君と僕の話 6
「久保史緒里?ああ、“負けた子”ね。」
この一言で空気は一変した。
「は?」
長すぎる一瞬を乗り越えて反応したのは僕だけだった。
さくらはまだ目を開いて固まっている。
「あ、久保ちゃんの知り合いだったの?
そっか、美月ちゃんと仲良しなんだもんね。
ごめんなさい。」
これほどまでに謝意のない謝罪は初めてだった。
これならまだ生徒の宿題忘れを叱った方が
謝意を感じる謝罪を聞けるはずだ。
「“負けた”ってどういうことですか、、、?」
今度はさくらが尋ねた。声を震わせながら。
「あの子は選ばれなかったのよ。
あの頃オーディションに追加合格された
美月ちゃんにね。」
「オーディション?
美月はそんなのやってないと思いますけど?」
「ううん。やってるよ。」
さくらは後ろめたそうに僕に言った。
「史緒里ちゃんが“1人は怖い”って言うから
お姉ちゃんと受けに行ったんだよ。」
「そう。ちなみに私はその時審査員だったわ。」
生田さんはどこか遠くへ視線を飛ばした。
▽
「んー。難しいですね、、、。」
四年前、審査員達は頭を悩ませたわ。
あまりの不作にね。
そんな時、久保ちゃんと美月ちゃんが現れた。
2人とも大きな可能性を秘めた素材だったわ。
でも、久保ちゃんの方が一枚上手だった。
もちろん審査員は全員久保ちゃんを推した。
だけど監督は渋ったの。
〈山下に可能性を感じる。〉
そう言ってね。
それでも受かったのはは久保ちゃんだったわ。
きっと、私達全員が久保ちゃんを推したからだと思う。
でもしばらくして、
〈やっぱり山下でいく。〉
監督は美月ちゃんを最終的にヒロインに決めたのよ。
△
「それって、、、あんまりじゃ無いですか?」
さくらはスカートの裾を握りながらそう言った。
「、、、そうね。
でもこれが事実よ。
久保ちゃんは“負けた”。美月ちゃんは“勝った”。
ただ、それだけよ。」
生田さんは手にあったコーヒーをそっと置いた。
数日後 準備室
「、、、なんで俺より先に準備室にいるんだ?」
「、、、。
お姉ちゃんのこと恨んでるよね?」
「誰が?」
「史緒里ちゃん、、、と○○君。」
「俺は恨んじゃいないよ!
でも、、、史緒里はどうだろうな?」
長い沈黙が準備室を覆った。
ーーーーーーガチャ
そんな沈黙を打ち消すかのように準備室のドアが開いた。
「“興味ない”っていうのはやっぱり嘘だったんだね。」
そう言って準備室のドアを開けたのは
したり顔をしたあいつだった。
To be contiuned