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お墓参り 珍道中

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私は離婚した時に、旧姓に戻らなかった。
子どもが小学生だったので、急に名字が変わっては、詮索されて嫌な思いをするのじゃないかと思ったことが大きな理由だ。

その為、婚家の姓を名乗っている。そうなるとお墓参りはいったいどうなる?

以前は長女と三女と三人で時々参っていたが、ここ最近は私の病気やコロナなどで、長い間ご無沙汰していた。

ところが、今夏は三女のお婿さんが来てくれるという。
元々お墓参りに来て貰うつもりはなかった。私の実家の墓だし、お婿さんはお参りする義理もないしね。

それに私は婚家の姓を名乗っている為、短冊に、◯◯家先祖代々の霊位と書いて、毎日お線香を焚いて、婚家の先祖の霊を中心に、縁のある霊として自分の実家、子どものお婿さんの実家にも、感謝しながら手を合わせている。私流である。なので、お墓参りをしていなくてもさほど気にしていなかった。

けれどお婿さんは気にしていると娘は言う。思わぬことに、じわじわと嬉しさが込み上がってきた。孫も今回初めてお参りするのだ。

だが最初からつまづいた。いつも墓地にあった花屋さんが閉まってた。タクシーの運ちゃんは、お墓に寄った分、料金を戻してくれて、迂回して、花のあるスーパーに寄ってくれた。スミマセン

そんな中、お参りして驚いたことに、孫は炎天下の中、お墓に水をかけたり、拭いたりするのを嬉々として楽しんでいるのだ。お父さんの墓地ではしないの?と聞いたら、もう綺麗にした後に参るのでこんなことは初めてと言う。なるほど、子どもたちは経験したいんだな、と二人の姿を微笑ましく思ったのである。

だが、喜びも束の間、これからも無い無い尽くしのオンパレード。
 
帰りに近くのレストランで食事しようと思っていたのに、な、なんと閉まっていたのだ。今までお盆に閉まったことがないのに…
ゆったりとレストランで寛いでもらおうと思っていた私の目論見は、早くも崩れ去ってしまった。
何故前日に確かめなかったのだ、と自分に突っ込む

仕方がないので、このまま駅に戻らなくてはならないが、
タクシー会社に連絡してもつかまらない。

昔あったバス停が見つからない(路線バスが無くなっていた)

ない、ない、ない!!
暑い、暑い、暑い!!

ようやくコミュニティバスのバス停が見つかったけど2つある。どっち?ルートもわからない。やっと来たバスに乗って、つい運ちゃんに、ルートがややこしくて迷った、と言ったらゴメンねと返ってくる。
いや、そんなつもりは…
コミュニティバスは無料だ。その上バスから降りたら、有難うございましたと、二人の市役所の人?が丁寧に出迎え??なんだこれは?無料なのに?いやいや、こちらこそ有難うでしょ。

そして、ようやくランチと思いきや、駅前でも閉まっている店が多く、やっと見つけたのは昔、子供時代によく行った小さな懐かしいうどん屋。

う〜ん
こんな狭い店でいいのか。でも、もうかれこれ1時半だし
いろいろ葛藤しながらも仕方なく入ったが…
美味しい!!
と孫が言ってくれたこの一言で、私の葛藤がどこか彼方へ吹き飛んでしまった。そしてこの狭いうどん屋で顔を突き合わせて食べるのもなかなかいいじゃないか、と思うに至った。

今までのお墓参りで、こんな大変だったことはない。けれどそのお陰で、行きのタクシーやコミュニティバスの運転手さんや、人情あふれる優しい人たちに触れることが出来た。準備不足のため、娘家族にはかなり暑い思いをさせたが、たまにはこんな珍道中も面白いね、と一人にんまりしたお参りの日であった。

でも、私の生まれた街、こんな優しい人たちばかりだったっけ?


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