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人と少しズレてる

  これは、精神科医である私の患者の日記だ。
本来なら秘匿義務があるため公にできないのだが、患者の了承も得られたため、公開する事とする。
以下、Gケース、患者M子の日記内容。

○月✕日
私は同年代の女の子と比べると少しズレている。
同じ大学の友人達があれ可愛いねと言っても、私にはそれが可愛くは見えない。
皆が面白いと言っているものや、あの人カッコ良いなどという物にも、全く共感を得られない。
ただ、私は昔から極端に周りに流されやすい性格だった。
他者に嫌われたら、厄介者扱いされてしまったら、そんな事ばかりを考えてしまい、嫌な事にもはいと答え、嫌いなものにも良いですねと、周囲に合わせてきた。
しかし、そんな生き方にもやはり限界があり、日々溜まっていくストレスに悩まされ、大人になってからは余り人と関わる事さえ億劫に感じていた。
一度その事を親に相談したころ、病院でのカウンセリングを進められ受診した。
結果、私は医師から社交不安障害だと診断されてしまった。
神経系の病の一種ともされているらしく、その事を知った私は、なるほど、これにはちゃんとした病名があるんだ……と一人納得してしまった。

○月✕日
家で変な事があった。
床が水浸しになっていたのだ。
水漏れか?それとも私が水を零した?
ともかく掃除しなければ。

○月✕日
まただ。
朝目覚めるとベッド周りが水浸しになっている。
私は一人暮らしなため他に誰もいない。
なのになぜ?雨漏り?
今度管理会社に相談しなくては。

○月✕日
これで三回目だ。
いい加減にして欲しい。
こう毎回水浸しにされては本当に困る。

○月✕日
やっと管理会社が業者を呼んでくれた。
しかし調べてもらった結果特に異常はないという。
もう少し調べてみますと言われかなり長い時間待たされた。
困った。
今日は大事な予定があるのに、あまり長居して欲しくない。
かと言って断る事はできなかった。

○月✕日
夢を見た。
遠い過去の出来事。
幼い頃友達数人で遊んだ日の事。
日も暮れ始め早く帰りたかったが、友達の一人B君がまだ遊ぼうと言ってきたため、私は帰るに帰れなかった。
昔から私はこうだった、嫌な想い出だ。

○月✕日
また夢を見た。
B君の夢だ。
しかもなぜかB君はびしょ濡れだった。
ひょっとして一連の水騒ぎはB君?
そんな訳はない。
馬鹿げていると自分に言い聞かせたが、やはりちょっと怖い。

○月✕日
同窓会に参加した。
久々に楽しかったけど、嫌な記憶が蘇ったせいで後半は余り楽しめなかった。

○月✕日
今日は受診の日だった。
ここ最近の事を先生に聞かせたら、もしかしたら私の不安障害は、過去のトラウマによるものかもしれないと言われた。
そのせいで過度なストレスが負荷になっているんじゃないかと。
先生に一度過去の事を整理して、次の受診日に良ければ聴かせて欲しいと言われた。
過去を整理……そうしよう。


以上がM子の日記内容を一部抜粋したものだ。 
その後、M子は約束通り私に過去にあった事を打ち明けてくれた。

「あれはそう……私が小学生の頃でした。友達数人と遊んでいたんです……私は早く帰りたかったのにB君が中々返してくれなくて、そしたらB君が川で遊ぼうって、仕方なく皆で行ったんですよ。最初は一緒に遊んでいたんですけど、その後バラバラに遊び初めて、結局夜になってしまったんです。流石に皆帰ろうと言い出したんですけどB君だけ居なくて、先に帰ったんじゃないかって言われたので、そうかもしれないねって答えたんです」

「それからB君はどうなったの?」

「夜になって警察とかB君の親が来て大騒ぎになっていました。B君が帰ってないって……他の皆は知らないって言ってるけど、M子ちゃんは何か知らないかって聞かれて、私も思わず知らないって答えたんです」

「思わず……?」

「ええ……皆がそう言うなら合わせなきゃって思って……」

「そうじゃなくて、M子さんはB君の事で何か知ってたの?」

「はい知ってますよ」

「な、何があったの?」

「早く帰りたかったって言ったじゃないですか、B君さえ居なければ早く帰れたんですから、そんな事よりこれが原因だったんですよ、先生の言う通りでした。これのせいで私は周りに合わせて生きてきたんだって。でも何もかも吹っ切れました。先生……私多分もう大丈夫だと思います……」

「待って!まだ話は、」

「すみません先生、今日新しい水道業者の人が来るんです。前の人はもう居ないので……」

「居ない……どういう意、」

「じゃあ失礼します。これからは私、前より生きやすい人生を送れそうです、ありがとうございました」

そう言うとM子さんは、今まで見せたこともない、とてもスッキリした笑顔で診察室を出て行った。





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