第23話 運び屋
李さんの親戚の孫かひ孫が体験した出来事。それは、彼女が友達と一緒に行った海外旅行の帰りに起こったこと。始めにこの話の概要から入る。
概要: ある運び屋が、人間の臓器を運んでいた。それが空港で発見され、その運び屋は逮捕された。後日、その運び屋に臓器運搬を依頼した組織も逮捕された。
概要は、こんなところ。しかし、現場にいた李さんの親戚のその彼女の話では、どうも運搬が発見された経緯が普通ではないとのこと。
例えば麻薬運搬の場合、特別な訓練を受けた麻薬探知犬が麻薬の臭いを嗅ぎ分け、犯人逮捕に至る。これが、標準的で普通の逮捕。
一方、前述の臓器運搬の場合、その運び屋が逮捕される際、明らかに異様な現象が起こった。李さんの親戚のその彼女曰く、
「その運び屋は、犯罪者であることがあまりにも明白だった」
とのこと。彼女の話によると、その運び屋が歩いた場所では、その付近にいる子供が泣き出すのだ。しかも、一斉に。フライト客の中には一部、ペット連れがいた。その人たちの場合、その運び屋が付近を通過したら、ペットたちが次々に鳴く、唸る、吠える、という始末。
その運び屋は、最初こそ何気ない風を装っていたものの、捕まる直前には険しい表情を浮かべていたそう。運び屋の持っていた荷物からは何も臭いや音が出ていなかったので、運んでいる本人は、自分自身が通ったときにそんなふうに周囲の子供たちや動物たちが騒ぎ出す理由に見当がつかない。逮捕の直前、運び屋は荷物を放り出して逃げ出そうとさえした。
一部始終を目撃していた李さんの親戚のその彼女と、彼女と一緒にいたその友達。彼女は目の前の不可思議な出来事に驚いていた。しかしそれ以上に、その友達が浮かべていた表情に驚かされた。その友達の顔には、まるで自分が殺されるのではないかという恐怖が貼り付き、身体の全ての血が抜かれたような青い表情をしていた。
事態が収束したところで、彼女は
「何が見えたの?」
と、恐る恐る訊いてみた。その友達には、霊感がある。そういう理由から、
「彼女自身が見えていない、何が恐ろしいものがあるのでは?」
という不安を、彼女は抱いていたとのこと。
「何本もの腕が巻きついていて、その隙間から、いくつもの顔が覗いてた」
それが、その友達の見ていたもの。だからその友達は、運び屋がなんの変哲もない青いカッターシャツとベージュのチノパンという出立だったことを知らなかった。蠢く腕と顔がその運び屋の首から下を埋め尽くしていたから、服が全く見えなかったそうだ。
後日、李さんの親戚のその彼女が空港での一件を祖父に話したところ、こんな話を聞いたそう。
「その運び屋は、おそらく中身を知らされていないだろう。その運び屋が運んでいたものは、麻薬や武器ではないだろうな。たぶん、人の身体の一部か、全身」
「その運び屋の依頼人は、おそらく子供や老人、障害者や被差別階級の人たちを使って、裏稼業をやっているんだろう。社会的弱者から幸福を毟り取り、搾り取り、啜り、しゃぶり尽くすような奴らは、自分たちが虐げて潰してきた人たちから恨まれる。その運び屋に巻きついていた腕や顔は、被害を受けてきた弱者たちの、救われない魂なんだろうな」
運び屋の荷物が人間の臓器だったという事実が判明したのは、後日の海外ニュースでのこと。依頼人たちは、一網打尽だったそう。
依頼人たちは、逮捕されても、まだ生きて刑務所にいるのだろうか。それとも、恨みが積み重なって…
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