「恋の病」を治すため「熊野」へ(熊野旅その7)~「つぼ湯」で蘇生~
【前回までのあらすじ】
後輩が年末に患った自称「恋の病」はなかなか良くならなかった。完治を目指して年始早々に蘇りの聖地「熊野」を目指す男二人。ただでさえライフポイントが限界の後輩は、カップルを見かけたりしてダメージを受けながら、「熊野本宮大社」に到着。神が降臨したと伝わる「大斎原」で満点の星空とUFOらしき光を目撃して少し回復するのだった。
【黄泉がえりの湯の峰温泉・つぼ湯へ】
1月でしかも山奥だからか、暗くなってくると寒くて仕方がない。熊野本宮付近は川から湯が湧く「湯の峰温泉」として知られる。発見したのは熊野國造の大阿刀足尼であり、第13代成務天皇の御代というから1850年ほど昔になる。
中でも狙うのは最古の温泉「つぼ湯」だ。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成要素でもあり、湯に浸かって小栗判官が蘇生した「小栗判官と照手姫伝説」が残る。
これは、もう恋の病なんか吹き飛ぶだろうよ!
温泉街に入ると高級そうな旅館が並んでいる。
「つぼ湯」は川の中にある掘っ立て小屋のような施設だった。
うーん、渋い!
「つぼ湯」の隣にある案内所のおばちゃんに聞くと一組30分制で、400円で入れるのだという。すでに3組ほど待っていた。困ったことに、牧歌的なシステム故に前の人が何時に出てくるかわからない。もしかしたらすごく早く出てくるかもしれないし、30分ギリギリになるかもしれない。
3組×30分=90分後になるのか、それともめちゃくちゃ早く出てきて3組×10分=30分後になるのか、わからない。
ただでさえ寒いし、待つ場所も無い。
「友達が良かったって言ってた仙人風呂ってあるらしいんですけど、行きますか?」
【モラルハザードしかけの仙人風呂】
10分くらいで仙人風呂近くの駐車場に着いた。
後輩が「川が温泉なんですよ!!」とドヤ顔でいきなり川に手を突っ込んだ
「つめてええええええええええええ!!!」
そこは温泉が湧く地点の上流で、ただの一月の冷たい川水が流れていた。
「余計寒くなってきましたわ・・・」
ブルブル震えながら、進むと湯気が立っているのが見えてきた。
仙人風呂は岩でお湯を囲んだ大きな長方形を作ったワイルドな風呂だった。確かにこれはデカい。
老若男女が泳いだり、浸かったり、それぞれ楽しんでいる。
「あのオッサン、全裸やないですか・・・」
見ると禁止されているのに全裸のオッサンが2名いた。女の子もいるのに・・
「こういうところから秩序とかモラルって崩れると思うんですよ・・」と後輩は怒るのだった。
【つぼ湯で超回復】
急いでつぼ湯に戻ってくると案内所のおばちゃんが怒っていた。
「どこ行ってたんですか!!次の人入れちゃいましたよ。」
たしかに非常識な行動だったかもしれないと、とにかく謝罪する。
自分達もモラルハザードだった。
また順番待ちをする。
順番が来たので「つぼ湯」へ向かうが、小さな橋を渡らねばならない。橋を渡るとは、古来より境界を超える意味があると考えられてきたが、なんだか異世界に行くような気持ちがする。
隙間だらけの板戸で囲まれた「つぼ湯」に入ると、階段があり、下に白濁した湯が湧いている。硫黄の香りがぷんぷんする。
さっそくざばっと体を流して「つぼ湯」に入る。
入った印象は意外に深く「たこつぼ」に入っている感じ。タコの入っているタコツボというより、戦時中の「たこつぼ壕」にお湯が溜まっているような形状。
湯は抜群に良く、怒涛の一日で強張った神経がほぐれていく。
「これは蘇りますわ~~~~」
湯船に浸かりながら、小栗判官の蘇生伝説の看板を見上げる。
ん、49日かかると書いてあるけど、細かいことはいいや。
掘っ立て小屋のような作りのため、隙間風が時々入るし、何なら外が少し見える。でもその野性味あふれる空気感の中で、原始的な湯に入っているのが妙に嬉しい。他ではこんな体験はなかなかできない。
戸板の隙間から外が見えているが、どうでもよくなる。
なんでも来るなら来いや!という気持ち。
ここで後輩の力強い足取りに、元気を取り戻していることに気づく。
蘇生伝説は本当だったのだ。
【シカが走る道路】
「つぼ湯」を出て走行していると「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
突然の絶叫に「なにぃ!!?」と聞くと「シカ!!!」と後輩が叫ぶ。
眼の前にシカが二頭飛び出してきたのだ。口から心臓が飛び出しそうになった。秘境・熊野ではシカが道路を走行するのだ。危ないところだった。でもライフポイントは回復しているから笑って許せる余裕がある。
さて、宿泊を予約している串本町のホテルサブマリンへ向かおう
(その8)ホテルサブマリン突撃編へ続く
【後輩のライフポイント】
「つぼ湯」で奇跡的な大回復。「恋の病」も治りかけている。
🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴◯◯ 8/10