切手代より高かったであろう電話代

学生時代に住み込みで働いていたタコ部屋の同僚達は、学校の入学金を借金として負わされた状態で働いていた。

中に一人だけ、そうでない人がいた。
借金を負ってないばかりでなく、大学の授業料まで親が払ってくれているのだと彼は言った。

そもそもこんなタコ部屋に来る必要のない人だったので、なぜここに来たのか訊くと、兄弟に引け目を感じているので、せめて親の仕送りが必要ない生活をしたかったのだと言っていた。

「それじゃなんで親御さんが授業料払ってるんですか?」と訊いたら、「親の所に授業料の請求が行って、親が払っちゃうんだもん」と彼は言った。私がそこに行って間もない頃の会話であった。

その時はその話は解せなかったのであったが、半年後、理解せざるを得ない出来事があった。
 
タコ部屋の電話に母から電話があり、私が事務所の人に呼び出されたのであった。

母は怒り心頭であった。 
なんと母に、大学の後期の授業料の振込用紙が届いたのだと言う。
「私が払うんじゃないのに、なんで私の所に送ってくるの! あんたン所に送るから! 切手代がもったいない!!」と怒鳴ったのだった。

親が払おうと払うまいと、授業料の振込用紙は親の所に届くのだと、その時初めて理解した。そして、それでうちの親と違って払う親もいるのだな、と理解した。

そして、母はなけなしの切手代を払って、私に私の授業料の振込用紙を送ってきた。もちろん自分で授業料を払った。

母が怒り心頭でかけてきた電話代は、切手代よりよっぽど高かっただろうな、と気付いたのは、それからだいぶ経ってからである。母の愚かさには、呆れるほかないし、母の剣幕にひたすら蹴倒されていた自分も愚かだったと思う。
 



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