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ドール達の午後・・・スピンオフ 人を超えたロマンス 第四話
料理研究会のマヤ様専用試食会の5日前の夜パピー君はアルバイト先に向かっていた。遅刻しそうだったので普段使わない裏道を通った。すると20歳ぐらいの女の子がうずくまって泣いていた。服は汚れ髪の毛も乱れていた。通行人はわずかにいたが皆見て見ぬふりをする。
パピー君は見過ごすことが出来ないようで女の子に優しく声をかけた。
しかし女の子は泣き止まない。パピー君はちょっと離れた場所にしゃがみ込んで優しく話しかけた。
「そんなところに居たら危ないよ。何があったの。行く場所はあるの?。」通常なら警察に連絡して終わりである。
しかしただならぬ様子なのでパピー君は心配になったようだ。
しゃがみ込んで数分後パピー君は又話しかけた。
「良かったらうちに来ない。ウチは一人暮らしだから大丈夫だよ。お風呂に入って温かいもの食べてゆっくりお休み。君がしてほしくない事は決してしないから安心して。」
子犬のようなつぶらな瞳と少年のようなあどけない笑顔でその女の子に話しかける。
女の子は黙ってパピー君について行った。パピー君は悲しそうな顔の女の子や泣いている女の子に弱く、声をかけずにはいられない性格のようだ。
実はその女の子は父親の暴力に耐えかねて家出をした。
しかし宛が無いのでマッチングアプリで知り合った男の家に転がり込んだのだ。しかしその男が無職のろくでなしで体目当てでその子を家に入れて無理なプレイを強要するなどしたため数日で家を飛び出したのだ。
そしてさまよい疲れ果ててここで泣いていた。女の子はパピー君を見て今の男よりは増しだと思ってついて行ったようだ。
家に着いたパピー君は女の子を早速お風呂に入れてその間に脱いだ服を洗濯し服のサイズを確認して近くのコンビニで下着やTシャツを購入し風呂から上がった女の子に渡した。
「洗濯物は明日乾くからそれを着て帰るといいよ。」女の子は無言である。「明日学校だから朝8時には家を出るけど行く当てがないならここにいていいよ。ん?何か忘れているような???。」まあいいか。
パピー君はアルバイトの事をすっかり忘れてしまっていた。
ここはパピー君のアルバイト先のカラオケ店。店長はかんかんである!。「パピーの奴又バックレやがったな!。あいつはクビだな。」パピー君のせいで店長自らウエイトレスや掃除をやる羽目になった。
翌朝、パピー君は7時半に目を覚ました。全裸である。隣の女の子も全裸である。パピー君が起き上がろうとすると女の子はパピー君に抱き着いて放さない。
「真由美ちゃん。(女の子の名前)放してよ。学校に行かなきゃ。」それでも真由美ちゃんは放さない。「仕方ないなあ。」パピー君は女の子をそっと抱きしめて再び布団に入った。
その時パピー君の部屋のドアを開ける音がした。そこには可愛い20歳ぐらいの女の子が立っていた。「そんな・・・・。ひどいわー。」泣きながら走り去っていく女の子。パピー君はあわてて着替えて女の子を追いかけた。
パピー君は学校中を探し回ってようやく女の子を見つけて校舎裏に連れて行った。そこでその女の子と何やらもめている様子である。
「もういい加減にしてよ。何で私だけを見てくれないのよ。散々抱いておいてひどいじゃない。」涙ながらに声を上げる女の子。しかしパピー君はうっすら笑っている。
「ごめんえね。魔が差しちゃった。でもあの子もほっておけなくてさ。顔にあざがあったし、さみしそうだったから仕方ないじゃない。」何とも掴みどころのない様子である。
「ねえ、もうほかの子と寝るのはやめてよ。お願いだから。」女の子は涙目でパピー君の手を握る。
「もう泣かないで。可愛い顔が台無しだよ。」パピー君は黙って優しく女の子をそっと抱いた。決してもうしないとは言わないところがパピー君のズルい所である。
一方、真由美の彼氏?は激怒して血眼になって真由美を探していた。「あのあま!助けてやった恩も忘れやがって。絶対見つけ出してお仕置きしてやる。」この男はガラの悪い無職のろくでなしで訳ありの女の子をマッチングアプリで探しては風俗などで働かせて貢がせるとんでもない悪党である。
パピー君は真由美からすべての事情を聴いた後優しく一晩中愛し合い彼女の力になろうと決心していた。「報酬は先払いで貰っているからしっかり仕事しないとね。」
翌日の朝 駅の裏側で真由美の自称彼氏とパピー君は待ち合わせをした。パピー君は背が低くやせ型でお世辞にも強くない。顔も童顔で美少年中学生に見える。
ガラの悪い若い男二人が待っているところにパピー君が現れた。
何やら話をしている。男は急に怒鳴りだす。「おい、とぼけんじゃねえぞこら。真由美が白状したんだ。お前と寝たってな。」男の一人はものすごく怒っている様子である。
しかしパピー君はビビる様子もない。「君がすぐ暴力をふるうって真由美ちゃん泣いていたよ。暴力は良くないよ。」男は切れた。「俺の女寝取っておいてふざけたことを抜かすな。」男はパピー君の襟首をつかみ殴り倒した。
「おい立てよ。これで済むと思ったら大間違いだぞこら!。」男はパピー君の襟首をつかんで引き起こした。「俺たちは仕事してねえからよ。豚箱ぶちこまれても構わねえんだよ!。」
その時後ろからその男の右手首を掴むものが現れた。以下省略。
実はこの様子の一部始終を数少ないパピー君の友達がスマホで撮影していた。証拠の動画を撮影して被害届を出してこの男を警察に逮捕させて真由美を救う作戦だったようだ。
パピー君はボコられる覚悟をしていたが祐希が予想外にパピー君を助けたので一発殴られるだけで済んだ。
その報告を聞いた真由美はすっかり安心して笑顔を見せた。「もう大丈夫だよ。あの男すでに別件で警察から目を付けられていたから実刑で数年だってさ。もう安心していいよ。」
「パピー君ありがとう。もうしばらく一緒に居てもいい?。」「仕方ないな。早く仕事見つけなよ。」真由美とパピー君の同棲生活はしばらく続きそうではあるが彼女と思われる女の子はどうなるのか?。
こんな感じでパピー君は困った女の子、泣いている女の子に声をかけまくり癒してあげる事が日常のようでその様子は男子生徒から見れば性欲魔人に見えるし女の子から見れば二股三股は当たり前の浮気男に見える。
しかし女性には優しいし世話好きなのでかかわった女の子からは大変人気があるのだ。
そんなパピー君だがかかわってもいないのに自分を助けてくれたマヤ様の事がとても気になっていた。「なんで試食会の時に僕を身を挺して助けてくれたのかな?。不思議だな。」パピー君はそれがずっと気になっていた。
1か月前、マヤ様は学校内のオープンカフェにいた。遠くでパピー君が女性と手をつないで歩いているのが見える。「マヤ様、またですよ。パピー君又違う女を連れています。」腹立たしい様子でマヤ様の取り巻きがパピー君を指さす。
「しかし女性は良い笑顔だな。案外悪い奴ではないのかもしれないぞ。」「あんな浮気男の肩を持つのですか?。」取り巻きの女性はパピー君を嫌いのようである。
「人には裏と表がある。タロットカードと同じだ。裏側からの景色と表側からの景色は全く別世界であることは多い。表面的な見た目で決めつけると真実を見誤るぞ。」マヤ様は取り巻きをたしなめた。
「まあいい機会だ私のタロットカード占いでパピー君とやらを占ってしんぜよう。」マヤ様はタロットカードをシャッフルする。胸が揺れる。それを見る取り巻き女性。
「いつ見ても見事な揺れ具合ですね。これでは世の男性諸君の目が釘付けになります。」「そうなんだ。では面白いからシャッフルする時は薄着でやって男性諸君をからかってやろうかしら?。」小悪魔的な笑みを浮かべるマヤ様。
「ほう。パピー君は普通の男と違って困っている女性、悲しんでいる女性をほおっておけない性格のようだ。悲しんでいる女性の為ならやばい状況でも手を差し伸べるようだな。しかも度胸がある。」
「ええええそんなふうにはみえないですよお。」
「見えないのはお前の目が節穴だからだ。噂や見た目で判断せず真実を確かめる努力をしろ。さもないとお前は恋愛や結婚で大失敗するぞ。」「ひええええ。お助け下さい。マヤ様。」「放せこの変態。私にはそんな趣味はないのだ。」抱き着いてくる取り巻き女性を引きはがそうとするマヤ様だった。 そんなわけでマヤ様は意外と早い段階でパピー君の人間性を把握していたようだ。
2024年5月下旬。マヤ様と付き合い始めた祐希は毎日が天国のようだった。女帝のイメージがあるもののマヤ様は意外と世話好きで祐希にサンドイッチのお弁当を作って持ってきたり同じ講義では隣に座って板書のノートのコピーを渡したり分からない内容があれば抗議のおさらいをしてあげたりと普段のマヤ様からは考えられないほどの親切ぶりである。
「あのマヤ様がねえ。」「心を開いた相手には献身的なお方だったのですね。女帝の意外な一面だね。」そのような噂が絶えなくなった。
だがそのギャップがさらに多くのファンを生んだ。しかしマヤ様はある出来事がずっと気になっていた。
マヤ様が祐希の告白を受け入れカップルになったその夜。送ってくれた祐希と一夜を共にした夜の出来事だった。「夢のようだ。生きてきて今が一番幸せだ。二十歳過ぎて童貞だったのは一番好きな女性で初めてを経験したかったからで友人の風俗の誘いや誘惑してくる女性の誘いをずっと断り続けて来たんだ。本当に良かった。もう死んでもいい。」「おいおい死んだら私はどうなるんだ。一人にするなよ。」マヤ様は祐希と一晩愛し合ったようだ。祐希は初めてだったようだがマヤ様は余裕があるように見える。マヤ様の恋愛歴は不明だが初めてではないかもしれない。「結婚しよう。マヤ様。俺はきっといい就職先を見つけて死ぬほど働いて楽させて見せる。幸せにして見せる。」その言葉を聞いた瞬間マヤ様の表情が曇った。
「結婚か・・・考えた事も無かったな。私は自分の力で稼いで決して男性を頼らないで生きていくことを夢見て来たんだ。結婚したら甘えが生じる。結婚はしたくないな。」マヤ様は祐希が嫌いなわけではない。恋敵のパピー君を何の得にもならないのにやばい連中から助けたり献身的に料理やカクテルを作ったり執事の真似事までしてマヤ様をもてなしたりしたのでマヤ様にとってこれまでで最高の彼氏である。
しかし結婚と聞いた途端マヤ様の心の中にある理想像と祐希の姿が重ならなくなってしまったのだ。それはマヤ様にも分からない事だった。「変だな、私の心の中の理想像が自分でも分からなくなりそうだ。」そう思った瞬間、オークションで落札しそこねた縫いドールの画像が頭に思い浮かんだ。「なあ祐希、変なこと聞いていいか?。」「どうしましたマヤ様?。」「もう敬語はいい。マヤでいい。」マヤ様は祐希に呼び捨てを許した。「変な事って?。」
「例えば人形を愛する女性をどう思う?。」祐希は暫く考えた。意味が分からなかったからだ。しかしすぐに一般的な人形を思い浮かべた。
「かわいいじゃない。そういう子好きだぜ。」「こんな人形でもか?。」マヤ様はスマホに保存した等身大リアル男性縫いドールの写真を祐希に見せた。驚愕する祐希。
「こっこれはいったい。このような等身大の男性人形なんて初めて見た。」
![](https://assets.st-note.com/img/1714386691227-IgJolD2Lfs.jpg?width=1200)
「私に幻滅したか?。」
「いやいや。初めて見たから驚いただけだよ。今の人形製造技術ってすごいんだね!一見人間にさえ見えたよ。これが欲しいの?買ってあげようか?。」
祐希はマヤ様がプレゼントをおねだりしていると勘違いした。「いいやそうではない。私が今まで隠していた趣味を告白しただけだ。どうやら理解してもらえたみたいで良かった。さあ寝よう。明日も学校がある。」
しかし祐希は目がさえてしまったようだ。「今夜は眠れそうにないや。俺の人生で最高の体験が出来た記念すべき夜だもんな。二人の記念日にして毎年祝おう。」
「やだよ恥ずかしい。」マヤ様は顔を赤らめて両手で顔を抑えた。
祐希はその可愛らしい普段見られない姿を脳裏に焼き付けた。
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祐希にとって人生最幸福な夜が更けていく。しかしマヤ様は結婚という言葉が耳に響いて眠れそうになかった。そしてこの状況で縫いドールのお兄さんの事を思い出した事に不思議な運命を感じた。祐希の将来の夢がマヤ様との結婚ならマヤ様の将来の夢は結婚せず自立した人生を送る事である。このギャップに不安を感じずにはいられないマヤ様だった。
その時、
マヤ様の心の中にある理想像と縫いドールお兄さんの姿が一瞬重なって光ったような幻を見た。これはいったい・・・・・
第四話 END 次回最終回