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【インドのスタートアップ分析】10分以内に届くクイックコマースの成功と挑戦

こんばんは!
突然だが、みなさんは「クイックコマース」をご存じだろうか。
クイックコマースとは、オンラインデリバリーの中でも、スピード配送を売りに、「今すぐ欲しい」というニーズを満たすサービスのことを指す。

私が渡印したのは、コロナがひと段落した2022年なので、インドでロックダウンは経験していない。
インドでは、2020年にロックダウンが複数回実施され、外出が一切禁止された時期があった。
その時期に、外に出ることができないため、クイックコマースの需要が急速に高まった。

今回は2021年に創業し、すでに評価額は14億ドルを超えるユニコーン企業となった、Zeptoを分析する。

他のメディアでは取り上げられないようなインドの「深い」ニュース記事を取り上げ、「リアルなインド」を皆さんに紹介していく。
皆さんの意見があったら、ぜひコメントで教えてほしい。


Zeptoとは:


Zeptoは、10分以内に配送を完了させることをスローガンに、急速にシェアを拡大する、オンラインデリバリーアプリを展開するスタートアップだ。
2021年4月に創業し、2023年には、14億ドルの評価額で2億ドルを調達し、ユニコーン企業の仲間入りを果たした、国内外で注目される企業だ。

創業者は、当時スタンフォード大学の学生だったAadit Palicha氏とKaivalya Vohra氏だ。
2020年のコロナ禍で、授業がすべてオンラインになったことにより、1年間の休学を申請し、インドに帰国。
もともと幼馴染の2人は同じアパートで共同生活を始めるものの、すぐにインドでもロックダウンが開始され、外出ができなくなってしまう。
それでも何か始めたいと考えた2人は、Whatapp(メッセンジャーアプリ)で、近所の人たちのグループを作り、そのグループを通じて、注文を届けるサービスを始める。

このアイディアがもとになり、提携先のキラナストア(小規模な小売店)に注文し、家まで届けるアプリを作成。
数か月、サービスの試行錯誤を繰り返し、Contrary Capitalが主催する起業プロジェクトに応募し、400万ルピーの奨学金を手に入れる。
この時のピッチで説明したのが、10分以内に顧客に日用品を届ける、現在のビジネスモデルだ。
実際、この戦略は当たり、その後急成長したZeptoは、2023年にユニコーン企業となった。

eコマースは、コスト、ラインナップ、利便性の3つの要素で構成されている。
日用品を扱う競合会社は、すでに、コスト、ラインナップに非常に優れていた。
例えば、Amazonは、価格は安く、豊富な商品ラインナップを提供している。

洗剤など数日で届けばいいが、食料品などはもう少し近くのお店から新鮮なものを買いたい。
このようなユーザーは、豊富な商品ラインナップを提供し、少々割高だが、数時間で届く、DMart(2017年に上場したオンラインデリバリー企業)などを利用する。
Zeptoの10分以内の配達は、利便性に特化することで、より緊急度の高い「今すぐ欲しい」というユーザーを取り込みことに成功した。


ダークストア:


それではどうやれば、10分以内の配達は可能になるのか。
その核となるのは、ダークストアの存在だ。
ダークストアとは、配送拠点として設置される店舗のことを指し、ストアというよりは配送センターというのが正しい。
これらの拠点を人口密集地域の1~4 km圏内に配置し、注文後の2分以内に梱包を行える物流システムを設計する。
これによって、10分以内の配達は可能となった。
Zeptoは現在、7都市に200以上ダークストアを保有している。


収益源:


10分以内の配達のカラクリは上記の通りだが、ではいったい何から収益を上げているのか。
創業者の一人のAadit Palicha氏はインタビューにて、Zeptoの収益源として、「ダークストアの売り上げ」と「広告収入」を挙げている。
ここからは具体的な数字を使ってこの収益を分析していく。

1つのダークストアを設置するのに、250万から400万ルピーほど費用がかかり、利益率は15〜20%だ。
また、梱包スタッフとして、13~14人のスタッフを雇っている。

The Economic Times
"Fast and furious: Quick-commerce players’ race through the maze gets tougher"

平均注文金額は350〜400ルピーとのことなので、400ルピーの注文があった場合は、粗利益は80ルピーだ。

注文額 × 利益率 = 粗利益
400ルピー × 0.2(20%) = 80ルピー

ギグワーカーの平均給与の月額1万8,611ルピーを用いて、1日20回の配送を25日行うと、1回の配送料は約37ルピーとなる。

businessline
"Average salary of gig workers lower than regular urban male workers: Report"
給与 ÷ 1か月の配送回数 = 1回の配送料
1万8,611ルピー ÷ 500回(20回 × 25日) = 37.22ルピー

そうすると、1注文あたりの粗利益は43ルピーほどに減少する。

従業員の給料で月23万ルピーかかるとすると、最低月に5,750回以上の注文を受けないと利益が上がらないといえる。
1日は1,440分なので、1分間に4回以上の注文を1日中取り続けることになる。
もちろんこれは仮定の数値となるが、ダークストアで売り上げを出すのは非常に難しいことが分かる。

利益目標 ÷ 1回の配送費用 = 月に必要な配送回数
23万ルピー(1万8,000ルピー x 13人) ÷ 40円 = 5750回

そこで、広告収入が重要になってくる。
広告収入は、注文後にドライバー追跡ページや、クレジットカード会社と提携したセールを開催などによって得られる。

利益率が90%から95%と非常に良いため、オンラインデリバリー業界では重要視されており、多くの企業で収益10~12%を占めるとも言われている。

The Economic Times
"Advertisements get cash counters ringing at quick commerce and food delivery companies"

以上が、表に出ている数値を使った収益のシュミレーションだ。


収益性:


2023年度ベースで、Zeptoは、前年度比で収益を14 倍以上に増加させ、200億4,000万ルピーに達したものの、赤字も3倍以上広がり、127億2,000万ルピーとなっている。
では、どうすれば収益性を改善できるのか。

1つ目は、ダークストアの利益率の改善である。
これは、仕入れルートの開拓、ダークストアへの配送ルートの最適化を実施、つまり、より安く買う体制を整えることだ。

2つ目は、配達コストを減らすことだ。
先ほどは1回の配送料を約37ルピーとしたが、ピーク時の注文に合わせて専用配達員を余分に用意するなどした場合には、容易に配送料は上がり、それは収益をそのまま圧迫する。
ドライバーの配置を最適化させることが必要があり、過去の売り上げデータを利用して、売り上げシュミレーションを行うなどが有効であると考える。

3つ目は、注文数を増加させることだ。
実はこれが一番重要である。
クイックコマースでは、平均注文額を上げることは非常に難しい。
多くのユーザーは、夜に映画を見ながらコーラやポテトチップスが欲しくなり、注文をしたりなどの「今すぐ欲しい」というニーズを持った人たちであり、大量の商品を一度に買ったりしない。
そういった層は、わざわざクイックコマースでは買わず、よりラインナップがあり、コストに優れたプラットフォームを利用するはずだ。
そのため、金額ではなく、数で勝負せざる負えない。
そして注文数が上げれば、収益も上がり、配達コストも相対的に削減でき、一石二鳥だ。


今後:


Zeptoが大赤字を出しながらも、多額の投資を受けられているのは、上述の3つ目を実施すれば、おのずと収益は上がり、収益性も増加させるという説明が、投資家に納得されているからではないかと考える。
他の分野でもそうだが、情報産業は勝者総どりである。
それはアプリという誰でも手軽にアクセスできる分、乗り換えも非常に簡単で、もしサービスに納得できなければ、ユーザーは乗り換えればいいだけだからだ。
クイックコマースの分野は、今後もしばらく激しい競争が続くだろう。
Zeptoの命運は、大型資本も入ってきているこの市場で、どれだけ早く、10分配達が常にできる配送網を構築できるかにかかっているといえる。
2024年は、世界の景気減退もあり、スタートアップの資金調達は厳しさを増しているが、今後とも注目していきたい。

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