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「キミを描く」 1話目

(あらすじ)書店員、24歳の漫画家志望者、ヨリコ。彼女が今、ネームを切っているのは、ある少年が得体の知れない竜と戦っているというベタな少年漫画。しかし、その漫画は現実に起きている。
少年の名前はキミオ。(愛称、キミ)。黒い謎の生き物とソレに挑む中学生。漫画の主人公とちがうのは、キミはいつも負け続けているということ。
その様子を見るヨリコに心を開かなかったり開いたりするキミ。たとえウザがられても、ヨリコは今日もキミの元へ行く。そんなキミの非日常のような日常を漫画にするまでのヨリコが見た長いエピソード話。少年漫画であり少女漫画である。

1話目「ヨリコとキミ」

雨、今日も雨。 
「何してんの、オネーチャン」 
酔っ払いのサラリーマンのおっちゃんが、私に話しかけてくる。午後21時の夜の雨だれの中、橙色の飲み屋の暖簾の下で、タブレットを手にする私を覗き込んできた。 
「アンタが描いたんか? 上手やん。なあ、見てみィ」 
手招きに呼ばれ少し若いあんちゃんが店から出てきて同じように覗き込む。 
「何?オタクなん? 俺も好きよ、アニメとか」 オタクとかあんまり言われたくはない。黙って夜の街を見ていた。「なあ俺らと飲まないか」、という横の二人の言葉も私には聞こえていなかった。 
なぜならその時の私に見えていたのは、目の前を通りすぎる白い巨大な龍と、ソレの尻尾を掴んだ男子学生の姿だった。その瞬間だけ何故か全てがスローに見えた。落ちる雨粒と、通り過ぎるその子の目には私が映っている。 
ざああと大雨が降る交差点に身を乗り出して、その子の姿を目で追いかけたが、姿はもうなかった。 

おっちゃんたちが見ている世界が本物なのか、彼が見ている世界が本当なのか。

そんなことは分からないが、私の現実は今、絵に描いたアッチ側なのだ。  

「ちょと地味じゃない?」 
スマホ片耳越しにダメ出しを喰らう午後2時、半昼間の仕事場の休憩室にて。相棒のタブレットの画面に映るのは、あの出来事をモチーフに描いた一本のネームの1ページ。 
私、脇差寄子(ワキザシ ヨリコ)は漫画を書いている。電話越しの相手は担当さん。(女性) 
今描いているのは、ある少年が封印を解かれた巨大な龍と敵対し、人知れず世界を救っている。という、傍から見ればなんともベタな少年漫画。
地味だ、と言われているは、その主人公のことだ。 「そんなの事いわれても変えませんよ、絶対に。」  「前に言っていた、モデルがいるからって話? 
だからって、地味、黒髪、ホクロの中学生男子って、誰が好きになるのよ?」 
「そこはヒロインがひっぱって。」
「年上ヒロインってのは面白いけど、能力もないって。そいつ相当足手まといにしかならないから、戦闘シーン。」 
それを言われると何も言い返せない。
「とにかくもう一度練って。
週末また連絡するから。」 
ツーツーと電話が切られた。
はあっとため息をついて、時間経ってふやけた春雨スープ(ピリ辛)をかきこんでむせた。 残り5分の休憩時間。
漫画ばかりを考えている場合じゃない。金も夢もモチベーションも足りない私よ、今日もあと半日何事もなく終わらせて家に帰ろう。そうだ、今日は今日こそはちゃんと家でご飯を。 

「来るなって言ったよね?」 
いらっしゃいませ、といった私に目の前にいる黒髪の中学生が睨んでいた。
「昨日、ちゃんと言ったよね、俺」 
「3点で1650円になります」 
ここは本屋。私の昼間は書店員。いまは、レジ業務中。男子中学生はずっと不機嫌な顔をして、レジに持ってきたコミックの代金を払った。それが目的のものだったらしく、払ったあとの少年は満足気に顔を柔らかい顔を浮かべていた。その顔に癒やされていたが、はっと思い出して私は少年に言う。
「君が持ってきた本だけど、明日新刊でるから。」  「なんでそれを買ったあとに言う! 明日まとめて買えたじゃんか」 
また不機嫌な顔に戻った。 
「けど、今日必要なんでしょ、それ。」  
私は少年が購入した漫画を指さした。見透かされたというむっとした表情で君は強く、しかし内緒話のように「今日は、来るな」と告げるとレジを離れて店を出ていった。 

ウチの常連客である中学生男子、今政君生(イママサ キミオ)くん。
購入する本の傾向は、漫画多め、時々ライトノベル。一ヶ月のはじめに一回、武器がたくさん載っている実用書。古代歴史や神話系の本は、立ち読みしている。(多分、値段が高いから)
黒髪、鼻の上にホクロがある。いつも寝不足で目の下にクマを作りがち。カルシウム不足なのか不機嫌な顔が多い。本を受け取ったあとのほころんだ不器用な笑みがカワイイ。
いつも一人でやってくる、私の漫画の主人公。 

「だから、来るなっていったじゃん!」 
「え、振りなのかと。」
「そんな芸人な乗りで言わん!」  
午後20時の、大通り一本入ってすぐの公園前。私は赤いスクーターを停めて、深緑パーカー姿の君と話す、他愛もない会話。
「怒鳴られても。キミ、夜なんだから近所迷惑だよ。それに私みたいな大人と居ないとすぐ補導されちゃうヨ。」 
ここに来る途中も巡回中のお巡りさん(パトカー)を見かけた。フードを深く被っても所詮は中学生。背丈でバレるのがオチだ。
痛いとこつかれたというわかりやすい表情で、昼間のように君が、また私をにらみつけている。

「分かったって。すぐ帰るってば。今日は差し入れ持ってきただけ。キミ、お腹すいてるでしょ?」
「これ結構ウマいゾ、キミ!」 
キミが背負っている茶色のリュックに着いているキーホルダー、獏なのか象なのか黒いの縫いぐるみが口に米をめいっぱいつけながら私の作ったおにぎりをほおばっていた。
「ほれ、君も食いな。ハラが減っては戦はできないぞ!」
まだムッとしている彼に、私はアルミホイルに包んだ1つの塊を渡した。反射的に受け取ったキミはボソッと「温かい」と呟いたが、「立ったままじゃ食べない」と、どこぞの坊ちゃんみたいなワガママを言った。
「じゃあ、アッコで。」
と、私は軽く一本の桜の下のベンチを指差した。 

「大体、なんでいっつもおれの居場所わかるんだよ」 「なんか言った?」
「別に何でもない」 
とベンチに着いてもぶちくさ言っていたキミは覚悟を決めたようで、渡したご飯を思いっきり食らった。入っていた梅の酸っぱさに一度怒ったが、そのあとはただ小さな子どものように米をほおばっていた。
風の吹かない空から、桜が一つ落ちてくる。見上げると満開に近い花の束が目に飛び込んできた。その花びらがちらちらと地上に降ってくる。 
「キレイだねぇ、そういえば花見、まだしてなかったんだよねぇ」   
「そういう季節的なイベント好きそうだよね、アンタ」  
「わかる~?」
「分かりやすい。」 
そう言って黙々と2個めのおにぎりを食べ続ける君の頬には白い米が付いていて、ちょっとかわいい、と思った。声に出ていたようで、それを聞いた少年はちょっとむせた。
「もう帰れよ!」
取り出したペットボトルのお茶をごくごく飲んだ彼が顔を真っ赤にして怒ったが、空気を読まない縫いぐるみが「まだ飯残ってるヵ」と、後ろについている羽根をバタバタさせて言ったから、少年は呆れてため息をついた。
「味噌汁ならあるよ~」
と、私が保温の水筒を開けて縫いぐるみに差し出すと、湯気とその香りの向こうで、目を丸くしたソイツが羽根をまたバタバタさせた。
「こっちもイケテンな!キミ!お前モ」
「いい」 
「何怒ってんだヨ。ヤ、今はオアズケかァ」 
「…時間だ。」
「クルな」

風が吹いて白い花が舞う。それが段々と嵐のような強風に変わり、雲を巻き込んで巨大な渦を作り出した。いつの間にかその中に白い竜が漂っていて、君の目をじっと離さず見ていた。
対するのはこれで何度目か。 
「可夢偉(カムイ)!」 
キミはリュックから一冊の漫画本を取り出して、縫いぐるみに差し出した。可夢偉(カムイ)と呼ばれたソイツがキミに叫ぶ。
「ソウ焦るなっテ! さてと、キミ。今日もオレに最高の夢を喰わせてクレ!」
可夢偉は本を自分の口にほおばって飲み込んだ。瞬間、光がキミの周りだけを包んでいた。
その光の中から君の声が聞こえた。
「今すぐ帰れ。っていってもどうせ聞かないんだろうけど。だから、なるべく遠くにいけ。
邪魔になる。」
捨てゼリフのように突き放す冷たい言葉に、昼間の担当さんの言葉を思い出した。 
渦は辺りの雲全部を巻き尽くして、先程よりも倍に膨らみ空に浮いていた。その大きさに圧倒され、私はとっさにその場から下がった。
スクーターの前まで来て私は振り返った。渦の中にまだ白い竜の姿が見る。風で巻き込まれた大量の桜の花びらが渦の外周に集まって、まるで防御壁のよう。ただただ、その光景は美しい。
大きな木のテッペンに君がいた。その光景をじっと離さず見つめている。タイミングを計っているらしい少年の目はいつもより緊張した面もちで鋭い。

最初に会ったときから変わらない。
今日も君は何かと戦っている。

「惜しかったね」
「どこがだよ!」
ずぶ濡れのキミのツッコミが怒りを含んで速くて激しい。
20分前、あの後の戦い。 
黒くなった竜巻の雲中から、ポタッと落ちてきた1滴の雨粒。それが竜に落ちた思えば、それは閃光になった。次々と雨が龍に降り注ぐ度に粒は雷になった。ついには、ザアとまとまった雨が渦よりも巨大な閃光を創り出し、眼の前が眩むほどの雷槌を地上にくらわせた。
それは竜に直撃していた。身体がヂリビリっと痛いくらい痺れ、髪が静電気で際立つほどで、渦の周りに張り巡ぐっていた花びらが全部飛び散るほどで、公園の桜の木が全てひび割れてしまうほどの衝撃だった。
これらをしてしまったのが、全て君の能力だった。

あの時キミがリュックから取り出した本、
「閃光の雷弩 センコウノライド」 
週刊少年誌で連載中、コミックスは現在5巻まで。明日新刊が発売する漫画だ。
主人公は、黒髪サラサラヘアー高校生、玄鉄来斗(クロガネライド)。感が鋭く運が異常に良いライドは、その才能を他人に疎まれ常に一人きりの状態になる少年。そんなライドが出会ったのは、運が異常に悪いヒロイン。その場に居合わせてしまった彼は、彼女の最大のピンチを救った代償に、雷に撃たれて死にかける。持ち前の運の良さで復活したライドは、その日から自分でも雷が使えることを知る。しかもなぜか能力を使うときは髪の毛が金髪になった。

ふと見ると、キミの髪もライドの様に金髪になっていた。しかし、フワッと黒い髪に戻ったとき彼が見たのは、ダメージも何も受けていない白い毛並みの竜だった。その後、何度も雷槌をくらわせたが、ソレはピンピンしていて、終いには人間ををおちょくるように再び最大の渦巻の大風を起こし、キミを吹き飛ばした。
そのままなら地面に激突していたかも知れないけど、その時の彼の体は、公園にある鯉が泳ぐ池の中に落ちていた。 キミが池から上がったときには、竜はもう頭上から消えて見えなくなっていた。 

「っていうか、別のやつかよ!」 
イライラしながら吐き捨てるキミ。というのも、昨日までは水を操っている竜だった。実際、雨の中を進むアレは毛並みに雨粒を蓄えていたし、戦いの技は君に向かって瀧のような大量の水を吐き出していた。だからキミはいつも使っている鈍器や刀のような物理攻撃ではなく、水に対抗できる電気という特殊能力を選んだのだ。しかし、今日の龍に対しては、なにも効果はなかった。
「とりあえずは死んでないし。《閃光のライド》効果?運が良かったじゃん。」 
「そんなのも能力に出てくるのか?」 
キミが隣りにいる可夢偉に尋ねる。考える間もなく瞬時に応えた。
「影響がナイとはイエナイ。オレは紙の知識を食らって能力を発動させるからナ。条件があえばナンデモでてくる。今回のはライドってやつの能力をキミが強く望んでタ。」
「運の良さはライドに最初からついている特権…能力だったな」
「単純にウンの良さダケを望んだら、能力の代償はカナリメンドくさな事になってたカモ知れなイ。ソレくらいじゃすまなかったカモ」  
可夢偉がキミの頭をじっと見ている。 実は私もそこにはあえて触れずにいたのだが。
能力をすでに失っているはずの君の髪の毛は、いつまでも静電気を帯びているように天に向かって跳ね上がっている。
「見ンなよ!」
「カッコいいよ、その髪型!」
私がからかうとキミは顔を益々赤らめて怒った。
「戻らないんだからしょうがねぇんだよ! もういい、帰る。」
「送ってこうか?」
「バイクの二人乗りは違反だろ」
キミはそう言って、振り返らずにそそくさと一直線に歩き出していた。
それを私は見ていた。彼の姿が見えなくなるまで。 

「二人乗りする気は無かったんだけどなぁ」
と少年が居なくなった公園の前、ヘルメットを被りながら私は呟く。スクーター押しながらキミと歩いて喋りながら帰る夢はまたオアズケになって、少し悔しい。また、君を知る機会を逃してしまったから。
ブロンっとエンジンが掛かって、私はゆっくりと走り出す。風が止んだ街の中、車が減った22時。スクーターで走り抜ける桜並木、酔っぱらいのおっちゃんたちの笑い声。晴れた藍色の夜空。
知っているいつもの夜の中に、本当は誰も知らない夜があって。私はそれを知っている。

一週間前。その日は雨で、私は漫画のアイデアが思いつかず、担当さんが気晴らしにと誘われた飲み屋にいた。酒の弱い担当さんは酔い潰れ、私は早いうちに一人残された。これ以上飲む気もなれず、飲み屋の前の大通りを見ていた。
雨は止まず、ただ街の風景をタブレットに描いた。通りすがりのサラリーマンのおっちゃんが私の絵を褒めていたが、その空っぽな街では何も価値がないと思った。
そんな時だった。眼の前を巨大な白い竜が通り過ぎたのは。突然の出来事に夢かと思ったが、次の瞬間、あたしの目を奪ったのは竜の尻尾を掴んで離さない少年の目だった。
その時の光景が頭から離れず、ウズウズしたまま私はタブレットに描きなぐってた。その絵を慌てて担当さんに見せて説明したが、分かってもらえず。
それから何度も少年を目撃するが、彼が相手にしているソレは、私にしか見えていないらしかった。
私は漫画の住人になった気分になり、仕事帰りに君を追いかけるようになった。
そんなある日、少年は私が働く本屋にやってきた。気づかなかったが、彼は結構頻繁にやってきていた。昼間に見るキミは夜とは全く違い、どこか虚ろで。されど、立ち読みする目は鋭く、近づくとキレられそうにいつもイライラしていた。しかし大人しく静かに冷静に本をレジに持ってくる。
キミに声をかけたのは私からだった。彼は最初、驚いた顔で商品を受け取ると同時に逃げるように本屋を出ていったが、私は追いかけた。お釣りを渡しそびれたというのもあったが、本物のヒーローに会ったような興奮を抑えきれなかったのだ。しかし、彼はおもむろに嫌な顔をして、「二度と来るな」と吐き捨てた。
タマタマだったのか、その夜も私はあの竜と戦っているキミを見つけて様子を伺った。彼は今日と同じく竜には勝てなかった。
その後、結局私は少年に居場所がバレた。そして昼間と同じ顔をされ再び、「二度と来るな!」激しい口調で言われた。
だけどその日からずっと夜に彼を見つけ出すのが私の日課になった。

私とキミは同じものを見ている。
違うのは、君にはそれと戦う能力があり、私にはそれがないということ。まるで、主人公と脇役のように。
そんな事はどうでもいい。それよりも!

家路についた途端、私は机に向かった。愛用のタブレットで、今日の出来事を何一つ忘れないように、あの光景を書きなぐる。
描く理由はただ一つ、戦っている君の姿を私は描きたい!
どんなにキミに嫌がられても私が君を追いかける理由はただ一つ、私は君を描きたい!! 敵に負けて昼間にイライラしていても、夜のキミはいつだってカッコいいのだ!と証明したい。
だって、飛んだりはねたりして戦う君の姿は漫画の主人公そのものなのだから。

だから、私は今日もキミが主人公の漫画を描くのだ。

月曜日。
開いている市立図書館に今、私はいる。

昨日、行きつけの飲み屋で担当さんにこう言われた。
「…熱意は伝わった。主人公の容姿はそのままでいい。だが、負けるのはどうよ。あと、ヒロイン!せっかく主人公と同じ目線でものごとを見れるってのに。これは漫画だぞ!ヒロインも戦うくらいの根気を魅せろや!」
担当、相当酔っていた。
他にストレスを抱えている場合、それを忘れるために次の打ち合わせは必ず飲み屋になる。「その次」が大抵の場合、私のような新人。しかし、酔っていても彼女のアドバイスは的確なのだ。
「勝ってハッピーエンド作戦立てろや!マンガ家なら!」
「チョッ、声大きい!」
担当は容赦ない。酔っていてテンション高いから周りを気にしない。
プロでもないのにマンガ家と言われるのはいつも気が引ける。まだ、マンガ家じゃないことが恥ずかしくて時々悔しい。
「とにかく書き直し!次の週もここて待ち合わせな!」
来週も嫌なことでもあるのかなぁ、担当さん。

あらゆるジャンルの棚を巡る。人にとってくだらない知識も、ネタの蓄えになる気がする。
「あ」
学ラン姿のキミが同じく「あ」と私に言った。
「サボりかい?学生くん。」
冗談まじりで私は君に話しかけた。ムッとコチラを見て彼は軽く机の上のノートを叩いて、
「午前終わり、勉強中。」
と答えて、辞書と教科書をめくり鉛筆を動かした。その様子が気になった私は彼の目の前に座った。少し私を気にしたが、すぐさま冷静さを取り戻して黙々と手を動かし始めたキミは口を開き、
「そっちこそサボりなの?社会人。」
と、私に返した。
「月曜日は休み。これが通常時。」
「休みでも本があるとこ来るって…」
「図書館だけじゃなくて他の本屋にもいくよ~。」「本屋で働いてるくせに」
「勘違いしてるね。私はね、基本的に本がいっぱいあるとこが好きなんだよ。好きなのは本だけじゃないけど。CDショップも美術館も博物館も動物園も水族館も映画館も行くし。ま、好きが多いんだよ私は。キミは?」
「俺は好きはそんなにない。時間もないし。」
「ツマンナイなぁ、興味あるものくらいはあるでしょ?よくウチで漫画買ってんじゃん!『閃光のライド』とか。ちゃんと新刊買ってたし」
「あれは…続きが気になったから」
「好きなんだ」
「気になっただけだって。大体、漫画買うのは戦うときに必要だからし。」

キミが謎のアレに対抗する時に使う特殊な能力。
リュックについている縫いぐるみ、可夢偉(カムイ)。カムイが何なのかは知らないけど、そいつが何かしらの知識を喰らったときに、能力は発動するらしい。可夢偉の代わりに闘う代行者(今はキミがそうらしい)を対象に、喰らった知識から代行者が望む能力を一定時間、与える。キミは本を可夢偉に食わせることでその知識を能力に変えている。
但し、その能力と引き換えに代償が伴う。代償は、望んだ能力の大きさで決まる。戦闘終了後に代償は発動する。この前、キミの髪がさかだったままになったみたいに。

「負けてたけど」
「言うなよ!」
その声に周りがざわめく。顔を赤らめてキミは黙り込んだ。 
「勝てると思ってたんだよ、あの時は。ちょっとまだヘコんでるんだから蒸し返すなよ。」
ちょっと意外。君は繊細なんだと知る。よくよく考えたら、巨大な敵に対して負けつづけることはまだ中学生のキミにはかなりしんどいだろう。それでも君はいつもと同じ顔でいつもと同じ冷静さで戦っている。
キミは黙ったまま、黙々とただ普通の学生のように鉛筆を動かし続けていた。
ふと横を見ると、図書館の大きなガラス窓に雨粒が当たっていた。
晴れとは違う、妙な温かさと気だるさと眠気を誘う空気が雨の日にはある。嫌いじゃないけど、今は少し嫌かな。静かな場所がより静かに感じる。春の雨も予想つかなくて嫌。晴れたと思ったら次の日、雨で。小雨と思ったら急に大雨雷で、晴れが戻ったと思ったら風が強くて。

「…天気…天候?」
ふと考えた、そして思い出して振り返る。
これが答えか。いや、まだネタの段階だ。しかし。
「用事を思い出した。先に帰る!」
そう君に言い残して、私は本を数冊借りて図書館を後にした。

これはきっと漫画を書いているやつだけの特権だ。ここに答えがあるかもしれないと、ワクワクとウズウズが体の真ん中を熱くドキドキさせる。
これは自分にしか描けない。
私だけが、私だから描ける漫画で証明したい。証明しなくてはならない、君があいつに勝つために。

その日の夜、私はキミに出会ってはじめて、君を探しに行かなかった。
                →2話目に続く。

(ここからは物語の今後の展開について。) 
●1話〜3話まではヨリコとキミの出会い、竜(「ソレ」)に勝つまでのエピソード。
●4話はキミがなぜ戦うことになったのか、過去話。
●5話〜は、新たな登場人物と新たな得体の知れない「ソレ」との戦い。
◎その後は、じわじわと「ソレ」とは何か。秘密と歴史を解明していきつつ、「ソレ」を狙う「敵」(人)が出てきたり、キミと同じ立場の「味方」が出てきたりする。その戦いの中で、ヨリコは自分の役割は何か改めて考える。
そんな非日常の中でも普通の日常も入れていく。
二つの日常の中で、ヨリコに対するキミの心の変化(初恋要素)も交えつつ、物語を展開させる予定。

#創作大賞2024 #漫画原作部門
#少年漫画 #ボーイミーツガール

2話目 https://editor.note.com/notes/nde5a6d54e7cc/edit/

3話目
https://editor.note.com/notes/ncee889942a22/edit/

↓3話目後は気になったら読んでくだい。
(4話目まで載せます。)
4話目
https://editor.note.com/notes/nbd7e439de1f5/edit/

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