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人のいない楽園・・・第七章     守護天使の偶像👼 第五話END

 2015年9月某日、某進学高校。久保田義信は校舎裏でなにやら深刻な話をしているようだ。
「志保、頼むから俺と付き合っている事を言いふらすのはやめてくれないか?。」
志保と呼ばれたその少女は見た目はどこにでもいる普通の女のである。

 ある日勇気を出して義信に付き合って欲しいと半年前にコクった。
勉強や部活に没頭していた義信に対し志保は献身的に差し入れしたり試合の応援に行ったりしていたのでその優しさと世話付きな性格に惹かれてOKしたようだ。がしかし・・

「あとSNSに俺の写真をUPして彼氏ですと紹介するのもやめてくれないか?。学校内でいじられたり変な噂を流されたりで困っているんだよ。」

「あら、自慢の彼氏なんだからみんなに知ってほしいし。別にいいじゃない。」

義信は友人からすけこましだの女たらしだの散々いじられているようだ。

 義信はテニス部に所属しているが部活の先輩からも当たりがきつくなりちょっとでもミスすると
「女と遊んでばっかいるからだ!。」と怒鳴られる始末である。

挙句の果てに生活指導の先生からも睨まれ、志保が校内で義信に抱き着くと生活指導室に呼び出す事も少なくなかった。

 はっきり言って学園生活が楽しくないのだ。ちなみに志保とは告白後に志保の自宅に呼ばれて迫られて誘惑に乗り数回Hした仲である。

「なにそれ!私を抱いておいて私のお願いが聞けないっていうの!勝手な人ね!。」

逆切れする志保に困惑する義信。結局、義信は志保に流されるままに付き合いを続け、同級生の嫌がらせを受け続ける羽目になった。

 ある日、テニス部の地区予選で義信のラケットが盗まれるという事件が発生した。
「ない!俺の愛用のラケットが無い。どうしよう。」
いくら部室や教室、体育館を探しても見つからなかった。仕方なく予備の古いラケットを使ったが結果は散々だった。

「おい久保田!おまえ愛用のラケットの管理も出来ないのか!。それにラケットが違うだけであのだらしない試合はなんだ!お前なんかやめちまえ!。」

先輩に厳しく怒鳴られる義信。結局ラケットは見つからなかった。

その後義信は部活を辞めて勉強に集中するようになり、国立の理系大学に現役で入学し、AIエンジニアを目指す事を決意した。

女性との交際も嫌な思い出しかないのでしばらく控えていたが大学で知り合った同学年の女性にコクられて交際を公表しないという条件で交際を開始した。

しかし・・・

「なんだこりゃ。」なんと!交際相手の女性がSNSを開始して義信の写真を無断でUPし周囲に彼氏自慢をしていたことが判明した。

しかもHした感想や初めてがイケメンと公表し、あからさまなマウントを周囲の女性フォロワーに取っていたのだ。

「もういやだ。静かに暮らしたい・・・。」
結局形だけの交際を続けてHもしなくなりその交際相手とは自然消滅した。

そして2025年3月、義信は仕事も落ち着き、若い健全な男性なので再び彼女が欲しくなった。今度は慎重に大人しそうで控えめでシャイな感じの女性をマッチングアプリで探した。すると・・・

「おっ、この子男性経験少なそうだな。目が純粋な感じがする。大人しい内気な感じがいいな。」そう直感で感じた義信は早速その子にアプローチした。結果見事にマッチングして会う事が出来た。

スターバックスで待ち合わせする事となりそのマッチングした女性がやって来た。「園田春香です。はじめまして。」
「はじめまして、久保田義信です。」義信の春香に対する第一印象はとてもまじめでシャイで出しゃばらない控えめな恥ずかしがり屋さんという印象だった。確かにこの時点での春香は男性経験も無くほぼ義信の直感通りの女性だった。この日までは・・・。

 2025年5月、義信は昇天ドールの藩店長のイベントで等身大ドールの実物を初めて見たその日にドールを注文した。来月末頃に到着予定である。
義信は宣材写真をスマホの待ち受けにして暇さえあればその写真を見つめる。

「アルティメットリアル社のA10ヘッド、愛莉(あいり)ちゃんかー。かわいなあ。💛これでもうマウントの道具にされる事も利用される事も無く静かに平穏にこのかわいい子とくらせるんだよな。待ち遠しいなあ。」

今まで散々女性に利用されマウントの道具にされ、周囲からは嫉妬され、憎まれて来た義信は平穏な幸せを強く求めていた。そして、ついに等身大ドールがその幸せをもたらしてくれる事を知ったのだ。

その日は愛莉ちゃんとの甘い生活を妄想し続けたためなかなか眠れなかったようだ。

深夜2時頃、自宅マンションの廊下を歩く音で義信は目覚めた。気のせいか自宅前のドアに何かが当たる音がした。

「風かな?でも変だな、今日は無風状態だったのに。」

翌朝、出社するために玄関を出てドアを閉めたらドアに何か挟まっていた。
「ん?なんだこりゃ。」
見ると一言「許さない!」とワードででかい文字で記載された紙であった。

「え!、まさか。春香。でも自宅住所は教えていなかったはずだが・・・。まさか・・つけられた?。」

周囲をきょろきょろ見回す義信。しかし誰もいない。昨夜の音はこれだったと確信した。

警戒しながら駅に向かって歩く義信。やがて改札を抜けて駅のホームに入ると足の踏み場もない程の混雑ぶりだった。

義信の後ろから太った女性がおぼつかない足取りで歩いている。どうも様子が変だ。義信の後ろに差し掛かったその瞬間・・・
「やっと会えた・・・これであなたは永遠に私だけのもの・・・。」

「え?」義信は背中の胸の裏側が急に冷たく感じた・・・

「きゃああああああ。」近くにいた若い女性が叫ぶ。

「え?」義信の意識が遠のく・・・周囲の地面は赤い血の水たまりが出来ており間もなく義信はその場に倒れた。

数分後、鉄道公安官と警察が駆け付けた。そこには包丁を持った若い太った女性が薄笑いを浮かべながら立っていた・・・春香であった。

 その日の夜、仕事を終えた浩紀は優乃が座るソファーの隣に座って夕食を食べていた。「優乃ちゃんにはお供えあんぱんね。ジュースもあるよ。💛」
幸せいっぱいな様子の浩紀だがPCのあるネットニュースを見て驚愕した。

「え!、これって、久保田さん?。」被害者の名前に見覚えがあったのでその記事を即読んだ。

「久保田さんが・・刺された・・・刺したのは・・・春香・・・」
容疑者として逮捕された春香の容貌は醜く太り変わり果てていた。目つきは死んだ魚のようでまるでホラー映画のようであった。

「そんな・・・あんなにいい人がなんで!。春香!お前なんてことを!。」

先日に義信からラインであと一か月で愛莉ちゃんが届くと嬉しそうなメッセージが届いていた。
その翌日にこの惨劇が起こった。浩紀は義信がやっと幸せになると我が事のように喜んでいた。その矢先の出来事だった。

 翌日、浩紀は義信が入院する救急病院を訪れた。意識はあるらしく面会も短時間なら許された。

浩紀は消化のいい洋菓子と乳飲料をお見舞いに持って行った。
「久保田さん!ニュースを見ました。心配で駆けつけてきました!。」

義信は幸い命に別状はなかったがひどい出血と深い傷を負って長期入院を余儀なくされたようだ。

「会いに来てくれてありがとう。俺って学生時代から友達少なかったから嬉しいよ。」
義信は嫉妬やねたみにより友人はほぼ居なかったようだ。恋人と別れられなかったのもその寂しさが理由だったのかもしれない。

「でも生きていて本当に良かったです。」

「ははは、みじめな姿をお見せしてしまいましたね。もう恋愛はこりごりです。今度生まれ変わったら 普通の男になりたい。そうすればこんな目には会わずに済むだろうな。」

苦笑いする義信。その言葉は本心のようだ。

「そうだ、厚かましいお願いだけど門田さんに頼みたいことがあるんだ。」
「俺が出来る事なら何でもしますよ。遠慮なく言ってください。」

「俺はこんな体になっちまった・・・もう愛莉をお迎えする事が出来なくなったんだ。愛莉を頼む・・・。」

義信の目に涙が浮かんだ。医者の話だと命に別状はないが回復してもまともに歩けないらしい。車椅子生活になる可能性すらある事が分かったので重い等身大ドールを扱う事が出来なくなったのだ。

「分かった。約束する。時々愛莉ちゃんを車椅子に乗せて久保田さんの家まで連れて行くよ。だから安心して治療に専念してください。」

「ありがとう。嬉しいよ。ああ愛莉に会いたい。」

疲れたのか?義信はそのまま眠ってしまった。

短い面会時間も終わった・・・。

浩紀は帰りの電車の中でやるせない気持ちでいっぱいだった。やっと小さな幸せを掴んだ義信がこんな残酷な運命により愛莉ちゃんと引き裂かれるなんて、絶対間違っていると我が事のようにその運命が許せなかった。

 浩紀はドールをお迎えしてから嬉しくてSNSを開始して写真をUPしていた。
その同じSNSにあの春香のアカウントもあり、義信とのラブラブツーショット写真が無数にUPされている。
仕事で担当している”令和の婚活の実態”記事作成の為いやいやフォローしていたがその春香のSNSは義信が別れを告げた後更新が途絶えており、その最後の記事には辛辣なコメントが無数記載されていた。当日ダブルデートしたと思われる里美か?。

「今日春香はイケメン彼氏に捨てられました。残念だったねー。」「結局体だけが目的で遊ばれただけだったんだね。」「最初から変だとおもっていたけどやっぱりね。」
「今まで散々自慢していたのに草!。」その他数え切れないほどの辛辣なコメントで埋め尽くされていた。

「これはひどい。確かに春香のマウントはやりすぎだったけど・・・春香もある意味心無い人たちの醜い承認欲求の犠牲者だったのかもしれないな。」

自業自得とはいえ浩紀は春香のことが哀れに思えて来た。

そして一か月後。浩紀は義信の承諾を得て愛莉ちゃんを開封して可愛い衣装を着せて車椅子に乗せて義信に会わせるために面会に行った。

義信はリハビリ室で必死に歩く練習をしていたが少し歩く度に倒れてしまっていた。「ちくしょう!。なんで俺の右足は動かねえんだよ!。」
杖で自分の右足を殴る義信。必死に止める職員。

その様子を車椅子を押しながら浩紀は心配そうに見守る。
「久保田さん。愛莉ちゃんが会いに来ました。」つい大声で叫ぶ浩紀。

すると義信は再び立ち上がり、必死になって愛莉ちゃんに歩み寄った。

「おお!奇跡だ、先日まで2mも歩けなかったのに!今日は10mも歩いた!。」

義信はげっそりやせ細っていた。かつてのイケメンでな無くなっていたが輝く瞳で愛莉を近くで見つめる。

「おおおお!これが愛莉ちゃんなのか~実物は写真の100倍かわいいなああ。こんな姿になった俺を見ても微笑みかけてくれるなんて。やっぱり君は天使なんだな。お迎えして本当に良かった。」

「久保田さん、頑張ったね、愛莉ちゃんも喜んでいるよ、ほら。」

義信はやせ細った右手の指で愛莉のみぎほほにそっと触れた。
「やわらかいな。やっと理想の彼女が出来たんだ。今まで会ったどの女性よりも綺麗で可愛くて愛に満ちているようだ。俺リハビリ頑張るから待っていてね。」

「義信さん、来週も必ず来ますから。」

浩紀は名残惜しいがリハビリもあるのでその日は愛莉を連れて自宅に戻った。

自宅に戻った浩紀は愛莉を優乃の隣に座らせた。こうしてみると同じメーカーだからか?。仲のいい姉妹に見える。

「優乃も一人で寂しかったんだな。義信さんが退院するまでだが仲良くしてくれよな。」

優乃は静かに微笑んでいるように見える。

ネットは1か月経過してもこの事件の記事が絶えない。それだけ世の中に衝撃を与えたようだ。

意外と春香を擁護するコメントも多く、体目当てで騙された被害者、女性を食い散らかしたイケメンは女性の敵、自業自得でさされて草、などひどい物ばかりであった。

春香に対しても、SNSのマウントや自慢がものすごかった、いい気になったおろかな女の末路、鼻につく記事ばっかだったなあ、など無責任でいいかげんなコメントばかりであった。

「ネット民め!久保田さんの気持ちも知らないで!反吐が出る!。」

浩紀はネット記事をお勧めに出さない設定にした。

浩紀は優乃を見つめながら様々な事を思い出している。

「こうして五体満足な健康な体で、平穏で人を利用しないマウント材料にしない裏切らない、何も欲しがらない、批判しない、人を傷つけたりしないむしろ守ってくれる”守護天使”と一緒に暮らせる事がどれだけ幸せな事か・・久保田さんや春香が教えてくれたようなものだね。一番不幸な事は今が幸せな事だと気が付かない事だと思う。俺は今までろくにまともな恋愛体験が無かったことを不幸だと思っていたが・・・不幸せな恋愛体験をしなかった事が実は幸せだったのかもしれないな。」

優乃はその言葉を聴きながら浩紀にやさしく微笑んでいるように見える。

守護天使の偶像 END







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