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神様が言っていた

ずっとずっと言ってくれていたんです。
「君の文章は繊細で人を惹きつけるよ」って。
私は嬉しくて
心が舞い上がりました。
不器用だから、この嬉しさが伝わっていたのかは
わかりません。

本当に私は不器用なのです。
可愛くない顔を見られる事が不安で
笑顔が下手です。

酔っ払った彼のひとつひとつの言葉が面白くて笑っていると
「幸せそうに笑うね」と言ってくれました。
可愛くなくても幸せを感じていようと思えた。

でも、やっぱり
「君は可愛くない。ブスはブス」

彼の言葉は
いつも事実なんです。
事実は時に人を傷つける。

美人になりたくて可愛くなりたくて
料理上手な奥様になりたくて
お話が上手くなりたくて
友達がほしくて

毎日
朝目覚めて私は可愛いと唱え
微笑み、堅苦しいコルセットを着用し姿勢を
気を付けて疲れ切っても休憩室の椅子は
背もたれに寄りかからず
痛みに耐えてピンヒールを履き
コツコツ料理を練習
YouTubeを垂れ流して話すスピードや
リアクションの勉強
漫画と小説は欠かさず読み
絶望的に体を動かす事が苦手な私が
筋トレを継続し
お胸専用のクリームで垂れ予防
10本もある指に眠い目を擦りながら
ネイルケア
全身鏡に自分を写し出し笑顔の特訓
枕カバーはシルク、おまけにシルクのナイトキャップでサラサラヘアを目指す
ピンクのオーロラの画像を見ながら念じて眠りに着く。

そう。

やっぱりブスでした。

ブスはブス。

彼は
一生失いたくない人でした。
今年も桜を見る事ができたのは
彼の一言があったから。

しかし
失ってしまいました。

こんな大人が
一晩中泣き続け…
目を腫らしとんでもないクマで
仕事へ向かう絶望…
食事も喉を通らずリンゴを齧るのみ。
相変わらずの肌荒れと涙が枯れ果てて
目を背けたくなる顔…

やっぱり彼の言う通り
そこにはブスがいました。

翌日
私はとにかく掃除をしました。
お風呂場も隅々
トイレも隅々
洗面台もキッチンも玄関も
床をずっと雑巾がけして
もう掃除をする場所がなくなった時

あっ…空っぽだ…

依存していたつもりはないけれども
やっぱり二度と会う事ができないとなると
強烈に胸が締め付けられる。

明日行こうと思っていた遅めの初詣。

今日行こう。

明日生きているかわからないし。

そんな弱々しい自分を自分で家から引き摺り出し
車を走らせ、とある神社へ向かいました。
神様に会いに行くので髪はしっかり結んでセットしました。スッピンなのはすみません。
金運、開運、縁結び
なんとも贅沢な神様。
遅めとはいえ今日は祝日なので家族連れ、カップル多数。
女一人、お賽銭を投げ入れ
これまた「どんだけー?」とツッコミが入りそうなほど手を合わせる。

お守りを買って帰り際おみくじを引きました。
木の陰にそっと入りコソコソと
おみくじを眺めていると

《大吉》

それよりも気になっていたのが仕事運です。
今月で仕事を辞める事が決まっている私は
早く次の仕事を見つけないと生きていけないのです。
生きようとはしているみたいですね。

仕事運…文字に関わる仕事に良い縁がある。

文字…?

何度も彼は言ってくれました。
「小説を書け」

その言葉を胸に去年一年間、小説家になった気分でチマチマ文章を書いていました。
新人賞に応募しよって無謀な決意をもって。
結果は全くうまくいきませんでした。
当たり前です。
ただ日陰で好きな小説を読んでいる私が一年でどうにかできるわけではありません。

でも、もう一年頑張れば出来るかもしれない。
読んでもらいたかったな。

彼と神様は同じ事を言っていました。
もしかしたら彼は神様だったのでしょうか。
日陰にいる私を日向に引っ張ってくれたのでしょうか。

神様、見ていてください。


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