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酔いどれ文庫 【半化粧とおでん】

【半化粧とおでん】

マンモス団地の商栄会で草むしりがあった。
カレンダーに関係ない人間の集まりは夕方からむしり始める。
炎天下にさらされる事はないにせよ、終わったころに日はとっぷり暮れている。
棟と棟の間にはお粗末な生垣があり雑草が伸び放題だった。
薄暗い中手さぐりでいると草いきれに出くわす…無口な草木のきぬ擦れか。

僕はリアカーをひいて米屋の娘は荷台でくつろいでいた。
イ号棟から最後の棟まではうんざりするほどの生垣があった。
山盛りのリアカーを噴水広場へひいては待機しているパッカー車に放り込む…モーターの音が団地に響いたが運転手は眠りつづけていた。
同じころ社務所ではコピーロボの2人が大鍋でおでんを作っていた。
大根、玉子、タコに牛すじ串を炊く…
味付けは業務用の白ダシをどぼどぼいれる。
外置きのプロパンガスで一気に炊くと湯気が鳥居の先をかすめた。

商栄会の代表(乾物屋)が挨拶すると缶ビールが開いた。
毎年の事だが「家の物でダシをとってくれてもいいんじゃないか」でみんなが笑うらしい。
草むしりの打ち上げが始める…
牛すじの脂が溶けだして大根に照りがあった。
彼女は酒をやらないので塩むすびと牛すじ串を両手に持っていた(コピーロボの方は飲む)
僕は空いた串をタコに刺してビールを飲んだ。

「半夏だこなんて律儀だね」

コピーロボの彼女はワンカップを傾ける

「これもげん担ぎさ」

彼女の台詞は芝居がかっていた。



大鍋の底とお玉が音を立てた…商栄会の人達は三々五々くらやみへ戻るように帰っていった。

紙コップやワンカップ、業務用ペットボトルをリアカーにまとめて噴水広場を目指す…
パッカー車に放り込み丸いボタンを押すと再びモーター音が響いた。


月に雲が絡みついては離れ、光が漏れたと思えばまた絡みつく…
逢瀬を覗き見ている気分になった。

四人は噴水のふちに腰かけた。
底一面に半化粧が咲き誇っていたが光は不規則に底を照らす。

「頼んだよ」

コピーロボは大気に漂う月のあかりの粒子を取り込むと噴水の底にピントを合わせた。
二人の水晶体から照らされる半化粧の白が粒子に反応して青く浮かんだ。

「群青だね」

寂寥に包まれた半化粧が静かに揺れている。
粒子が切れた頃にはパッカー車の運転手は眼を覚ますのだろう。



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