蝶の病

仲村重明

子供とは残酷なものだ
世界中の生物が
みんな病気になればいいと
大人のいない所で
ひとり囁くのだ…

子供とは残酷なものだ
宇宙に瞬く星群れを
病で命の炎を燃え絶やして　
幾ばくもなく
やがて消え去ると
ひとり囁くのだ…

子供とは残酷なものだ
僕が死ぬ時
全ての生命が
一緒に滅びればいいと
ひとり囁くのだ…

僕は悪い子じゃなんかない
庭の向日葵に水をやり
雀に米粒を与え
蟻たちに砂糖を撒く
ひとり囁くのだ…
死んでしまえ

僕は悪い子じゃなんかない
真昼に世界を焼き尽くす
太陽に向かって
ありがとうと手を振り
はにかんで姿隠す星たち
夜まで頑張ろうと
ベットから声援を欠かさない
ひとり囁くのだ…
死んでしまえ

僕は悪い子じゃなんかない
嘘は自分にだけしかしないし
世間はみんな正直だと
ほんとうに信じてるんだ
でも夜になると
星たちと一緒に声を揃えて
寂滅の世界へ囁くのだ…　
死んでしまえ