同じクラスの激アツ体育会系天然水高身長少女の場合。
体育の授業というのは時に面白く時に退屈なものである。
守らない約束をしてくる、持久走。
運動部が大活躍する、球技。
なぜかその部活じゃないくせに無双する卓球。
いやいや見本を見せる上手い奴、
張り切って見本を見せる下手な奴。
楽しめるポイントはいくつもある。
「運動神経」と俗に呼ばれるものを
平均的な量持ち合わせていなければ、
苦手だとか、なんか嫌いだとかいう感想もよく耳にする。
しかし平均的には、
「好き」と答える人間が多いかのように思える。
僕は平均的な運動神経であり、平均的な人間であるから、
そこそこ楽しめる部類の人間である、筈である。
序盤からズレているこの話を元に戻すと、
現在行われている体力測定に対し
一定の倦怠感を抱いてる、という話である。
いくらなんでも、
体育館で握力と長座体前屈のみを計るのは間違ってる。
それではいくらなんでも天井に挟まったバレーボールも
浮かばれないであろう。
そんなどんよりと、またぽっかりとした、
体育館において一際純然たる輝きを放つ人物がいた。
バレー部の梅澤さんである。
長いポニーテールを揺らし、
一生懸命に自分の限界点を試す姿勢は
見ていてとても気持ちが良い。
その姿はさながら、
青春ラブコメのヒロインのようであった。
周囲に人が途切れることなく、自尊心を高く持ち、
朗らかに、強く、正しく、羽ばたいていくのだろう。
また梅澤さんはキャプテンである。
その素晴らしいキャプテンシーは部活外の今でも
遺憾なく発揮されている。
どこからか取り出したボールで遊ぶ男子を注意し、
あまり記録の出ないクラスメイトには、
上手いことを言ってやる気を出している
この眼前の風景がその証拠である。
媚びもなく、ただ真っ直ぐに授業にひた向く姿は、
時に敵を増やすが、
どうかそのまま梅澤さんの道をひた走ってほしいものだ。
僕は強く、彼女に念を送った。
おかげさまで重い空気も少し軽くなる。
天井のバレーボールも落ち着きを見せ始めた。
しかし、そんな人間にも裏があるはずである。
と、考えてしまう僕はどうしようもなく
ひねくれた人間である。
おかげさまで、長座体前屈は史上最低の35㎝を記録した。
こんなひねくれた性格に成長を遂げていなければ、
僕はきっと50㎝程を記録をしているに違いない。
そしてきっと、梅澤さんは50㎝を記録している。
性格と体の柔軟性は比例するのだ。もちろん証拠はない。
梅澤さんの裏、ってなんだろう。
実はめちゃくちゃギャルだったりするのだろうか。
「マジぴえん。ぴえんからぱおん。」
仮に梅澤さんがギャルだった場合、
そう言いながら原宿や表参道を闊歩するのだろう。
その際のユニフォームは、
右手に文鎮のようなスマホ、
左手にはバナナジュースかタピオカミルクティーだろう。
ギャルとは常にトレーニングなのだ。
よく食べ、よく動き、
自撮りの際手振れをしないように腕を鍛えるのだ。
利便性、機能性よりもオシャレや流行を身に付けるのだ。
オシャレは我慢と、誰かが言っていた。
多分、僕の母である。
しかし、
真面目な梅澤さんはそれだけで満足するのだろうか。
よりトレーニングに効果を求めるのではないだろうか。
そうなってみると、左手のバナナジュースがなんだか
プロテインのようにも見えてきた。
流石女子バレーボール部キャプテン、隙が無い。
そしてきっとそれは、
同じギャルの仲間にもきっと伝染している。
きっと僕には理解できないギャル用語のようなものは、
渋谷や学校近辺のゴールドジムの評価だったのだろう。
それか、
自宅での自重トレーニングの分析かの二択であろう。
もうもはや、これはギャルではない。
梅澤さんの裏は、ただの部活バカである。
もう全国大会にでもさっさと行ってほしい。
これはこの地域に留めておくにはもったいない人材だ。
、、、、これ裏なのだろうか。
トレーニングにいそしみ、
自分の美を追求する姿は果たして本当に裏の姿であろうか。
というかそもそも裏とはなんだ。
ギャル、といいながらめちゃくちゃ真面目ではないか。
、、、、これはこれでギャルに怒られるか。
さながら天然水のような彼女に、僕は勝手に感服した。
「ちょっと男子!終わったら先生のとこ行くんだよ!」
梅澤さんは、
またしてもこのクラスの陣頭指揮を執っている。
一体体育教師は何をしているのか。
もう梅澤さんのキャラクターが、母になりつつある。
「○○君、握力まだだったよね。」
驚いた。
この御人は、他人の記録の有無まで把握しているのか。
一体全体、体育教師はなにをしているのか。
僕はふとその場に残された握力計を見た。
ここは一つ、梅澤さんに良いところを見せよう。
僕だって毎日、
右手に英単語帳を持ち坂道を歩いているのだ。
ギュッと握って数値を見る。
右 20
左 25
後で調べて分かったのは、
この記録は小学校四年の女子の平均だった。
僕はそっと握力計を置いた。
梅澤さんは、なんとも言えない表情をしていた。
せめて笑ってよ。梅澤さん。
次の日、
僕のスマホケースが文鎮のように
重くなったのは言うまでもない。
僕だって、全国大会を目指すのだ。
そもそも、なんの大会か知ったこっちゃはないのだが。
終業のチャイムが鳴った。
天井のボールは梅澤さんの手にあった。
もう怖いよ。梅澤さん。
〈流石に続きは書かない気がする。〉