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「熊野リベンジ!紀伊半島一周の旅」その13 令和に敢えてクジラを食す(太地町)



【前回までのあらすじ】


クレソン後輩の希望に沿って、熊野を3年ぶりに巡ることになった「私」。熊野三山は必須として、3年前は回れなかったところを目指して、熊野リベンジに向かった。しかし、長旅で発覚したクレソン後輩の頻尿癖はどんどん深刻になっていく。そんな時限爆弾を背負ったまま、旅は続く。
過酷な旅ではあるが、1月4日は熊野那智大社で神々しい陽光と那智の滝水をいただき元気百倍!早めの食事をいただくために捕鯨で有名な太地町へ向かうのだった。

【捕鯨文化の太地町へ】


熊野那智大社、那智の滝をお参りして発とうと考えた時、時刻はまだ午前10時過ぎ。
太地町を経由して、和歌山市→奈良→京都へ今日中に抜けようと考えている我々にとっては良いペースだ。
「私は鯨が大好きだ!ゲイが大好きなんですよ」と興奮気味に、傍から聞くと誤解しそうなことを繰り返す頻尿後輩。
「道の駅たいじ」のレストランは午前11時にオープンらしい。那智大社からは車で30分ほどなので、ゆるゆる行くことにする。

【クジラとイルカの違い】

太地町まで来ると、橋の欄干の位置にあるイルカのモニュメントが目に入る。

「捕鯨の街なのに、なんでイルカなんですかね」と聞く頻尿後輩。
そういえば沖縄在住時に、名護でヒートゥー(イルカ)を食べる文化があって、イルカと鯨は大きさで判別していると教わったことがあった。

「クジラとイルカは大きさだけで区別しているだけらしいよ」
「え!?またまたーそんなわけないですよwww」と信じない頻尿後輩。

「太地町で漁をして、抗議運動があったのってイルカの方だったはずだよ」
「じゃあ調べてみますよ・・・・(スマホポチポチ)本当だ!!!体長4メートル以上のものをクジラ、4メートル以下のものをイルカと区別する、って書いてあります!!!」

捕鯨文化に普段触れていない人は、クジラを食べることに理解はあっても、水族館の人気者イルカを食べることに抵抗がある。
そのギャップで起きたのが太地町どころか日本を揺るがした「ザ・コーブ」騒動だったのかもしれない。

【太地町を巻き込んだ ザ・コーブ騒動】


2010年に太地町のイルカ漁を批判的に取り上げた映画「ザ・コーブ」が公開された。

「コーブ」とは入江のことで、太地町の入江で行われるイルカ漁を隠し撮りし、それが残酷であろうと世に訴えたイルカ開放運動映画である。
日本文化への誤解を招く内容だったが、映画としての出来が良く、アカデミー賞(長編ドキュメンタリー映画賞)を受賞したもんだからかなり話題になった。

日本人のアンサーとして「ビハインドザ・コーブ」という映画も制作された。


「裕福な日本ならイルカまで食べなくて良いのでは?」「イルカを殺してまで文化を護る必要はあるのか?」
そんな声が日本人からも聞こえてくるだろう。
私がすごく腑に落ちたのは下記リンクの和歌山県の公式見解だった。
関心がある方はぜひ読んでいただきたい。

「海外のやつらがいろいろうるせえよ!」とつっぱねたくなるが、やはりこういう文化が海外で誤解を受けるなら、私達日本人がちゃんと知ることが大切だ。

そして、クジラだってイルカだって、豚だって、鳥だって、植物だって生き物だっていうことを忘れてはいけないと思う。イルカを殺すのは悲しいことだ。でも豚だって、牛だって殺すのは悲しいことだろう。人間にとって好ましい造形をしているか否かで殺して良いかどうかを決めるのは傲慢極まりないし、知能が高いかどうかで決めるのは優生学のようで怖い。
食べるということは命を奪うことであり、その自覚なくして生きる実感は湧かないだろう。その自覚からスタートしなければただの批判者に成り下がる。

【クジラのモニュメント】

道の駅たいじまで着いたのは午前10時40分頃。
とりあえずすぐ近くのザトウクジラのモニュメントを見に行く。

ザトウクジラの親子が空を泳いでいる。
遠くから見ると「なんだこれ!」程度だったが、近寄ると予想以上にでかく大迫力。

で、で、でかい!!!

こんな巨大生物を捕らえて人間は食べてきたのか。いろいろとすげえなぁ。

日光を受けた太地町の海はエメラルドグリーンで美しい。

クジラのモニュメントの近くには「ナベワリ商店」というまぐろの販売所がある。かなり評判が良いが、看板がかすれてすごいことになっていた。
クジラ料理を食べるためにここでは我慢だ。

【本物の捕鯨船を見に行こう!】

もう少し時間があるため、せっかくならばと「くじらの博物館」の前で展示されている捕鯨船を見に来た。

1971年から2007年まで36年間活躍した捕鯨船・第一京丸(全長69・15 m、総重量1150トン)が陸揚げされて展示されている。


軍艦と比べたら小ぶりではあるが、見上げると本当にでかいなぁと感嘆する。
船を陸に上げると比較物が小さいから海上よりも大きく見える。
見学している人と比べると、本当に大きい。
これくらいの船だから捕鯨ができるんだなぁと説得力がすごい。

船の近くには「刃刺はざし」と呼ばれる銛を持った漁師のブロンズ像がある。江戸時代の捕鯨の姿だが、近代的な捕鯨船も抜きであんな巨大生物と裸一貫で戦っていたと思うと凄まじい。

こんな軽装備で鯨に立ち向かうのすごすぎんか

捕鯨船の向こうには海が広がっている。
太地町の海は本当に美しい。石で波が砕ける光景は、東宝映画のオープニングのようだ。

「円応教」というあまり知らない宗教団体(不勉強ですいません)の施設もあった。

【待ちに待った鯨料理】

午前11時となったので「道の駅たいじ」へ戻ると駐車場はいっぱいのため、裏にまわる。
与根子川の水面が輝いていて、ウキウキした頻尿後輩は「はーるのうらーらーのすみだーがーわー」と歌いながら歩いていく。

水面がキラキラ光る
この浮かれっぷりとイカれっぷりである

名物「いるかのすき焼き」もあったが、頻尿後輩は「鯨カツ定食」(1000円)、私は「鯨のミックス定食」(1100円)を注文。
食券を買って、番号を呼ばれたら取りに行くシステム。
割とすぐに出来上がって呼んでいただく。

鯨カツ定食(1000円)
鯨のミックス定食(1100円)

鯨の野趣あふれる味わいは刺し身も良いが、唐揚げでも竜田揚げでも美味い。
意外だったのはミックス定食についてくるコロッケ。
かさ増しの揚げ物程度に思っていたら、口にいれると鯨の風味が溢れ出す強烈な味わいでびっくりした。
美味い、美味いであっという間に食べてしまった。

【売店も充実】


道の駅のため売店は充実している。
地元産のものはもちろん、何故かサーターアンダギーまで売っている。

炙りくじら、これは美味そう!!
鯨って今では縁遠い存在になっているけれど、先人はいろんな料理法を編み出して鯨を食べてきたことがよくわかる。
平地が少なくタンパク源が乏しくなりがちな中で、鯨は日本人を支えてきたんだなぁ。

循環バスの予定表は田舎特有のかなりスカスカ。
都会の感覚で来るとこれは大変だろう。ただ、地元の方の苦労を配慮せずに言うと、これこそ田舎の魅力だと思う。

文化を護るというのはどういうことか。意固地にならずに、しかし当事者に心を寄せて考えていきたいものだ。

その14へ続く


【後輩の頻尿メーター】

⚫️◯◯◯◯◯◯◯◯◯ 1/10
道の駅のトイレで放出したのでしばらく大丈夫(のハズ)

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