とても分かりやすいオルタナティブロック概論

はじめに

 皆さんは音楽を聴いていて、しばしば「これはオルタナっぽいね」というような感想を目にすることはありませんか?音楽においてオルタナとは大抵の場合、オルタナティブロックの事を指すのですが、「そもそもオルタナティブロックとはなんなのだろう?」と思う方も多いはずです。
  今回の記事では、オルタナティブロックについてロック史の観点から切り込んでいき、分かりやすく解説していきます。あまりそういった音楽を聴かないような方でも、これを機に聴いてもらえたら非常に嬉しく思います。

そもそもオルタナティブロックとは

 まずはじめに、オルタナティブロックの定義とはなんなのだろうかという話になるのですが、これが実に非常に曖昧です。というのも、元来のオルタナティブロックという概念はどちらかと言うと特定のサウンドのことを指しているのではなく、「反商業的音楽」としての精神性を指しており、オルタナティブロックという単語自体は非常に多様なジャンルを含んでいて、極端な話を言えば広義的な意味ならパンクやメタルですら当初はオルタナティブロックの括りに入れられることもあります。
 例えば、70年代〜80年代のロックではDeep Purple、Aerosmith、Queen、Black Sabbath、Van Halen、BON JOVIなど、いわゆるHR/HMブームが起こり(厳密に言えば80年代後半辺りに起こったムーブメントですが)、時代は「ハードロック」が主流となっていました。ポップなメロディにハイトーンなボーカル、そしてド派手なギターソロの流れが様式美ですが、あまりにも様式美化されすぎた為に時にはそれらは「産業ロック」とも呼ばれ、それを良しとせず反発する動きも中にはありました。そのような商業的な音楽を良しとせず、新しい音楽を作ろうという精神性こそが「オルタナティブロック」であり、時代に逆行し反発するというまさに原初のロックの精神性が現れていると言ってもいいでしょう。実際に、そのような精神性の元に多様なバンドが現れ、アングラながらも確実にシーンが作られていきました。
 詳しくは後述しますが、「オルタナティブロック」という単語自体は80年代頃ではそれ程一般的ではありませんでした。あくまでも音楽マニアの間でそのような単語で呼ばれることはあった、というイメージです。しかし、そんな中でオルタナに光が当たったのは90年代に起こった、Nirvanaを筆頭とする「グランジ・ムーブメント」からです。Nirvanaがそれまでのロックの歴史を塗り替えるのと同時に「オルタナティブロック」という単語がメディアでも取り上げられ、一般的な音楽ジャンルの呼称として定着しました。僕たちが言うところの「オルタナっぽい」というサウンドへのイメージもここから出来上がったと言ってもいいでしょう。この点は後々詳しく取り上げます。
 大事なのは、元来のオルタナというのは精神性であるという点です。精神性の事を指すのであれば、それは「何をオルタナと指すかは時代によって変遷していく」という点です。言ってしまえば「逆張りの音楽」でもあるわけですが、時代によってオルタナもまた変わっていくということです。それこそ、仮に今で言うところのオルタナ的なサウンドが音楽シーンの主流になっていたら、10年代頃に日本で流行った4つ打ちロックだってオルタナと言われていたでしょう。少なくとも僕はそう思います。

 それでは、ここからは年代別にオルタナと呼ばれているバンドを挙げつつ、オルタナティブロックの変遷を見ていきましょう。

60年代 オルタナの始祖、Velvet Underground

 さて、ここまで散々オルタナティブロックは70年代辺りから始まると言ってきたわけですが、実はオルタナの起源は60年代まで遡れます。
 それが、Velvet Undergroundです。1967年にリリースされた『The Velvet Underground and Nico』が全てのオルタナティブロックの始まりと言ってもいいでしょう。暗くて陰鬱なサウンドと歌詞、7分を超える曲など、60年代にしてオルタナのエッセンスとも呼べるものが散りばめられています。本当に偉大なアルバムなので、起源から辿りたい方はまずはこれを一聴してみるのをオススメします。個人的には1969年にリリースされた『The Velvet Underground』も大好きです。

70年代 パンクからポストパンク

 この辺りからどんどんジャンルが細分化されていきます。70年代になると、パンク・ムーブメントが始まります。The Clashや、Sex Pistolsといったバンドが現れ、荒々しく攻撃的な演奏とパフォーマンス、反体制的な歌詞といったパンクの特徴を捉え、一大ムーブメントを起こします。パンクもまた当初の精神性から考えるに、広義の意味でのオルタナと言っても差し支えないでしょう。
 また、流行中のパンクの精神性を受け継ぎつつも、サウンドとしては真逆とも言えるポストパンクもまた生まれます。ポストパンクは現行のオルタナにも通じる、緊張感のある演奏や、陰鬱なサウンドや歌詞が特徴です。Joy Division、Television、Talking Headsなどのバンドが誕生していきました。

 更に、このポストパンクからニューウェーブやゴシック・ロックといったジャンルにも派生していきます。これまた定義的に厳密に分類するのが難しく、ポストパンクなバンド達と被るところもあるので軽く触れる程度に留めておきますが、ひとまずはまだまだこの頃はアングラながらも色々な
バンドが出てきて少しづつオルタナも地位を得てきていた、という点だけ押さえてもらえればと思います。

 この他にも、70年代のバンドとしてはThe Police、Bauhaus、Gang Of Four、XTCなどがかなり重要なバンドだと思います(Bauhausは1stが1980年リリースなのですが、デビュー自体は79年なのでギリギリ70年代としておきます)。ちなみに僕はJoy Divisionが大好きです。

80年代 ポストパンクからニューウェーブ、続々と生まれるレジェンド達

 個人的に80年代がオルタナにおいて一番重要な年代だと思っています。というのも、ここでは到底書ききれない程レジェンド達が現れていますからね。
 80年代に入るとポストパンクのブームは更にニューウェーブへと発展していきます。この辺りで非常に重大な事件が起きます。それはJoy Divisionのボーカル、イアン・カーティスの自殺です。Joy
Divisionはポストパンクにおいて最重要バンドと呼べる存在です。イアン・カーティスの自殺後、残されたJoy DivisionのメンバーはNew Orderを結成しました。New OrderはJoy Divisionの頃とはうって変わり、シンセやドラムマシーンといった電子音を取り入れ、ポストパンクの要素を受け継ぎつつも、テクノ調の新しい音楽を作り、ニューウェーブと呼ばれるジャンルの代表的な存在となりました。

 更に、80年代には続々とレジェンドバンド達が生まれていきました。The Smith、R.E.M、Sonic Youth、Dinosaur Jr、Pixies、The Cureなど、錚々たるバンドが出てきます。特に、R.E.MとSonic Youthは90年代になると急速に人気を得ていきます。この辺りから、ザ・オルタナといったバンドが増えてきた印象です。

  また、ここでは軽く触れる程度に留めるのですが、80年代にはパンクの精神性を受け継ぎ、更に破壊的なサウンドや過激なパフォーマンスに振り切っていったDCパンク、ハードコア ・パンクといったジャンルのシーンも出来上がってきていました。その代表的なバンドとしてはHusker Du、Black Flag、Minor Threatなどが挙がりますが、特にイアン・マッケイ率いるMinor Threatがこのシーンを牽引し、後にFugaziを結成してポスト・ハードコアという一大ジャンルのシーンを形成していくことになります。

90年代 Nirvana、グランジ・ムーブメント、オルタナ光の時代

 90年代といえば、オルタナにおいてはまさにグランジの時代だったと言えるでしょう。この年代においては音楽史の観点から見ても重要な一大事件が起こります。それが、Nirvanaの登場です。
 90年代までの音楽は、ロックに限らず全体で見ればポップスやメタルの年でした。今まで散々色々なバンドを挙げてきましたが、それでもメインストリームからは程遠かったのです。しかし、Nirvanaが1991年にリリースした『Nevermind』が大ヒットし、それらを塗り替えました。Nirvanaの登場によって、ついにそれまでのオルタナバンドも徐々に脚光を浴び、音楽のメインストリームに上がり込んだのです。俗に言う「グランジ・ムーブメント」と呼ばれるその一大ブームによって、Pearl Jam、Dinosaur Jr、Soundgarden、Alice In Chainsといったバンドも出てきました。また、「オルタナティブロック」という呼称もこの頃から生まれ、一般的に定着していきました。


  しかし、そんなグランジムーブメントもカート・コバーンの自殺により終息を迎えます。確かに90年代にはオルタナティブロックが音楽のメインストリームに上がってきたのは事実ですが、メインストリームに上がってきたということは本来の「オルタナティブロック」の精神から外れていくという意味でもあります。オルタナが商業化していき、大衆に飲み込まれていくことを嫌って敢えてインディーズに留まり続けたバンドもいたということが、ここでは重要なことだと思っています。

 その他にもオルタナ界では、エモ、ポストロック、ポストハードコア、シューゲイザーといったジャンルが現れますが、ここでは流石に書ききれないので、各ジャンルの代表的なバンド名を挙げるに留まります。

エモ……American Football、Mineral

ポストロック……Mogwai

シューゲイザー……My Bloody Valentine、Ride、Slowdive

ポストハードコア……Fugazi、Jawbox、The Jesus Lizard

0年代 インディーロック、そして現代へ

 グランジ・ムーブメントの終焉以降、オルタナティブロックの勢いは失われたかというと、そうではありません。0年代に入るとインディーロックが流行します。これはまさしくロックの原点回帰を目標に、60年代の原初のシンプルなサウンドのロックに回帰しようと起こったリバイバル的なブームです。代表的なバンドは、The Strokes、Arctic Monkeys、The Libertines、The White Stripseが挙げられます。
 しかしこれ以降、ヒップホップの流行などもありロック自体の人気が下火となっていきました。その点で言えばロックの活性力は失われたと言えるでしょう。こうして現代へと繋がっていきますが、ロック自体は死んでいません。今でも素晴らしいバンドが出てきて、音源もリリースされていることがその証拠です。

まとめ

 というわけで、オルタナティブロックの歴史を追っていきましたが、いかがでしたでしょうか?一口にオルタナティブロックと言っても様々なジャンルに分かれており、ここでは書ききれないこともたくさんありました。またジャンル毎にもう少し踏み込んだ記事も書ければ良いなと思っています。
 この記事を読んで少しでもオルタナティブロックについて知って、そして聴いて頂ければ嬉しく思います。お読み頂きありがとうございました。

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