前まで行ったことがあった」
という話を李さんの孫かひ孫の彼が聞いたのは、関係が終了してからしばらく経ってからのこと。
「犯罪者の血筋を受け継いだ女性とデートしていたのだと思うと、今でも恐怖を感じずにはいられない」
彼はそう零していた。

注記: 上記の通り、李さんの家で保管している書物の一部はかなり古いため、本の題名やその本文を記載することを避けた。その理由は、本が書かれた当時使っていた文字が現在の日本語や中国語で出力することが困難であること、また文法が現代とは著しく乖離していることである。


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