最新のセーブデータから始めます。
えんじ色の電車を降りて、
左ポケットから定期を出した。
少し、喉が渇いている。
いつか貰ったこのワンピース。
エスカレーターに巻き込まれぬように、
そっと裾を上げた。
左腕のブレスレットは、赤と青のツートーン。
好きな色の組み合わせ。
あれ、右手じゃなかったっけ。
ふとやる気が失せるような音と共に音楽が止まる。
あぁ。充電してくればよかったな。
ガヤガヤ雑音が耳に戻ってきた。
私は思わずブレスレットをギュッと握る。
人混みの中はどうしても、その癖が出る。
しばらく歩いて辺りを見渡してみれば、
景色はモザイクがかかったかのようにぼやけている。
人の顔なんて、判別できやしない。
ただ、あなただけは別。
はっきりと、認識できた。
ブレスレットから手を離し、
交差点の反対側の君に手を振る。
気づかない。
私は少し頬を膨らませた。
すかさずあなたにLINE。
未読。
見上げたあなたは、誰かと電話している。
仕方がない。
私はまたブレスレットを握って進み出した。
まだぼんやりとする周りの風景、
しかしまた1人、はっきりとした顔。
LINEが鳴った。
見てみれば、「ストーカー」の文字。
私は走った。
時間切れに、なる前に。
あなたがアイツに取られる前に。
あなたはこちら見て、アイツもこちらを見た。
またLINEが来た。
「見えてるでしょ!帰って!」
私は無視して交差点を突っ切った。
見えた色はワントーンの青。
私は立ち止まった。
後ろから君が来てくれるから。
私は抱きしめられて、引き戻された。
力強い君だから、踠いても引き剥がせない。
噛みついて、アイツの元へ走った。
刹那に見える、左からの圧。
あ、、、!
赤いワントーンになった景色の中に
白い画面がピカっと光る。
「ストーカー」
「見えてるでしょ!帰ってよ!」
「私は!あんたを振ったの!」
アイコンに映るあなたの顔は笑っている。
私はまた、あなたの元へ辿り着けなかった。
どうしてこうなるんだろう。
あの時LINE、返せばよかったのかな。
「ただ、会いたくて。」
どうせ、無視されるんだろうけどさ。
最後に見えた一色のこの世界。
あれ、なんで見たことあるんだろう。
世界は再び真っ黒になった。
すると現れた、選択肢。
「コンテニューしますか?」
▶︎はい
いいえ
私は、迷わなかった。
∞