小説『深淵』 第三章
三 – The possessed
地下の病室で二人からはぐれた五鬼田留美子。懐中電灯で周囲を照らしながら廊下を歩いているとき、病室の中で何かが動くのを彼女は見た。廊下の前後を照らしても、二人の姿は見えない。「完全に、はぐれた」とは思ったが、廃病院の出口までの道を覚えていた留美子は恐怖をほとんど感じなかった。加えて彼女は
「どうせ、幽霊なんて出るわけがない」
と思っていただけに、自分が何か動くものを見たことも、気のせいだと結論づけていた。
「病室の中の写真を適当に撮っておこう。何かおもしろいものが写ってたら、ラッキーだ」
肝試しに対する留美子のモチベーションはその程度。二人を探すこともなく、留美子は病室へと入っていった。
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