【雫の記憶】
夜の海岸、冷たく湿った風が吹き抜ける。
月明かりに照らされた波打ち際を、一人の少女が歩いていた。
短い青髪が風に踊るナヅクの目は、深い思索に沈んでいる。
砂の上にきらりと光る小さな雫。
ナヅクは立ち止まり、そっとそれを拾い上げた。
「……これも誰かの記憶?」
彼女の声は、波音にかき消されるように静かだった。雫の中には、言葉にできない感情の断片が閉じ込められている。
――懐かしさ、痛み、
そしてほんのわずかな祈りのようなもの。
ナヅクは雫を見つめながら、遠い日の自分を思い出す。
「どうして想いはこんなにも形を変えてしまうのだろう……」
彼女の問いかけに、海は何も答えない。
寄せては返す波のように、時の流れはただ淡々と過ぎていく。
小さな溜息をつき、ナヅクは雫を胸元で握りしめた。
「私が……」
その言葉とともに、彼女は再び歩き出す。足元に広がる砂浜は冷たく、どこまでも続いているように見えた。
見上げた空には、星のように輝く無数の雫たちが浮かんでいる。
「どれも、誰かのかけら……」
彼女の瞳に映る光が、一瞬、寂しげに揺らめいた。