小説『淫獣少女』 第一章
注意: この文章には、一部性的な表現が含まれています。この点をあらかじめご理解の上、ご覧ください。
聞こえるのは、男の荒い息遣いだけ。真夜中、もう追っては来ていないにもかかわらず、恐怖に駆られた男は走り続け、ついに森の中で体力が尽きた。男の側には大木があった。その大木には絞殺しの木が絡みついており、静けさが鳴り響く森の中で異様な生命力を輝かせていた。男はその大木の根本に崩れ落ち、幹を背にして座った。数日にわたり酷使し続けた脚は悲鳴を上げ、休息を求めるように絶えず震えていた。男は脚を伸ばし、顔を上げ、淡い光を大地に注いでいる月を見上げた。今宵も星空は明るく、連日の逃亡で疲弊した彼の心にとっては、少しだが、貴重な慰めとなった。
「うっ」
久しぶりに訪れた、身体と心を休めるための時間。緊張が解け、男は自分の左脇腹に銃創があること、そしてそこから大量の血が溢れていることを思い出した。
「もう一度、帰りたい」
男が思い浮かべたのは、故郷の記憶。男が生まれ育ったのは、とある極貧地域。十歳になる前にはすでに犯罪に手を染めていた男。初めて人を殺したのは、十二歳のとき。中産階級の家に盗みに入ったところ、住人と鉢合わせした。とっさの判断で男はその住人を殺し、盗んだ金品を持って逃亡。
犯罪行為で収入を得ることを選んだ理由は、男の境遇ではまっとうな手段での稼ぎが少なく、家族が飢えてしまうからだ。両親と兄弟姉妹を養うため、男は手っ取り早く稼ぐ手段を選んだ。その手段がたまたま盗み、詐欺、殺人、麻薬密売、密輸、人身売買だっただけであり、男はそれらの犯罪行為を自分の仕事として行っていた。
男はその日も「仕事」のため、金のありそうな家に忍び込み、中を漁っていた。運の悪いことにその家は警備会社と契約しており、男が侵入してから数分で警備員が家に到着した。急いで盗んだ金品を持ち出し、男はその家から脱出することに成功した。しかしその喜びも束の間、今度は地元警察が駆けつけ、その男を逮捕すべく追跡を開始。そして警官の一人が誤って拳銃を発砲してしまい、男は左脇腹に致命傷を負った。
「帰りたい」
出血がひどく、男は自分の命が残り少ないことを悟った。死を目前にした男の願いは、二つ。一つは、故郷にいる家族と会うこと。もう一つ、それは美しい女と一夜を共にすること。どちらの願いも、森の中では叶いそうにはない。
男は夜空を仰ぎ見たまま、涙を流し、息絶えた。
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