ブスの神様 2
駅に着いた夏美は
生まれ育ったこの街を捨てる。
自分自身で決めた。
川越か…
いくら必要?
切符を買うために料金を確認する。
もう後戻りはできないから、この時の夏美は
前を向いていた。後ろは決して振り向かない。
なんとかお財布の中に入っていたお金で足りたので一安心した。
まぁ、わかってはいた事だけど片道分しかない。
やっぱり帰るなんて弱音は吐けない状態だった。
電車に乗るのは久しぶりだな。
今まで遠出もした事ないし、友達と遊びに行く事もなかった。
家族旅行はいつも車だったし
今だに電車は特別な気分になる。
都会の人達は電車慣れしているのかな。
いつぶりに乗ったのか…
さっきまでの切ない気持ちや前を向くんだという
思い切りはだんだん緊張感へと変化した。
ほぼほぼ全財産を使って買ってしまった切符を
改札へ通し
夏美はこの電車で運ばれていく。
同じ日本なのにきっと想像できないくらいの場所へ行ってしまいそうだ。
乗り慣れない電車の座席に着き少しだけ震えている手で夏美は携帯電話を取り出した。
何時に着くんだろ?
幸いにも乗り換えはせず一本そのまま乗っていれば川越駅には着けるらしい。
車内のアナウンスに耳を傾けたり
電車の中をキョロキョロと見回したり
異空間に迷い込んだような行動をしてみたけど
到着時間がよくわからず
そのまま手に持っている携帯電話で到着時間を調べた。
2時間30分。
2時間30分後に夏美の新しい人生が初まるのかもしれない。
「電車乗りました。
ちょうど15:00頃着くみたいです。」
「わかった。迎え行くね。」
知っている、知っている、まだ知っている。
揺れ動く車内に合わせて体が動き
心地良い眠りについている人がいる。
親子でお出かけかな
学生さんかな勉強している人もいる。
夏美はずっと外を眺めていた。
普段はすぐに携帯電話を触ったり
本を読んだりしているのに
乗り慣れない電車の中ではどちらもしなかった。
外を眺めているのが1番良いと思ったから。
まだ知っている景色。
この建物も知っている。
電車の中から知っている日常を見るのは
少し新鮮な感じがした。
ほんの数時間前まで家にいたのに。
この選択をしたのは今朝の自分。
もうこれしかないと思った。
今まで言いなりになって耐えていたんだ
もう無理。助けてよ。
お父さん、お母さん助けてよ。
神様助けてください。
両親に話す事もできず友達もいない夏美は
とある人へメールを送った。
「助けてくれませんか
もうここから逃げたくて」