ラッキーアイテム
「今日のラッキーアイテムは、ワイヤレスイヤホン!」
テレビのアナウンサーがそう言っていた。
まぁ言わされてるだけだろうけど。
「本当かよ、、、。」
朝の占いなんて信じてないくせに
毎日見ては同じことを言う夏休み。
大学生になってから随分と時間感覚というものが無い。
それでも時間感覚はバイトとやらのせいで調整が入る。
しかしそれももう大詰め。
鬼の連勤が終わった私に残された夏休みは
過ごしやすい夏の終わり。
うん。3回生も悪くないな。
気分の良くなった私は、ワイヤレスイヤホンを着けた。
△
「暑ぃ、、、。」
昨日の雨で温度が下がるというのはなんなのだ。
耳から流れるのはバラードからポップソングへ。
正直耳がやかましいし、暑苦しい。
「○○君、、。」
バイトの後輩が歩いている。
、、、別に気になってる奴ではないんだから。
「梅澤さん。」
へ?後ろから?
前にいたはずなのに?
やばい、絶対汗臭くさい!
髪の毛大丈夫かな?
てかイヤホン外さないt
「焦りすぎでしょ。」
声をかけたのはニヤける同期だった。
「、、、。」
「そんな睨まないでよぉ。
○○君じゃなかったからってぇ。」
「、、、。」
「ごめんなさい。」
「ていうか、
別に○○だからって焦ったわけじゃないし。」
カフェでコーヒーを飲みながら
ニヤけるこいつに言ってやった。
「ふーん。」
「何よ。そんなニヤけちゃってさ。
「あ、○○君。」
「へっ?!」
「嘘。」
「本っっっ当さ、、、。」
「でもさ、○○君多分梅に気あるよ。」
「嘘。」
「本当。
ていうかやっぱり好きなんじゃん。」
「、、、まぁね。」
「じゃあ、やりますか!」
こいつは何を言っているのだ?
△
「ねぇやっぱやめようよ。
時間もったいないし、、、。」
山の提案で○○を探すこと数時間
未だ○○君を見つけるには至ってない。
「見つけるの!
大丈夫!今日は朝の占い一位だったから!」
「本当かよ、、、。」
でも結局、○○君を見つけることはできなかった。
気づけばもう日は落ちかけていた。
朝の占いの信頼度は地に落ちた。
はずだった。
「あれ○○君じゃん!」
「どこ?」
「ほら前から歩いてくるじゃん。○○〜!」
「山!やめてよ!」
『、、、。』
「気づいてないのかなぁ?
ほら?梅も呼ばないと!」
「ま、○○ぅ、、、。」
「小さいって!」
「ま、○○!」
『、、、。』
、、、無視か
「○○!」
『、、、。』
山も言ってくれたけど、やっぱり無視された。
○○君はそのまま私達の横を通り過ぎた。
「あの野郎、、、梅が声かけてるってのに、、、。」
「、、、もういいよ。帰ろ?」
君はこっちなんか見てくれないよね。
視線はコンクリートへ落ちた。
胸が苦しくて。
街に流れるポップソングはバラードになっていて。
涙一つ地面に広がって。
足元にはワイヤレスイヤホンが転がって
ん?
顔が反射的に上がる。
そして気づいた。
落ちたんだ。
君のワイヤレスイヤホンが、落ちたんだ。
『あれ、梅澤さん?』
夕方、私からあなたへ涼しい風が吹く。
山下は、、、いなくなってる。
今度お礼しなきゃな。
「さっきから声掛けてたんですけど。」
「嘘っ!ごめんなさい!」
口のニヤけは抑えられているだろうか。
汗臭くないだろうか。
まぁいいや。
口のニヤけも、汗もそのままに
風に押されて心拍数が上がる。
頑張れ、私。
「先輩を無視するなんて、あんたいい度胸してるね。」
指で君のおでこをついた。
fin