お仕事小説として読む『グレイスレス』鈴木涼美
この作品で一番グレイスレスだと思ったのは、
主人公の女優に対する見方だなぁ。
主人公とギャル女優の聖子は、ポルノ現場を仕事として淡々とこなしていて、葛藤はない。新人に対する助言も、彼女を思いやっているというよりは、撮影をスムーズに進めるためにしている。
このポルノの撮影現場の描写がけっこう細かくて、この点もグレイスレス。
けれど、この描写。よく読むと、煽情的ではないんだよね。ただ細かいだけ。
例えば顔にかかった体液にしても、一番言っているのはすごく落ちにくい汚れだということ。いかに取りにくくて、メイク的に苦労をするかということがメイン。
だからお仕事小説だ。私はそう捉えた。
メイク全般の手順に対する描写も驚くほど細かくて、観察眼も豊か。
主人公は「なぜ自分が女優をやらないか」という問いを何度かしていて、最初の答えは「私は肌が弱くて、化粧品とか体液でかぶれるから」
もちろん主人公だって分かっているはずだけど、そういう質問じゃない。
その業界から離れれば「なぜ自分はポルノに出ないのか」なんて問いはないわけだから、やっぱり何かが引っかかってるんだと思う。
そして、彼女たちに触れたいという気持ちと同時に徹底的に否定してやりたい気持ちを持つ。
私はこのへんがグレイスレスだと思う。
仕事の仲間にこういう気持ちを持つのが嫌な感じ。
嫌な奴がいてその人個人にそういう気持ちを持つなら分かるけど、この感情が「女優」全体に向いている。
なんか、ちょっと小馬鹿にしてる感じ。
少しずれるけど、この感情、女性がポルノ女優に対して持っているものだと思う。
①女優は絶対に悪で、嫌悪感しかない。同じ女とは思えない!
②憧れというと言いすぎかもしれないけど、何か気になる。
このふたつ。
カメラの前に立たないけど、似たようなことやってるわけだし。
その世界とかけ離れた主人公の鎌倉での暮らし。アンティーク家具やガーデニング、歌の先生をしている同居の祖母、イギリス出張中のインテリ父母。
母も祖母も自由な考えの持ち主で、主人公の仕事を知りながら止めたりしない。
この落差。
なぜ、主人公はこの仕事を選んだのか。
なぜ、後半の決心をするのか。
そのへんが私の気になったところ。