小説-『洞穴』 第一章
一
暗い穴、その奥を覗き見ると、真の闇。大きく開いた入口、その中から漏れ出す、かすかな呻き声。今夜も夢に出てきたその洞穴は暗く、奥が見通せないほど、深い。その洞窟を満たすものは、一切の光を逃さず、また一切の光を受け付けない、漆黒。灰色の岩肌に空いたその洞穴の中には、下界を明るく照らす月の光の侵入すら受け入れない。絶対的な、闇。
ア、ア、ア、ア、ア…
嫌な風が、洞窟の入口から這い出て、彼女の顔を舐めたところで、朝日が目に刺さった。
「また、あの夢か」
金田伊代は、うんざりとした面持ちで目を覚ました。一日の始まりとしては、気分のよろしくない夢。二、三年に一回しか見ない夢だから、誰にも相談せずに放置していた。こんなのが毎日続いたら、気が狂いそう。そう思いながら、彼女はベッドから這い出て、すでに朝食が用意されているはずの一階のリビングに降りて行った。ただでさえ朝の弱い伊代にとって、悪夢は一日を台無しにするのに十分なテロ行為。母親からの
「おはよう、ほら、早く食べて」
と父親からの
「学校はどうだ?」
に対して生返事で応え、ダイニングテーブルの定位置に座った。伊代はテーブルの上、目の前に用意された食パンを急いで口に詰め込み、それを牛乳で胃の中へと押し込んだ。
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