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コトヴィア〜いつかあのウィナーズサークルで〜6

ゲートが開いてスタートを切る。

「あっ!」

思わず声が出る。15番の青い勝負服のコトヴィアが半完歩ほど出遅れる。

(これくらいの出遅れなら大丈夫···)

レースはスタートダッシュを決めた馬が勢いそのままに2番手を離しての逃げ。

(ペースは早そう。後方の馬もチャンスはあるかも)

コトヴィアに目をやる。出遅れをリカバリーして中団よりやや後ろの外側を追走。コーナーワークでの距離ロスをなくすためにどこかのタイミングで内に進路を取りたい。しかし3コーナーにさしかかっても内に入るスペースがないのか外側を追走。ここで騎手の手が激しく動き追い出しにはいる。このまま大外を捲っていくようだ。

懸命に先頭との差を縮めようとするがその差は約10馬身。最後の直線に入る。

「あかーん!!」

思わず叫んでしまう。隣にいた真平も「うーん··」

と唸る。妻と娘は私の前で「頑張れがんばれ」と応援。

 ハイペースの割には先行してた馬達が止まらない。そしてコトヴィアは1着になるには絶望的な位置··

(さすがに届かない··)

レースは2番手と4番手にいた馬が逃げた馬を残り200m地点で捕らえる。

(勝つのはこの2頭のどっちかだ)

とそこで大外から凄い勢いで伸びてくる馬が1頭。

コトヴィアだ!

「おい!伸びてきてるぞ!」

真平が言う。

「えっ?えっ?ほんまや!間に合うか?」

ようやく末脚にエンジンがかかったようで1完歩ずつ差を詰めてくる。

「あ〜〜!お〜〜!」

よく分からない声が出る。

コトヴィアの末脚は最後まで勢いがなくなる事なくゴール。

しかし結果は3着。これで3戦連続の3着。

「ダメだったか···」

呆然と立ち尽くす。悔しい。あのウィナーズサークルには今日も入れず。

「最後伸びてきてたのになぁ。もうちょっと早めに上がってきてたら、なぁ」

真平は冷静に分析、してたかと思うと

「わっ!てか俺の馬券当たってるわ!サンキューコトヴィア!よく3着に来てくれた!」

まあ真平の馬券が当たったのなら今日はそれでよしとするか··

「出資馬の応援って普通にレース見る時より興奮するな!俺の初めての出資馬は来月デビュー予定やから楽しみやわ!」

真平もきっと一口馬主の虜になるだろう。

「ねぇ、大きいすべりだいでもう一回遊びたいしジュースも飲みたいー」

娘はこの状況に飽きてきたようだ。

「よし、お父さんの用事は済んだからあとは大きい滑り台で好きなだけ遊んで温泉入って帰ろか」

「おっ、温泉ええな!俺は席に戻って残りのレースで儲けるように頑張るわ!それと···」

真平はカバンから財布を出す。

「パパの馬の応援頑張ってたな。これでジュースとおやつ買ってもらい」

そう言いながら娘に千円札を渡す。まだお金の価値をあまり知らない娘はキョトンとしている。

「そんなんええのに。なんか気遣わせて悪いな」

「すいません、ありがとうございます。ほれ、ありがとうは?」

「ありがとう」

「どういたしまして!いやあ、ちょっとの間やったけどほんまに楽しかった!また競馬場行こう」

「そうしよう!今日はありがとう!また連絡するよ」

こうして口取りが掛かったレースは終了。

 その後娘はジュースを飲んでパワーチャージするとキッズエリアで目一杯遊ぶ。

「おとうさんと一緒にすべり台したい」

という謎のリクエストに応えて滑り台を滑る羽目に。スーツ姿のおじさんが滑り台を滑ってくる所を妻はニヤニヤしながら写真を撮る。

(こんな事をしに来たのではない。コトヴィアよ、次は勝ってくれ)

最後は日帰り温泉で疲れを癒して楽しい休日は終了。

ちなみに真平はコトヴィアで当てた馬券はすぐに溶けてしまい結局7万負けという惨憺たる結果だったらしい。久しぶり再会した2人は共に

「次こそは!!」

と思うのだった。


 コトヴィアはその後次のレースでも4戦連続となる3着に。結局未勝利戦を勝ち上がる事が出来ずファンドは一旦解散し、ホッカイドウ競馬に移籍。そこで今度は4戦連続2着に。再び移籍した名古屋競馬で初勝利を上げるが、レース内容から仮にJRAに戻ったとしても勝利するのは難しいと判断され再ファンドされる事はなかった。

「いつかあのウィナーズサークルで」

叶う事は出来なかったが、ドキドキハラハラさせられた印象に残る馬だ。


終わり


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