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【感想】『PASSION PARADOX』(パッション・パラドックス)
今回はブラッド・スタルバーグとスティーブ・マグネス著『PASSION PARADOX 情熱をマネジメントして 最高の仕事と人生を手に入れる』を紹介します。
1.この本を読んだきっかけ
何かに夢中になる人生を送りたい
湧いてきた情熱の活かし方を知りたい
短期的に情熱を持っても、活動が続かないことに悩んでいた
自分の気持ちが情熱なのか気の迷いなのかが分からない
何かに夢中になる楽しさは知っていますが、好きなことを仕事にできるほどの結果を出したことがありませんでした。
そんな中途半端な情熱の活かし方を知りたいと思い、手に取りました。
2.文章量と読みやすさ
文章のボリュームは多め、挿絵はありません。
話し言葉ではなく固めの文章です。
情熱を持って活動するスポーツ選手や経営者の事例と、脳科学や心理学を合わせて根拠のある主張が述べられています。著者の個人的見解をダラダラ聞かされ続ける本ではありません。
章ごとにポイントが2ページ程度でまとめられているのが非常に読みやすいです。
またスポーツ選手の事例が非常に多いので、スポーツに打ち込んだ経験がある人は特に理解しやすいのではないかと思います。
3.要約
情熱が人生をダメにする危険性
成功した経営者やアスリートは皆、強い情熱を持っています。成功者でなくても好きなことに夢中になった経験はあると思います。
何かに情熱を注ぐのは楽しさもありますが、同時に情熱の魔力に取り憑かれることによる取り返しがつかない苦しみも理解しなければなりません。
燃え尽き症候群
成果のために手段を選ばなくなる(ドーピングなどに手を出してしまう)
情熱を持てる分野以外が極めて退屈
家族や友達との時間がなくなり絶縁状態
健康状態の悪化
例えば、オリンピック選手を対象に行われた調査で「確実に金メダルが取れる代わりに5年後に死をもたらす薬があれば摂取したいか」と尋ねたところ、半分がイエスと回答したそうです。
イエスと答えた人たちは命よりも順位を優先してしまっています。
情熱の良い面と悪い面を理解し、適切な付き合い方を学ぶことが必要です。
良い情熱と悪い情熱の見分け方
良い情熱の条件として以下の3つを満たす活動は、楽しく長続きする可能性が高いといいます。
有能感:自分の努力によって結果をコントロールできると感じること
自立性:自身の価値観と矛盾しない行動をとれること
関係性:その活動で他の人とのつながりを感じられること
しかし条件を満たす活動を見つけたとしても、全てを捧げてはいけないと警告しています。
例えば会社員でありながら執筆活動に情熱を持ったとします。その場合、会社員と小説家の比率は99%対1%から初めて少しずつ上げると成功の確率が上がります。
つまりいきなり会社を辞めるのではなく、小説を毎日少しずつ書き溜めるところから始めるべきなのです。
一方、悪い情熱はモチベーションの源が他者からの評価もしくは恐怖心になっています。
1報酬に突き動かされるパターン。外的な成果や評価に対する依存症状態に陥る。
2恐怖に突き動かされるパターン。他人や自分自身を失望させたくないと思い、失敗を回避するために行動する
もしこれらの悪き情熱が湧いてきたと感じたら
その欲求が最大のモチベーションにならないよう気をつけてなければなりません。
情熱は評価や恐怖心から生まれるものではなく
内面から湧き出てくるものだと意識する必要があります。
最高の情熱とは「調和的情熱」である
このタイプの情熱をいだけるのは、主として楽しいからという理由でものごとに没頭するときや、ほかの目的を達成する手段としてではなく、それ自体を目的に活動するときだ。
それは、報酬を得たり、失敗を避けたりするためではなく、そうすることが楽しくて行動するときに生まれる情熱なのだ。
他者からの評価が無くても楽しいから取り組んでしまう。
そういった、内面からくるモチベーションを元に活動できるのが「調和的情熱」です。
ですが残念ながら。調和的情熱は待っていれば湧いてくるものではありません。
楽しいから始めたはずなのに、いつのまにか結果に一喜一憂してしまうのが辛くて辞めてしまうのはよくある話です。
調和的情熱を自分の中に獲得し維持するためには、考え方の訓練が必要なのです。
優秀なアスリートは皆「熟達思考」
調和的情熱を獲得するための考え方が熟達思考です。
熟達思考とはその名の通り、高い順位や成果よりもその道で熟練し上達することを目指す考え方です。
熟達を目指す思考様式の持ち主は、たえず自己改善と成長への道を歩み続ける。
(中略)
そのような人物は、禅の実践者のような雰囲気を醸し出し、燃え尽き状態に陥りにくく、ほかに類のない業績を挙げることができる。
輝かしい成果に目がくらむことは誰でもあります。ですが成果だけを求め続けると、いつかその情熱で苦しむことになります。
熟達思考は日々実践し、考え方を訓練することで身につけるものです。
熟達思考①24時間ルールを徹底する
生身の人間である以上、大きな成功のあとで激しい興奮を感じたり、手痛い失敗のあとで気落ちしたりすることは避けられない。成功を喜び、失敗を悲しむのは構わない。しかし、それは24時間以内にとどめること。そのあとはただちに、やるべき仕事に戻るべきだ。
この24時間ルールは、内面から湧き上がるモチベーションを維持するのに役立ちます。
大きな成果を手に入れた時ほど「自分は成果を得るために情熱を注いでいる」と思ってしまうのです。
だからこそ、やるべき仕事に戻ることで順位ではなく成長のために取り組んでいるんだと素早く再認識することが効果的なのです。
熟達思考②結果よりプロセスを重視
女子陸上選手ブレンダ・マルティネスは最も得意な800メートル走のオリンピック選考会で、残り100メートルで他の選手と接触し脱落してしまいます。
不運な事故で、周囲から大きく期待されていたオリンピック出場を逃した彼女は、取り乱し集中力を失ってもおかしくありませんでした。
しかし彼女はすぐ、1週間後の1500メートル走のための練習を開始しました。痛ましい結果ではなく、次のレースまでにより効率的に成長することに知識を集中させたのです。
その結果、マルティネスは1500メートル走でのオリンピック出場権を手にしました。
このように、特定の結果に関心を奪われすぎないよう普段から意識することが肝心です。
結果を得るためのプロセスに集中し、熱意を持って取り組むことで
そのプロセスによって目標を達成したとき、より大きな満足感を味わうことができます。
熟達思考③長い停滞期を受け入れる
合気道の達人だった故ジョージ・レナードの言葉を借りれば、「何か重要なことを学び、自分を永続的に変えたいなら、成長が停滞した状態でほとんどの時期を過ごすことを受け入れなくてはならない」
期待通りのスタートダッシュに成功したとしても、必ず停滞期が訪れます。
ここで停滞期を受け入れられないと、体を壊すまで練習したりオフィスで徹夜するなど、必要以上に頑張りすぎてしまいます。
これは良いことではなく、早く成功するための近道を選びたい誘惑に負けているのです。
そうなってしまうと、せっかく持っていた調和的情熱が悪い情熱に変わってしまいます。
忍耐力をつけるために有効なのが、活動の目的を再確認することです。
単純ですが、誘惑に負けた行動を起こす前に頭を冷やすことが重要なのです。
情熱を絶たれる苦しみを知る
情熱の追求をやめるのは激しい苦痛を伴うことがあります。
例えばスポーツ選手が引退する時、それが自分で決めた引退だったとしても、情熱の喪失からなかなか立ち直れないこともあります。
男子競泳選手マイケル・フェルプスも、よく似た経験をしている。(中略)
最初に競技を引退しようとしたときは、ギャンブルとアルコールと薬物への依存などの破滅的行動に走った。自我の安定がそこなわれ、同時に人生の基盤も失われれば、激しい混乱に陥るのも不思議でない。
全てを捧げていればいるほど、活動=自分自身になっています。
なので活動をやめる時は、自我を取られるような激しい痛みが生まれるのです。
冷静に考えると分かるとおり、深く愛した活動であっても、自分の一部であり自我ではありません。
自分自身にある情熱以外の要素も認識することで、痛みを和らげる効果があります。
とはいえ最初から痛みを無くす方法はありません。あくまでも回復する方法です。
情熱を持つということは、いつか別れを選んで苦痛を味わうか、忍耐強く調和的情熱を維持し続けるか、どちらかの結果を招くことになります。
【正直レビュー】充実感と成果を得るための実用書。情熱だけで挑戦して玉砕する前に読めたことに感謝したい良書。
全文を引用したいぐらい良い本でした。
「情熱を持て」と主張する他の自己啓発本に影響された人たちには特に刺さると思います。
私自身は間違いなく悪い情熱の持ち主であり、成果の奴隷になっていました。
早くお金が欲しいという強い思いから、オフィスで深夜まで仕事をしたり夜中まで本を読み漁っていました。
そして、それが危険な行為だとは全く思わなかったのです。
この本を読んで、その考えが全く変わりました。
昨日までに「会社を辞めて何かに挑戦しよう」と本気で考えていましたが、いかに愚かな行為がわかりました。
まずは熟達思考を取り入れる思考の訓練を続けていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
本好きひつじ🐏📕