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終わらない約束

楽しみにしている予定が近くなってきたとき、わくわくした気持ちと同時にどこか不安や寂しさがひょいと顔を出してくることがある。その理由が長年はっきりしなかったが、遂にわかった気がする。その予定が終わってしまうとそこで得た思い出や煌めきは過去のものになる。楽しい瞬間はその時その時にしか味わえない、貴重な一瞬。形のあるものとして残せないから、毎日新しい出来事で記憶が上書きされていく。楽しかった時間は、どんどん遠い過去に変わってゆく・・・それが怖いんだ。

高校・大学の友達や会社の仲の良い同期はまたいつでも会える、と無意識のうちに思っているから比較的不安は小さいけど、必ず次も会えるという確証はどこにもない。人間同士のつながりなんてどこで途切れるかわからない。お互いに別れを望んでいなかったとしても、突然終わってしまうことだって起こりうる。それが人生だもの。

恋愛になると殊更そうだ。恋愛体質かつ恋愛弱者である僕は、異性との予定が入るとそれだけで幸せになる。


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僕は今日というこの日を一生忘れないだろう。

大好きな先輩と、二人きりでドライブデートをした。
供給過多でぶっ倒れそうだw

やばかった。常に隣には先輩の美しい横顔が。横顔だけで何回爆発しそうになったことか。運転中も食事中もちょっとした移動の合間さえもずっと二人でたわいもないことを話していた。今回は先輩の仕事の関係でたまたま僕が必要な内容だったから同行させてもらったけど、そんなの関係なく毎回お供させてもらいたい。どこまでもついていきますよ。

僕は今度二人きりになったら必ず言おうと決めていたことがあった。それは先輩の今の髪型を褒めること。会社では褒めたが二人きりの時にはまだ言ってなかった。素直に嬉しいと喜んでくれて、その笑顔にまた惚れてしまう。「フジくんはいつも褒めてくれるから自己肯定感が上がる」と言ってくれてまた好きに。

訪問先でも先輩の天然ぶりは炸裂した。
壁に貼られているポスターを見ていて、何に注目しているのかなと思ったらポスターの内容ではなくそこに写っているお姉さんが綺麗だと言っていた。すかさず僕も「・・・先輩も綺麗なお姉さんですよ」と言った。だいぶ勇気を出したが「そんなに褒めても何も出ないですよ」とあしらわれた。

応接室に通されて待機している間も、先輩はそわそわと体を揺らしていた。そわそわすら可愛いって何事。。手を伸ばしたくなる気持ちが見え隠れする度に、理性で懸命に抑えていた。今は仕事だと。

実はこの日訪ねたところの一つは、僕の母校である大学。
時間の関係で構内や周辺をじっくり案内することは叶わなかったけど、卒業してからこうやって好きな人と一緒に学内を歩くことができて幸せだった。先輩はまたここを訪問する時は一緒に行きましょって言ってくれた。毎月、いや毎週でも構わない。

オフィスの中でも喋れるけど、もう解放感が全然違う。見張る人がいない、二人きりなのは本当に最高だ。先輩との会話もめちゃくちゃ弾んだし、笑顔をいっぱい見られた。今、先輩の笑顔を僕だけが独り占めしている。その事実がたまらなく幸せだった。

こうして共に仕事する機会もたまにはあるし、LINEでも話すしプライベートでも会ってくれる。会社の一同僚としてはもう十分過ぎるくらい仲良くしてくれているのに、"まだ"これ以上を求めるのはわがままだろうか。


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今月と来月、先輩と会社の外で会う約束を二回している。その内一件は二人きりではないけど、どちらも楽しみだ。ただこの二つが終われば、先輩と次に遊ぶ機会は当面先になってしまう。

もし恋人関係になれたら、この先もずっと会える。二人で予定を作ることが当たり前になる。勿論それには互いの努力が不可欠だけど、今の関係よりは遥かに「会える未来」が詰まっている。僕はそれをずっとずっとずっと望んでいた。

この気持ちを伝えたい。
だが先輩は僕を一人の後輩として可愛がってくれているだけだろう。先輩の笑顔のために色々頑張ってはいるつもりだけど、その理由が溢れんばかりの愛から来ていることは先輩に伝わっているのだろうか。

この日はだいぶ頑張ったけどね。
髪型を褒めた。綺麗なお姉さんですって言った。ドライブデート楽しかったですって言った。今までの僕の奥手ぶりからは想像できないほどのジャブを打っている。全部告白みたいなものよ。
ここまで言われて意識しない女性っている?
どれだけ鈍感でも。

幸せと辛いは紙一重だ。
この恋が実りますように。少しだけ、少しだけそう思わせて?

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