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[オススメ]『誰が勇者を殺したか』をミステリー好きが読んでみた結果○○だった件[感想・解説]

 ⚠️核心部分には触れすぎないように書かれていますが、ネタバレを含みます

amazon10/26時点、402件の評価の中、脅威の4.9/5.0スコアを叩き出している
『誰が勇者を殺したか』。
コメントでは絶賛され、X(旧Twitter)でもオススメするユーザーが多数見られる本作をミステリー好きが読んでみた。本作の感想、解説を書いてみようと思う。

 あらすじはこうだ。
--勇者は魔王を倒した。同時に――帰らぬ人となった。

 魔王が倒されてから四年。平穏を手にした王国は亡き勇者を称えるべく、数々の偉業を文献に編纂する事業を立ち上げる。
 かつて仲間だった騎士・レオン、僧侶・マリア、賢者ソロンから勇者の過去と冒険話を聞き進めていく中で、全員が勇者の死の真相について言葉を濁す。
「何故、勇者は死んだのか?」
 勇者を殺したのは魔王か、それとも仲間なのか。
 王国、冒険者たちの業と情が入り混じる群像劇から目が離せないファンタジーミステリ。--
(amazonページから引用)

 補足すると、先頭に立って編纂を行うのは王国の「お姫様」だ。彼女が勇者にゆかりのある人物にインタビューをし、勇者の知られざる実像に迫るお話である。

 この本は「インタビュー章→回答者の独白章」という流れを繰り返すことでストーリーが進む。
予想では、多くの人物から語られる勇者への印象は彼ら個人の価値観や感情が入り混じるため、インタビュアーであるお姫様(読者)の勇者への印象は揺らぎ続けることになるんじゃないか、つまりなかなか勇者の実態が掴めず、ムズムズする。このムズムズ感に惹きつけられ、
ミステリー好きにとってたまらない話になっている、このような展開になると思っていた。

 ちなみに本作は全て一人称視点で進む。インタビュー内容を一人称で記録するということは、事実をどうとでも書けてしまうということでもあるわけだ。ここで我々ミステリー好きの頭には当然あの作品が浮かぶ。そう、みなさんご存知「アクロイド殺し」だ。ミステリー好きではない方も義務教育で習ったのではないかと思う。つまるところ、「叙述トリックもの」なのではないかと疑いつつ推理もしていた。

 では結論を言おう。えっ?もう結論?と思うかもしれないが、誤解を招いたまま解説するのも申し訳ないので先にお断りしたい。

 これは「叙述トリックものではない」。

 それどころか…「ミステリーでもない」。

 …何言ってんだこいつと思われたかもしれないが、フリみたいになってしまって申し訳ないと思っている。タイトルがミステリーっぽいからギャップに驚いたが、これは暖かく濃厚な「人間ドラマ」であり、「勇者を勇者たらしめるもの」を描いた作品である。ミステリーを期待しすぎると肩透かしを食らうかもしれないので、ミステリー要素はスパイスだと考えて欲しいのだ。

 物語中盤とかなり早い段階で「どうして勇者は死んだか」が明かされる。ここまでで魔王討伐メンバー周辺の人間模様を大方把握できるようになっている。重要な謎がここで解けてしまうわけだが、ストーリーは終わっていない。むしろここからが真骨頂である。

 ここからは謎として残されていた預言者--勇者到来を預言する者--の存在を深掘りし、世界の真相が明かされていく。

 だが読者にとって重要なのは世界の真相を知ることではなく、《魔王討伐にはなぜ勇者が必要なのか》を知ることである。
 本作を楽しんでもらうために詳細には触れないでおくが、預言者から語られる世界の真実は"ある人物"にとって特に『とても残酷なもの』だった。その人物はあらゆる手を尽くしながら孤独の中で魔王と戦っていた。
やがて「勇者」というラストピースが揃うことでその人物は長い苦しみから救われる。他の誰でもダメだったのだ。
どうして"この勇者"でなければならなかったのか。ここが深掘りされることで、物語中盤までに明かされた魔王討伐メンバーの人間模様がより濃く彩られ、心地よい読後感を与える最終盤へ向かって助走をつけてくれる。

 とまあ、こんな感じのストーリーである。どんな終わり方を迎えるかはぜひ本を買って読んでもらいたい。

 では、今回はこのあたりで。読んでいただきありがとうございました。

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