わたしの可愛い手首。
ある場所で見かけた「リスカ痕があったら気になりますか?」という質問。
ふと思い出す、私の手首。
内側のやわらかいところに傷が残っている。
ひとつひとつは細くて薄く、白い線がうっすら残っているだけ。
変に几帳面な性格を象徴するように、綺麗に平行に並んでいる。
左だけではなく右にもあるし、正確には手首よりもっと範囲が広い。
あの人に見られたら、聞かれたら、なんと答えるだろう。
リストカットしていた頃のこと。
今まで何度も繰り返し壊れてしまった。
なにがそんなに嫌だったのか、今となっては分からない。
「仕事なんて辞めれば良かった」
今だから言える事で、その時のわたしには分からなかった。
全然好きではない仕事でも、とにかく働かなければいけないと思っていた。
「大切にしてくれない男とは別れればいい」
別れ方を知らなかったし、情が湧いていたし、なにより最初は大好きだったのだ。なかなか手離せなかった。
たくさんの事が重なって、私は壊れた。
一度目は仕事を辞めて少し休めば回復した。
二度目は不眠症から始まってわたしを取り戻すのに何年かかかった。
毎日とんでもなく忙しかった。
プライベートでも人間関係を拗らせていた。
眠るのが大好きなのに、ひとつも眠れない。
では寝ないで平気かというとそうでもない。
ひどく疲れて眠ることしか考えられなかった。
たくさん薬を貰って、眠れるようになってもつらかった。
付き合っている人とも家族ともうまくいかない。
自分の不安定さが、周囲に迷惑をかけてしまう。
そんな中で手首を切っていた。
死にたかったのか。
私に関して言えば、死ねるとは思ってなかった。
ODも同じ。
死にたいとは言っていたが、こんなことでは死ねないと冷静に見ている自分もいた。
ただ、そこに手首があったから切った。
綺麗に規則正しく。
事後にはきちんと清潔なガーゼを当てて包帯を巻いた。
包帯を巻かれた手首は可愛かった。
誰かに構って欲しかったのか。
これも私に関しては違う。
普段は構って欲しいくせに、手首の傷は隠していた。
気付かれて心配されるのは嫌だった。
「大丈夫?」とか「自分を傷つけてはダメだよ」とか言われたくなかった。
他人からの心配に言葉を返す気力がなかったし、わたしはわたしの、したいようにしたのだ。
だから担当医にもはっきりとは話さなかった。
自分で対処できるくらいの深さだったのもある。
淡々と切って、綺麗な包帯を巻き続けた。
なぜ切らなくなったのか。
ある日突然、それはやってきた。
我に返る、とはこの事かもしれない。
長らく薬を飲み眠れるようになってきて、仕事を辞めて別れるべき人と別れた。
ふと、もうやめようと思った。
大丈夫になったわけではないし、今でも苦しい。
なにかが「治った」とは思っていない。
でも少しだけマシ。
今でもエラーを出しながら、わたしはわたしをやっている。
苦しい誰かへ。
私の記録が慰めになるとは思っていないし、おすすめしているわけでもない。
自傷しないに越した事はない。
痕が派手に残って後悔だってするかもしれない。
「気にしないよ」って言われても安心できないかもしれない。
だけど別にいいんじゃないかなって、わたしは思っている。
わたしも最近、はじめましての人に手首を見られている。
なにも言われなかったし、嫌な顔もされなかった。お仕事中だからかもしれないし、単純に気付いていないのかもしれない。
聞かれたらなんて言おうかなって考えていたら、こんなに長くなってしまった。
いつだってわたしはわたしが大嫌いで大好きで、可愛い。