
Photo by
twsnmp
とある猫の個人的な思い出(1)
~私のはじまり~
私は三毛ネコだ。本州の寒い地方の田舎で、冬に生まれた。
ちなみに母も三毛だった。
しっぽが長い、くっきりした毛色。私もこれらを受け継いだようだ。
母が住んでいた家は牛飼いだった。
近所の人はこの家を「牛乳屋」と呼んだ。二百人ほどの集落に、朝絞ったそのままの牛乳を一升瓶に入れ、配達用の自転車て配っていた。
朝絞ったそのままとは、文字通りしぼりたてである。牛の体温がそのまま感じられる牛の乳を、私と同じように近所の人間たちも分けてもらい、お代を払ってくれた。
とても濃くて、瓶に入れるとすぐに膜が張り瓶をふさいだ。すぐに悪くなってしまうので人間たちは受け取ったらすぐに冷やすようだったが、私は温かいままを飲むのが好きだった。
まあ、今の時代にはできないことが、その時代はあたりまえだった。
牛はたくさんというほどではなかったが、乳しぼりや食事どきにはそれなりにやかましかった。毎朝集荷のトラックが来て金属の缶を運んで行った。
牛舎の二階には藁がたくさんあって、冬でも寒くはなかった。
鼠もたくさんいた。母は子育ての傍ら、鼠捕りも得意だったと聞いた。
でも、母のことを私はよく覚えていない。
なぜなら、生まれてニ週間ほどしたときに、私は近所にもらわれていったからである。
こうして私の新しい生活が始まる。この話は私がもらわれて行った家で過ごした一生の思い出である。
(つづく)