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Re:Break 5

「じゃあ、おやすみ。」


あの後何を話したかは、もう覚えてなかった。
ただ、いつまでも鳴り止まないドラムと
いつまでも消えない唇の感覚だけがそこにはあった。

あの頃でさえ、まだ奈々未と付き合っていた頃でさえ、
こんな感覚にはなったことがなかった。


「おやすみ。」

そう返すと同時に暗くなった部屋は、
なんだか妙にしっくり来た。

「ん、、、、。」

寝返りをうったさくらの手が触れる。

「俺、、、やっぱ奈々未のこと諦めれないかも。」

寝息を立てるさくらへ、そう言った。











「ごめんなさい。」



背中を向け去っていく君が見える。
追いかけなくちゃ。
そう焦る自分の心とは反対に、
足はピクリとも動かなかった。

君はもうすぐ公園を出る。
もうすぐ背中が見えなくなる。
もうすぐ、届かなくなる。

追いかけなくちゃいけないのに、
君は行ってしまうのに。
視界は滲んで、夜風は髪を揺らす。
でも夜風は、背中を押してはくれなかった。


「なんで、、、なんで、、、。」


少し濡れた地面だけが、届いた。








「起きろぉ!!」



「ん、、、。うるさい、、、。」



「うるさいじゃないわ、仕事いきなさいよ。」




車のキーを回す奈々未をみて、目が覚める。

「、、、やっば。」

「ほら。」


ドサっと、お腹に衝撃があった。


「スーツ。一式あるから。」

「流石です。」







景色が次々と変わっていく。
舗装された綺麗な道のおかげか、
テクニックのおかげなのか、
静かに道を進んでいく。


「今日の仕事は?」


コーヒー片手に前を向く奈々未の横顔を見る。


「事務、、、じゃないかな。」

「じゃないかな?
 あんた芸能マネージャーでしょ?
しっかりしなさい。」

「、、、すいません。」




寝起きだった頭がはっきりしてきた頃、
ずっと引っかかっていたなにかが輪郭を帯びた。




仕事なんて、ない筈だ。




この世界は過去であるが、過去ではない。
現に、
景色がいつもとは違うことがそれを証明している。


「ここ、、、どこ?」

「どこ、、、だろうね。」


今ここにいる奈々未だって、奈々未じゃあない。
それがなんだか、悔しかった。



「ねぇ、こんなとこにs

ーーーーガンッ!!


凄まじい衝撃と共に、体が前へつんのめった。

「轢いた、、、?」

奈々未は目を泳がせながらハンドルをギュッと掴んだ。

「確認してくる。」

急いでドアを出た、その筈だった。







気づけば俺は何もないところで一人立っていた。
暗い一本道の上にただ一人。
さっきまで乗っていた車も、車で轢いた何かも、
何もなかった。




「悪いね。脅かせることしちゃってね。」


いつか見た、マダムだった。


「あんた、どこから?」

「んなこたぁどうだっていいんだ。
あの公園以来だね、坊や。」



またしても煙を靡かせながら、こちらへ歩みを進めた。


「あのお嬢ちゃん、さくらって言ったっけ?」

「それがどうかしたのか?」

「まぁそんな殺気立つことはない、落ち着きな。」

「あんた、一体何が目的なんだ。」

「目的、、、ねぇ。」



マダムは靴の裏で火を消して俺の目をしっかりと見た。


「魔法を使う勇気があるのかを知りたくてね。」

「勇気、、、?」

「そう、勇気。」

「そんなものいるのか?」

「んー、、、少し言い方を変えようかね。
 呪いをかける勇気はあるのかい?」

「呪い?」



「今生きている人間の全てを変えるかもしれない。
 それは魔法でもなんでもない。それは呪いだ。」

「なんの話をしてる?」

「事実を変えることの真理さ。」



マダムは目を離さずに続けた。


「あんた、
さくらが使った呪いは何処からきたのか
知ってるかい?」

「、、、知るわけないだろ。」







「アタシがあげたのさ。一冊の本と共にね。」









「〇、、、〇〇!!」


気づいた時には、車の中だった。


「あれ?」

「あれ?じゃないわよ。
 ていうか言いなさいよ、今日仕事じゃないなら。」

「ごめん、、、寝ぼけてて。」

「本当に、
史緒里ちゃんがしっかりしててくれて
よかったわ。」

「史緒里さん?」

「連絡くれたわよ、
 〇〇さんは多分仕事来るだろうから
止めてくれって。」

「そ、、、そっか、じ、じゃあ帰る?」

「そう、、、いや、ちょっと付き合ってくれない?」

「へ?」

「ちょっとドライブ付き合ってよ。」

「いいけど、、、。」


「何よ、文句?」


いいんだ。
嬉しいんだ。
この瞬間ばかり夢に見るほど、
誰かの車に乗るたびに、
 僕はこの記憶を忘れられない。


けど、



けど、、






こんな過去、俺は知らないんだ。

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