広場②〚秋〛

…ヘックシュン!


最近花粉症でくしゃみが止まらない

せっかくの休みなのにこんなに花粉が多いと
読書に集中できない

家で読めばいいじゃないかと思うだろうけど無理
自分の部屋もないし
リビングではかあさんがドラマを見ている
音がうるさくて集中できない


どこかに静かで花粉の無いとこあるかな…

ん?あの道なんだろう


その路地は何というか
誰も見えてないような
そこにあるのにないような
なんていうかな、とにかく不思議な雰囲気だった


路地は少し暗かった
しばらく適当に進んでいると
さっきまで入り組んでいた道がいつの間にか一本道になっていた


ん、奥が明るい
なんだろう・・・


そこには広場があった
地面にはたくさんの茶色い落ち葉が落ちていた

周りが壁に覆われて通ってきたところ以外には他に道はなかった
真ん中付近に木が立っていて隣に二つ反対を向く形でベンチが置いてあった
手前のベンチはちょうど木の陰の位置にあって
普通の公園にあるようなものではなく
どこかちょっとオシャレな感じだった

ふと、さっきまであった鼻づまりが治っていることに気が付いた
そういえば歩いている間もくしゃみもあまりでなかった


なんかこういう場所っていいな
静かだから読書もできそう


手前のベンチに座ってバッグに入れていた本を取り出し
しおりを挟んでいたところから読みだした

数ページ読み進めていると
路地から誰かが歩いてきた

「おや、珍しいですね、ここに人が来るなんて」

前を見ると、眼鏡をかけた男性が立っていた
何歳くらいなのだろうか
外見からは判断できない

「どうも、はじめまして、読書中すみません」
「いえ、、、」

しばらく返答に困って黙ってしまった

「あの、後ろでわたくしも読書してよろしいでしょうか」
「あ、どうぞ」
「では、お言葉に甘えて」

そして男性は後ろに座った


しばらく読み進めて
きりがいいところでふと空を見上げると
もう一番星が見えていた


いけね、またやった
あーあまた怒られんのかな


どうも一度読書しだすと
周りがまったく見えないらしい
前は気づいたら真っ暗になっていて
かあさんに怒られた

そうしていると
後ろで声がした

「おやおや、もうこんな時間ですか
 またやってしまいましたね」


なんだこの人も私といっしょなのか


などと思っていると彼は私がいるのに気づいて

「おや、あなたは大丈夫なのですか?」
と言った

「あ、いやあたしも急がないといけないので・・・」

「そうでしたかでは途中まで一緒に帰りますか」


気まずい

さっきから一本道を彼と一緒に歩いているのだが
無言でいるので気まずさがMAXだ

しかしすぐに救いが来た

♪♪~ ♪♪~ ♪♪~

かあさんからの電話だ

「すいません、気にせずに先にいってください」

「ではお先に」
そう言って彼が見えなくなったところで
自分のスマホを開いた

「ああもしもし?」
『もしもしじゃないでしょう、あなた今どこにいるの?
 どうせまたどっかで本に入り込んでたんでしょう』

まったくその通りなので何も言えない

「ご、ごめんあたしもさっき気づいてさ、急いで帰るから」
『一応確認しただけよ、まったく、その癖はやく直してほしいけど無駄でし
 ょうね』
「あはは…じゃあね」

言い終わらないうちに切られた


とにかく急がないと



次の日、再びあの場所にいくと彼がいた

「こんにちは、お先に読書させてもらっています」

「じゃああたしは後ろにいきますね」
そして昨日とは逆のベンチに座ってバッグから昨日と同じ本を出した

こちらのベンチは太陽に照らされていて
少し眩しいが心地よい暖かさだ

ふと上を見上げると綺麗な秋空が広がっていた


わあ、きれい
この場所誰にも教えたくないなぁ


そっと風が吹いて木が揺れた


この人と私以外にこの場所を知っている人って
いるのかなぁ


しおりを取り出して
本を開いた


だいぶ時間がたったのだろう
辺りは昨日と同じに薄暗くなっていた

今何時だろうとスマホを取り出そうとしたが
バッグにはなかった
どうやら家に忘れたらしい

ふと後ろを振り返ると
彼は本を閉じて上を見ていた

「何を見てるんですか」

「夜空です、ここの空はいつでも美しいのですよ」

「そうなんですか」
と上を見上げた
「わあきれい」
思わず声が漏れてしまった

「あの、もしよろしければもう少し一緒に空を眺めていませんか」
彼が少しおどおどしながらそういった

しばらく考えたあと
「いいですよ」
と答えた

それからしばらく彼と私は背を向ける形で空を見上げた

夜空を眺めながら
ふとさっきの疑問が口から出ていた

「あなた以外にここを知っている人っているんですか」

「・・・たぶんいないと思いますよ」

「それって道がわかりずらいとかですか、
 でもここのベンチを取り付けた人とかもいるんじゃないですか」

「いえ、このベンチも誰が置いたわけでもないのですよ」

「?」

意味が分からずしばらく黙っていた

「さて、おつきあいさせてしまって申し訳ありませんでした
 そろそろ帰りましょう」

「あの、もう少しこうしていませんか」

「時間、大丈夫なのですか」

「まあ、一日くらい」

「では」


すっかり真っ暗になった
広場は地面がよく見えなくてベンチと木がうすっらと見えるくらいだ

でも夜空はずっときらきら輝いている


そういえば寒くないな
彼はどうなんだろう


そう後ろを向いたが
彼はいなかった


また広場にいくと

ベンチはすっかり消えていた
まるでもとからなにもなかったように

仕方ないので木の下に座って読書をした


彼は現れなかった

でもあたしはそれからもいつもそこへいく


また遇えたらいいな


遇えないのかもしれないけどね…

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