Re:Break 8
「私、まだ○○のことが好き。」
「、、、ありがとう。奈々未。」
▽
目覚めた時に隣にいる人は
本当に私の愛する人なのだろうか。
その答えを毎日、探していた。
公園で一人泣くアイツを、○○を
忘れられなかったから。
何度日を跨いでも、幾ら仕事に打ち込んでも、
何度、彼に上書きされようとも、
しっかりと焼き付いていた。
今横にいる人に何か不満を抱いたことはなかった。
それが怖かった。
消えていきそうなアイツの想い出を失うことが。
いや、失わせたのは私か。
無責任なまま、白いドレスに身を包んだ。
鏡に映る白いドレスが
どんどんドス黒い色に変わっていくようだった。
そして今日、アイツを呼んだ。
何で呼んだのか、自分でも分からなかった。
ただあの日の傷を抉る他にない筈なのに。
来て欲しくなんてないのに。
来るわけなんてないのに。
呼ぶ資格なんて、ないのに。
歓喜の鐘が鳴る。
扉が開いていく、視線には彼とアイツ。
ここに来たことを後悔した。
こんな考え、思いついちゃいけないのに。
、、、なんで私が歩いていく先はアイツの隣じゃない?
披露宴が始まる前に、近くの海へ来た。
特に理由はないけど、
なぜか海の見える式場に惹かれた。
アイツは多分帰っただろうな。
こんな休日に傷を抉らせるようなことをした後悔と
来てくれた驚きの感情を石にぶつけた。
蹴り上げた石は、ゆっくりと空を舞った。
〈海の綺麗な場所で式を。〉
唐突に部屋の隅に押し込んだ情報誌を思い出した。
私はまた自分を恨んだ。
いつからだろうか。私が汚れてしまったのは。
君をなぜ手放したのか。
それがわからないから、
2年も目の前が晴れないんだ。
その時、怒鳴り声が聞こえた。
アイツだった。
アイツの目の前には可愛い女の子がいた。
良かった。
アイツもアイツなりに乗り越えてくれたのかな。
「いいなぁ。」
嗚呼、私はなんて自分勝手なんだろう。
咄嗟にアイツに背中を向けた。
でも大丈夫。きっともうアイツに会うことはない。
こんな想いも、きっと無くなる。
だってアイツには口論できる女の子がいるんだもん。
「じゃあね。」
そう、アイツに向かって振り向いた時、
目の前が真っ白になった。
視界に色が復活した頃、
自分の足が裸足であることに気づいた。
自分の意識がはっきりした頃、
アイツの家にいることに気づいた。
「え、、、?」
目を何度も擦った。
すると、
気づけば私は何もないところで一人立っていた。
暗い一本道の上にただ一人。何もなかった。
「え、何?本当に何?」
「驚いたかい?」
恐らく年上の背筋の伸びたマダムが、
真っ白なフィルターを指で挟みながら煙を吐いた。
「あなたは、、、?」
「適当に呼んでくれ。」
「はぁ、、、。
えっと。何の用ですか?
てかここどこですか?」
私がそう聞くとマダムは、
靴の裏でタバコを消した。
「アンタが○○を振った理由、
知りたくないかい?」
「、、、なんでそのことを?」
「まぁ長生きしてりゃわかるのよ。」
「説明になってません。
というかここはどこなんですか!」
そう問いかけると、
深く息を吐いたマダムはゆっくりと近づいてきた。
「アンタが飛ばされてきたのは、
遠藤さくらという人間の作った世界だよ。
そして今いるのは、、、
セーブ地点とでも言っておこうかなね。」
「遠藤さくら、、、?セーブ地点?」
「遠藤さくら。○○とやらの幼馴染だ。
セーブ地点っていうのは比喩さ。頭が固いねぇ。」
酷く無礼なマダムである。
「、、、すみません。」
「まぁいい。○○を起こしておいで。
話はそこからだ。パッパ動くんだよ!」
景色はまた、○○の部屋になった。
「もう訳がわからん、、、。」
私は天井に向かって言葉を投げた。
帰ってきたのは、マダムの冷たい視線だけだった。
「起こしましたけど、、、。」
また何もないところに連れて行かれた。
「さて、じゃあ本題だよ。」
新しい煙草に火をつけ、煙を一つ吐いた。
人を攫っている自覚をして欲しいものだ。
「○○とのことで、疑問に思ったことはないかい?」
「疑問?」
「なんで自分が○○とやらを振ったのか。」
「、、、!」
「私はその答えを知っている。」
「ふざけないでよ。」
「ん?」
「ふざけんなって、、、言ってんの。」
「何が?」
「見知らぬ人間がなんで私のことを知ってんのよ。
私がアイツを振った理由?
私には勇気がなかった。それだけよ!」
「そうかい。なら、この世界で好きに生きな。
○○を取り返してもいい。
遠藤さくらを消してもいい。」
「は?」
「勇気がなかった。
たったそれだけと思っているなら、できるだろ?
問題ないだろ?出せばいいだけだろ?勇気を。」
「何が言いたいの?」
「勇気がなかった。
だけじゃ説明なんかつかないだろ?
それで自分は飲み込めたのかい?
今の自分はそれで満足できてるのかい?」
「、、、じゃあなんなのよ。
私がアイツを振った理由は。」
「答えは言えないねぇ。
人に教えられた答えほど、
面白みのないものはないのさ。」
「なんなのよ。結局何が言いたいのよ。
遠藤さくらがなんの関係があるのよ。」
「欲張りな子だ。
そうだねぇ、、、。
遠藤さくらってのは、、、」
「あんたの探してる答えを知っているよ。」
さっきまで○○を乗せていた車を出て、
私は空を見た。
そうでもしないと、
「私まだ、○○のことが好き。」
「、、、ありがとう。奈々未。」
「けどさ、過去は過去のままで、もういいんだ。」
涙が溢れてしまいそうだったから。
車の中は、静寂に包まれた。
私はあの時、どうすればよかったんだろうか。
○○を説得するべきだったんだろうか。
遠藤さくらは、○○を振ったことに関与してるって
教えるべきだったんだろうか。
でも少なくとも、あの時の私には
何か行動を起こす勇気なんか
残っちゃいなかった。
耐えられない後悔と、
遠藤さくらに対する懐疑感を存分に蓄えて
私の目の前は真っ白になった。