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パリ ゲイ術体験記 vol.48「人種差別あれこれ」

パリを訪れて観光名所以外をあちらこちら散策してみたら、地域毎にだいぶ雰囲気が違うとびっくりされる方がいらっしゃる。
その中でも、10区のChâteau d'Eau (シャトー•ドウ)駅や18区のChâteau Rouge (シャトー•ルージュ)駅に降り立ったならば、そこはもうアフリカ。
黒人男性ばかりが集まっていると、見慣れていない私達にはそれだけで凄みを感じるのに、彼ら特有のマイペースな動きやまくしたてるような会話の渦に埋もれるとなんだか気圧されてしまう。

土地が広い大陸の人特有のものなのか、現地直送型の中国人やアフリカ人は声がでかい。特にアフリカ人は骨格が良いからか野太い声質で、笑い声も地響きするような豪快さ。
大陸育ちの方々は些細な事についてはほぼ気を遣わない質だから、パリでもところ構わずに延々と携帯電話で大声の会話をしている。
この人達がバスの車内で電話で話していると、イライラした運転手が「ちょっとそこの電話の人!もっと静かにしてくれ、全く!」と車内に向かって身を乗り出して怒っている光景を何度目撃したことか。

パリにはこんなに多くのアフリカ人がいるのに、私の友達で黒人の友人を持つ人は少ない。
「へ~っ、のりタマはブラックの友達がいるんだね?」と意外そう。「僕はあの人達とはちょっと..」とシーシー声で反応する白人フランス人が結構いるのを実感している。
しかし私は、小さな事でくよくよ腐って抜け出せない時など、アフリカ系の人の先天的とも思われる大らかさに触れると、癒されてポジティブな思考を見つけ出す事が多々あるので、私個人としては彼らの存在を有り難がっている方なのである。
人類って所詮こんなもんだから. . . みたいな事を大昔から知って実践して生きているようなあたりが、自然の摂理にかなった感じでなんとも頼もしい。

黒人の人々はフランス白人社会の中では差別の標的になるのが現実のようであるが、実はアフリカ人種はアフリカ人達の中での差別が存在しているのを知った。
私の友人バリ君はコートジボワールから移ってきた青年で、当然ながら肌は黒くて髪は大仏頭の典型的なアフリカ人。
だけど、自己の色感覚は浅黒いという程度らしくて、アフリカの某他国の黒人を見て「あいつら真っ黒け」と言ってのける。
私が「確かに黒さの種類は違うように見えるけど、君とてなかなかの真っ黒けに見えてるけど. . 」と言えば、自分なんかの黒さのレベルではないときっぱり否定。
更にまた別の国の黒人の事を「あそこの国の人間はもともとが奴隷上がりさ」とやや冷ややかに聞こえたような聞こえなかったような. . .

さて、私のピアニスト仲間にY君という差別がまあまあ好きな人間がいる。
彼とパートナーの暮らすアパートに時々泊まっていく黒人の友人がいて、自分達の朝食はパンとコーヒーなのに、その友人には毎回必ずバナナだけを出して、その黒人がその行為に憤慨しだすとニヤニヤ嬉しがるという趣味の悪さ。
それと、夜間に街でタクシーをひろった時にタクシー•ドライバーが黒人だった場合「夜の闇にまみれて顔が見えないので、無人タクシーが走ってきたかとドキドキしましたっ。たまに白い歯だけが空中に浮いて見えてたりして. . .」という無邪気に無礼な話を必ず運転手に言ってみるらしいのである。
ま、Y君はきっとそのうちに何処かで痛い目に遭うに違いないと私はにらんでいるのだが。

人種差別を受けるのは何もアフリカ系やイスラム系だけではなく、アジア人だってそう多くはないけれど例外ではない。
これは、まだ音楽院の学生だった頃に先輩のJ子さんが受けていた室内楽のクラスを聴講した時の事。
ピアノ•トリオの途中で大事な箇所を誰かが間違ったリズムで弾いていたとの指摘を先生がして、誰が変だったかを一人ずつ弾いて確認する場面になった。
特に難しいリズムでもなかったからJ子さんはさらっと弾いたところ、なんと先生は「リズム自体は間違っていないが、J子のは黄色いリズムだ」と言ったのである。
その年にフランスに到着したてのほやほやの私は「へーぇ、リズムにもそんな事があり得るのか。黄色ねぇ. . .」くらいにある意味感心しながら聞いていたが、J子さんは即座に真っ赤を通り越した紫色の怒り顔となって大噴火を起こし、室内楽の先生の胸ぐらを掴まんばかりのパワーで「人種差別野郎ー!!」と抗議をして先生を追い込んだシーンだけが記憶にある。

フランスの移民が多い環境の中で、上質な教育や全うな躾を受けてこなかったアフリカ系やアラブ系の行儀のよろしくない人間は確かに多い。
それらの人間との接触を避けるための行動は、人種差別とは少し違うようにも思うのだが、J子さんが受けたような扱いはれっきとした差別意識から生じているものだから、より深刻なものではなかろうか?

この街に住む私の認識では、パリに暮らす日本人には16区辺りの高級住宅街が治安や環境が良いと人気が高いようである。
だがそこに暮らすいくらかの白人の、我々に挨拶は返したとしても横柄な眼差しの視線がひどく不愉快で、絶対にあの辺には住みたくないと思っている自分は少し偏屈者なのかも知れない. . .

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