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Re:Break 10

「一回整理しよう。」




家からほど近い幹線道路に入った車は、
直線を滑らかに進んでいく。
所々、舗装されていない道の振動を除いては。



「奈々未は、俺と結婚してる。
 俺は相変わらずこの仕事をしてる。」



助手席の久保さん、もとい史緒里さんは、
三白眼でこちらを眺めながら、
スマホをアタッシュケースに投げ入れた。



「頼むから、嘘と言ってください。
 なんですか、ドッキリですか?」 

「ごめん。ちゃんと本気だわ。」

「何?告白?私がいるのに?」

「頼むから、奈々未は喋らないでくれ。」




拗ねて横になった奈々未は、
俺のいる運転席の背中を一回蹴った。




「てか。
 ○○さんて、一人称俺でしたっけ。」

「元々はね。
 もちろん社会人なので、
 “私”ってちゃんと使いますけどね。」

「いや、元は“僕”だったような??」



進行方向とは垂直に向いた顔を横目に、
肯定の意を込めたアクセルを踏んだ。




「いい子ぶってるんだよねぇ、○○?」

「頼むから、黙ってくれ。」

「またラブラブしてる。」



車の中での状況整理は依然として進まない。
息抜きに、と近くのコンビニで買ったコーヒーは
ただただカフェインを摂取するだけで、
なんの息抜きにもならなかった。

そしてとうとう史緒里さんが耐えられず、
助手席で寝始めた。

やっぱりまだ会議は進まない。





「とにかく、私たちはなぜか結婚している。」

「奈々未が俺を降った過去が変わってるんだ。」



「じゃあ、まだ好きなんだ。」

「それは奈々未だろ。」



「じゃあなんで過去が変わってるのさ。
 あの石を使ったってことは何かを変えたんでしょ。
 ○○が思った通りではないにしろ。」

「俺はただ、
 さくらが魔法を使った過去を消しただけだ。」




「、、、じゃあさくらちゃんが
 何かしら過去をいじってたってこと?」


「、、、そういうことになるのか。」










「、、、あのマダム。」


奈々未は一言そう言った。







「マダム、、、まさか。」













「あんたの探してる答えを知ってるよ。」
「あの子は、真っ赤に染っちまってる。」













コーヒーが、なくなった。













ーーーーpipipi

「ん、、、。」


あれから数日、“いつも”のような日常はすぎた。
前と違うことは、





さくらとの連絡が取れなくなっているということ。




それと、





「なぁ、奈々未。」

「どうした?」


11時。
数ヶ月ぶりかのような、何もない日曜日。
朝食なのか、
昼ご飯なのかわからないご飯を食べていた。





「さくらの話なんだけど。」

「連絡取れたの?」

「いや。全く。
 俺もさくらも電話番号変わってる。」

「あ、そういえば、私も変わってる。」




完全に手詰まりになった俺たちは、
どうすることもできないでいた。



「もう家に行くぐらいしか思いつかない。」

「実家暮らしなの?」

「その現実が変わってなければ、かな。」

「あ、それと!」




奈々未は少し怒った目でこちらを見た。





「お腹に知らない手術痕があるんだけど。」

「え、知らない知らない!!」


「この世界の○○は暴力的みたいだね!」

「、、、ごめんなさい?
 てかなんで、俺って決めつけるのさ。」

「思いつくのがそれしかないからよ。」

「だからって、、、!」




前と少し違うことは、
さくらと連絡が取れなくなっているということ。
それと、些細なことで喧嘩が増えたということ。










「まぁいいわ。」


食器を片付けて、ソファに座り直した奈々未が
仕切り直した。




「どうやって、さくらちゃんと連絡を取るか。
 考えましょう?」


「なんて?
 てか柔軟剤どこ?」



けど、柔軟剤を探していた俺には
はっきり聞こえなかった。


「どうやって!さくらちゃんに!会うの!!
 あと、柔軟剤は台所の下!!」




、、、なんでそんなとこに置いてんだよ。
でもきっとこれを言えばまた喧嘩になる。
ため息一つ、自然と漏れた。




「どうやるって言ってもさ、、、ん?」

「どうした?」

「なんか、奥に貰い物みたいなのがある。」




台所の下からそれを引っ張りだすと、
それは、さくらの実家から送られて来たものだった。






「何これ?」

「、、、あ、仕送りだ。」

「なんで、さくらちゃんの家から?」



「俺、東京に出る前にお母さんが亡くなってさ。
 シングルマザーだったから、
 頼りがなくなったんだよ。」

「、、、。」



「でもおかしいな。」

「どうして?」


「俺は2年前、この仕送りはもう大丈夫だって、
 さくらの実家に電話したはず。」

「せめて直接言いなさいよ。」

「それは、確かに。」


「で、なんでそれが気になってのよ。
 普通に開け忘れとかじゃないの?」

「いや、日付見て。」








〈2021年 5月17日付〉








「一年前?」

「そう。」


その時だった。


ーピンポン

「誰?」

「史緒里ちゃん。出てくるね。」












「すいませんすいません。
 卵を買い忘れてしまって。頂きに来ました。」



どうやら、この世界の史緒里さんは
上の階に住んでいるらしかった。



「全然いいけど。」

「本当に助かります。
 あれ、なんですかそれ。貰い物?」


「ああ、幼馴染の親御さんから貰ったんだ。
 といっても、一年前のやつだけどね。」





そう言うと、史緒里さんは目の色を変えた。





「まさか、、、遠藤さくらの親?」

「そうだけど、、、。」

「、、、。」

「どうしたの?」



ただならぬ雰囲気に、思わず奈々未が尋ねた。



「よくそんなもの、まだ取ってますね。
 奈々未さんをバカにしてるんですか?」

「どういうこと?」


「奈々未さんまで、そんなことを言うんですか?!
 冗談ならやめてください!面白くないです!」

「私は本気。
 いいから、教えて。」




「教えても何も、、、!」










「遠藤さくらは、
 奈々未さんを殺そうとした奴でしょ!!
 そのお腹の手術痕をもうお忘れで?!」

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