大学における「合理的配慮」について
今回は大学における「合理的配慮」についてお話しします。大学関係者、特に学生支援系、教務系の職員の方は最近よく耳にするのではないでしょうか。
前回に引き続き学生支援系の内容なので、またご意見ありましたらウェルカムです。
①「合理的配慮」とは
そもそも「合理的配慮」とは何か、という所からお話しします。
この言葉は令和3年に障害者差別解消法が改正され、3年以内に事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されたことにより普及していきました。
具体的な内容としては、
① 行政機関等と事業者が、
② その事務・事業を行うに当たり、
③ 個々の場面で、障害者から「社会的なバリアを取り除いてほしい」旨の意思の表明があった場合に
④ その実施に伴う負担が過重でないときに
⑤ 社会的なバリアを取り除くために必要かつ合理的な配慮を講ずること
とされています。個々の場面でバリアを除く意思表示があった場合に合理的な配慮を実施者が過重な負担が無い範囲で行う、このような感じです。個々に対応するため、実施者と申請者との対話が必要ですね。
詳しくは以下の内閣府のHPをご覧ください。
この「合理的配慮」について、それまでは事業者に対して合理的な配慮の提供が努力義務だったのですが、令和6年4月からは「義務化」されました。
つまり、大学もこの合理的配慮について令和6年4月から提供することが義務となり、各大学対応に追われている事かと思います。もちろん既にこの配慮の提供についてルールが明文化されている大学もあります。
②大学における「合理的配慮」
それでは大学ではどのように考えていけばいいのでしょうか。
奨学金の話でも出ました日本学生支援機構(通称:JASSO)が出している「大学等における基本的な考え方」には以下のように提示しています。
障害のある学生が、他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、大学等が行う必要かつ適当な変更・調整で、
大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるものであり、かつ、
大学等に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担(以下、過重な負担)を課さないもの
更に詳しく知りたい方はこちらのリンクから
ここではあまり具体的に書いていませんが、HPには更に詳しくどういったケースでどのように対応するのか具体例が書かれているので大変ありがたいですね。参考になります。
こうした指針から各大学へ対象者やケースについて明文化し、大学のルールとして告示していきます。
③各大学の事例
それではここで大学の事例を見てみましょう。
早稲田大学
https://www.jstage.jst.go.jp/article/konpyutariyoukyouiku/40/0/40_19/_pdf/-char/ja
筑波大学
九州大学
https://www.kyushu-u.ac.jp/f/52866/2023_guide_book.pdf
やはり有名大学では障害者支援や合理的配慮についてのルールが既に明文化されていますね。私としてもとても参考になります。
参考までに筑波大学のどのような対応があるか具体例を見ていきます。
※この内容はあくまでも例ですので、実際の配慮内容は学生と個別に面談をしながら、個々の学生の特性に応じて検討しています。
障害による留意事項の教職員への伝達
受講時における座席位置の配慮
試験時におけるパソコン回答の許可
グループワーク時における発言ルール等の明確化
授業等の評価基準を本質的に変更しない範囲での成績評価方法の調整(集団から個別発表への変更など) など
以上です。一部抜粋して載せましたが、上記の配慮は、これまでに発達障害の診断または傾向のある学生に実施してきた合理的配慮の”一例”ですが、授業によっては提供できる配慮が異なります。
ここから更に申請内容と配慮出来ること、できないことも見てみましょう。
「ASDの聴覚過敏があり、ノイズキャンセリングイヤホンの着用を認めること」⇒「障害特性と希望する配慮内容に関連があり、成績評価基準の本質的変更に該当しないと判断されるため、認められる」
「授業に参加することなく、単位を認めること」⇒「授業時の討論への参加が成績評価基準に含まれる場合、希望する配慮内容により評価基準を本質的に変更すると判断されるため、認められない」
これらは上にある筑波大学のリンクから引用しましたので、詳しく知りたい方は上記リンクからご覧ください。
④私なりの解釈
さて、ここまで見てきた合理的配慮ですが、私なりの解釈をしてみました。上記の文章は正直私にとって少し難しいので、できるだけ簡略化して分かりやすい形で私の意見を伝えると・・・
大学側と配慮が必要な側で、第一にゴールまたは実施したいことをしっかり共通認識をする。
そのゴールや実施したいことに対して”何が障壁になっているか”共通認識をする。
大学側でできること、できないことがあるので、そこは申請に対して大学側でしっかり協議し、その結果を伝える。
以上です。ここで大切なポイントは2点あります。
1つ目は、「ゴールを安易に緩和しない」。例えば、授業の単位修得に関してシラバスに明確に評価基準を書いています。その評価基準を合理的に配慮をすべきだからといって安易に緩めてしまうと、その授業で身に付けるべき能力や知識が不足したまま単位を認めてしまうことになります。評価方法を他のものに代替して同様に評価する、などといった配慮なら良いと思いますが、ゴールを安易に緩めることについて私は否定的です。
2つ目は、「話し合いの機会を確保する」。これは内閣府のリーフレットにも書かれていますが、私のポイントとしては、話し合うことで”共通認識を図る”ためです。大学側と申請者側で意識のズレがあると、そのまま事が進んでしまい、申請者が思ってもみない形に収まってしまうことが予想されます。そういったことがないように、しっかりと機会を確保して両者の認識を合わせます。また、話し合いの機会は申請があった後の大学側の協議にも言えます。ここでもしっかりと話し合い、申請に関わる教職員に配慮に関して共通認識を持たせます。こうすることによって、申請者と大学側が望む対応ができ、合理的に配慮することができたと言えるでしょう。
まとめ・おわりに
いかがでしたでしょうか。
今回は大学における「合理的配慮」についてお話ししました。
最近ホットな話題ですので、私自身色々調べてとても勉強になりました。大学生活で障壁のある学生等に意識を向けて、一人でも多くの方がより良い大学生活を送れるようにしたいと思います。
今回の記事が大学職員を目指している人に少しでも貢献できれば幸いです。