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スクリーム

 タクシー運転手の坂本さんはある事で悩んでいた。
それは、家からたまに女の悲鳴が聴こえるというもの。
坂本さんの家は二階建ての一軒家で、家族は妻と娘と息子の四人暮し。
最初は二階の息子達が大音量で映画でも観ているのかと思っていたが、夜勤帰りの昼間、誰もいないはずのリビングで新聞を読んでいると、突然背後から女の悲鳴が部屋中に轟いた。
あまりの事に気が動転した坂本さんは部屋中をくまなく見て回ったが何も異常はなかったという。

しかしやはり気になった坂本さんはその夜、晩御飯中にその事を家族に尋ねることにした。

「なあ、家で女の悲鳴みたいなの聞こえたりした事ないか?」

「そう言えば私も聞いた事あるわね」

「お母さんそれ多分お兄ちゃんだよ、何か銃で撃ちまくるゲームよくやってんじゃん」

「ちげーよ、今やってるゲーム女の悲鳴とかねえもん」

「じゃあ何かしら?貴方が観てた映画とかじゃないの?」

妻が訝しげに坂本さんを見た。

「いや、俺も最初はそう思ったんだよ。誰かテレビでも観てるのかなって、だけど誰もいない時にリビングで聴いた事もあるんだ」

「え~もうやめてよお父さん、私そういうのまじで苦手なんだけど」

娘が露骨に嫌そうな顔を向けてきた。

その時だ。

「キャアアアアッ!」

「うわっ!?」

女の悲鳴が居間に響き渡った。
皆一様に唖然とした顔で固まっている。

「何今のちょっとお父さん!」

「あ、ああ……い、今どこから聞こえたか分かるか?」

すると、妻や娘と息子三人は、強ばった顔で一斉にある箇所に視線を向けた。
そこはリビングの一角だった。
坂本さんが大事にしているワインやウイスキーを飾ってあるショーケース。
その上に飾られた、古めかしい市松人形だ。
坂本さんの亡き祖母が大事にしていた人形。
形見にと引き取り飾ってあったもの。

「ちょ、ちょっと貴方」

妻の声にせっつかれる様にして坂本さんが席を立った。
ゴクリと唾を飲み頷くと、人形へとゆっくり近寄る。
家族が不安そうに見守る中、坂本さんは人形の入ったガラスケースを持ち上げた。

人形に特に異常は見当たらない。

「そ、そんな事あるわけ……」

振り返り坂本さんは言葉に詰まった。
家族の様子が変だ。
皆坂本さんを見てわなわなと震え恐怖に満ちた顔のまま固まっている。

いや……正確には坂本さんにではない、その視線は背後に注がれている。
思わず坂本さんが振り返った。

そこには、ショーケースの裏から薄い布切れの様な顔が、首から上だけを出し、じっとこちらを見ていた。
顔は潰れ、平たく大きく充血した目。
ぺしゃんこになった歪な口が、ぐゃぐにゃと動き開いた。

「キャアアアアッ!」

「うわああっ!!」

以上が坂本さん一家が体験した話だ。
その後警察を呼んだが、家族の話は一向に相手にされず、集団ヒステリーでも起こしたのではと言われ片付けられた。
坂本さんは未だあの家に住み続けているらしいが、あれ以来、あの化け物は姿を現していないという。



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