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STANDALONE 成行!人形供養編   第二章 最後の天使!☆ 第一話

 2025年2月某日、行成神社は平和だった。人形供養の仕事も一段落し、成行は修行に集中する事が出来るようになった。
 本殿に戻り掃除をしていると宗家の主、鷹成から呼ばれた。
「成行、掃除中すまないね。ちょっと話がある。」
「人形供養ですか?。もちろんお受けしますよ。」
前回の供養成功に自信を持ったのかやる気満々である。

「話が早くて助かるよ。今回は都内の等身大リアルドール専門店からの依頼だ。今回は貴也君が手伝ってくれることになった。」
「貴也が?。どういう風の吹きまわしかな?。」
鷹成は供養の依頼があったドールの写真を成行に見せた。
「なるほど!。このドールスカットちゃんに似ているな。それで他人事とは思えないんだな。」
「貴也君のドールスカットちゃんも気の毒な身の上だったからね。きっと手伝いたいんだよ。」
「一人じゃ道中退屈だし、もちろんいいですよ。」

成行と貴也との都内出張を快く承諾した。

翌日、都内某所、昇天ドールという等身大リアルドールのショールームに二人は到着した。最新モデルがエロい衣装でずらりと並んでおり圧巻である。

「すげえな。もはや人間と区別がつかないな。一体くれないかな?。」
「軽トラックが新車で買える値段だぞ。無理に決まっている。」
二人がくだらない話をしていると店長が出迎えにやって来た。

「お待ちしていました。私が店長の”藩(はん)”です。」

「私が人形供養担当の行成成行(いきなりなりゆき)です。こちらは手下の助手の矢島貴也です。」
「手下?」
ちょっとひっかかる貴也。

「早速ですが供養をお願いしたいドールをお見せします。」

二人は別館に案内された。

「これです。」
「ほおーDXドールの初期型ゆみちゃんですね。綺麗だな。」
「なんだかスカットちゃんに似ているな。」

「実は信じられないかもしれませんがこの子夜な夜な鳴き声を出すのです。」

「えええ!いきなりホラーだな。」
「いまさら何言ってんだ、ホラーは慣れたものだろ。」

成行は早速祈祷の準備をする。貴也も持って来た座布団を敷いて燭台にロウソクを立て、火をつける。
「ではこのドールちゃんに何があったのか、記憶を読み取らせていただきます。」目を閉じて座禅を組んで指を組んで真剣に祈りをささげる成行。ドールの記憶がやはり悲しいものであることをすぐに感じ取った。


 時は1年程前、2024年2月某日、間貞行(はざまさだゆき)という若者が何故か廃屋に潜んでいた。20代後半ぐらいに見える。スマホの灯りだけを頼りに固形燃料で沸かしたお湯でカップラーメンをすすり、安物の缶コーヒーを飲み干してスマホのニュース欄記事を読み漁っている。

 ようやく自分に関係ある記事を見つけた。
「あったあった、派手に扱われているな。」
記事には”元警備員 荒木悟 間貞行 ATMから集金した現金を持ち逃げ”となっていた。「冗談じゃねえ。俺は1円たりとも奪ったりしてねえ。」
確かに貞行は取っていない。

彼は警備会社で真面目に警備員として働いてきた。
格闘技の腕を買われATMなどの現金輸送業務も担当してきた。

先ほどの事である。先輩警備員と一緒にある銀行のATMの現金を回収する仕事を行っていた。

現金の回収を一通り終えた後、銀行本社の金庫に車で向かっていた。貞行は車内で先輩から飲み物を差し入れされ、それを飲んだ後しばらくして激しい眠気に襲われ、倒れた。

気が付くと道路に放り出されたようで目を覚ますと体中が痛む。
「いててて、ここはどこだ?。」見知らぬ路上に放り出されていた貞行。

サイレンを鳴らしたパトカーが何台も凄い速度で通り過ぎていく。
「なんだなんだ?。いったい何があったんだ?。」

貞行は嫌な予感がした。幸いスマホは無事だったのでこの近辺で時間があったかどうかニュース記事を調べた。すると信じられない記事を見つけた。
”金取銀行のATM回収金持ち逃げされる。警備会社社員2名行方不明。一人は荒木悟(あらきさとる)45歳 もう一人は間貞行28歳、警察は二人の犯行とみて行方を追っています。”となっていた。

「なんだって!。荒木のやろう!現金を持ち逃げしやがったな!。しかも俺に睡眠薬入りの飲み物を飲ませて俺を捨てて逃げやがったな!。」

スマホの記事を見てすべてを悟った貞行。すぐにこのことを警察に知らせようと近くの警察署に駆け込んだが・・・。

「いたぞー。間容疑者だー。逮捕だー。」
「ちょっと待て。俺はなにもしちゃいねええ。荒木が一人でやったんだ。」

聴く耳を持たない警察官数名は警棒で貞行に殴りかかる。
警棒が貞行の頭をかすった。

「いてえな!。」切れた貞行は殴りかかる警官を投げ飛ばし、続いて殴りかかる警官の腹に回し蹴りを食らわせ、吹っ飛ばした。「しまった。やっちまった。」貞行はつい逃げ出してしまった。もう何を言っても無駄だと思い、何も考えずに逃げ出した。「止まれー止まらんと撃つぞー。」

警官は拳銃を威嚇で向けるが聞く耳を持たないで逃亡した。

そしてコンビニでカップラーメンを急いで買ってDIYショップで固形燃料を買って近くの廃屋に逃げ込んだのだ。

「あのバカ警官め、完全に俺を荒木の共犯者と決めつけやがって。俺も被害者だっつーの。」先ほど警棒で殴られた傷が痛む。

「畜生。血が出ているじゃねえか。あの野郎投げ飛ばして正解だったな。でもこれで公務執行妨害も追加されたな。」 貞行は短気な性格なのでついやってしまったのだ。しかし後の祭りである。

数時間後・・・落ち着きを取り戻した貞行はこれからの事を考え始めた。

「会社に戻ったらおまわりがうようよいるだろうな。しかもさっきいきなり逮捕とかほざいていたから何を言っても豚箱行きだろうな。

冗談じゃねえ。こうなったら荒木のバカヤローが捕まるまで逃げのびてやる。奴が捕まれば俺の無罪も証明されるだろう。」

貞行は自分に都合がいい期待を抱き、無謀にも荒木が捕まるまで逃亡生活を送る事を決意した。多分本当の事は誰も知らない。例え知っていてもこの状況下では口に出来ない。時が解決してくれる事に期待するしかなかった。

「しかし、明日からどこで生活すればいいんだろう。ここもいずれバレるだろうしな。」

貞行はとりあえず食べ物が無いか廃屋を家探しした。すると、二階の和室に何か大きな段ボールがある事に気が付いた。

「なんだこのでかい段ボールは?棺桶みたいだな。食い物入っているかなあ?。」

この時点で貞行は不法侵入並びに拾得物横領罪である。しかしそんなことは考えもしない貞行だった。

段ボールの中身はスマホのライトアプリでかろうじて見える。
「え?なんだこりゃ。バラバラ死体か?冗談じゃねえ!この上殺人容疑までかけられたら俺は終身刑どころか死刑じゃねえか!。」

しかしよく見てみると人形である。しかも面長の美しい女性の人形である。
「この廃屋の元所有者のものかな?。マネキンか?。しかしリアルだな。」

貞行はまだ2月の寒い時期だったのでありったけの布や衣服をかき集めて棺桶段ボールから人形を出してその中に入り眠った。

翌日、スマホのニュース欄を棺桶段ボールの中で確認する貞行。すると、現金輸送車が見つかったというニュースがあった。

「おお、荒木のバカ野郎捕まったかな?。」
ニュースによると輸送車の中身は空で荒木の制服が脱ぎ捨ててあったと報じらてた。まだ捕まっていないらしい。

幸い、貞行が潜伏している廃屋からかなり離れた場所で見つかったらしく警察は現金輸送車の周辺を重点的に探す方針に切り替えたと報じられていた。

「やったー。しばらくここは安全だ。」貞行はしばらくこの廃屋に立て籠もることにした。

「しかしヒマだな。そうだ、昨夜見つけた等身大女性ドールでも見てみるか。」

貞行は早速昨夜見つけたドールを組み立ててヴィックも取り付けてみた。
付属の衣装も付けて椅子に座らせた。

「おおお。これが人形なのか。綺麗な姉ちゃんだな。こんなに綺麗なら下手な女よりずっといいや。」貞行は胸を触る。感触もリアルである。

「へー、この世にこんないいものがあるなんて知らなかったぜ。大人の美女タイプだな。俺好みだぜ。」

貞行は元ヤンキーで学生時代は喧嘩ばかりしていた。しかし高校を卒業するころまでには更生し、警備会社に就職する事が出来た。その会社では真面目に働き、時には体を張る事もあった。しかし先日の仕事中に先輩社員の突然の犯行で貞行も容疑者扱いになった。

貞行は再びスマホのニュースをチェックすると貞行の学生時代の素行の悪さが記載されていた。又学生時代の同級生のインタビューも辛辣だった。

「マスゴミめ、偏向報道ばっかしやがって。同級生もあることない事言いやがって!。後でしめてやるぜ。」すっかり国民の敵扱いである。

「あーあ。これで俺もお尋ね者かあ。」
しばらくすると又別の記事が掲載されていた。

その内容は学生時代に貞行と知り合い、上京したため今は遠距離恋愛になってしまった彼女の石間優(いしまゆう)のインタビュー記事だった。

「彼とは学生時代からのお付き合いです。就職が決まって上京してからはお盆休みやお正月 GWに会うぐらいです。仕事熱心で真面目な人でした。」

貞行は涙がこぼれた。「優ちゃん。ありがとう。俺を信じてくれるのは優ちゃんだけだ。」しかし・・・

「実は私来月結婚するんです。間君とはずっといい友達でした。今でも信じています。是非彼には式に来てほしかったのに残念です。」

「ええええええ!。何度もデートしたのに。夜もたまにだけどHもしたのに・・・。俺はすっかり恋人だと思っていたのに。二股どころか友達だと・・・。友達とHするのかよお!。」

今度は別の意味の涙がこぼれた。Hしたからといって恋人と認められるとは限らない世の中なのである。

貞行はあまりのショックに呆然と立ち尽くし、スマホを落とした。

「畜生!俺はもう誰も信用できなくなった!。俺が信用できるのはアントニオ猪木だけだー。」

何故今更昭和のプロレスラーが出て来るのか?。貞行は1996年に北朝鮮で興行を行った猪木の試合を見て感動し、以後格闘技を習うようになったのだ。

それは置いておいて無実の罪で犯罪者にされた上に勝手に彼女だと思っていた優ちゃんから結婚を知らされもはや貞行には絶望しかなかった。

「ちくしょう😢。女にはフラれるし犯罪者に仕立て上げられるし踏んだり蹴ったりだ。」悔し涙と彼女を失った悲しみの涙で目の前が見えなくなるほどだった。貞行はやけになった。

「どうせ俺は犯罪者になったんだ!。でも捕まってたまるか!。こうなったら死ぬまで逃げのびてやる。」状況はますます悪化する一方である。

一方、警察は発見された現金輸送車の周辺を徹底的に探したが何も手がかりが得られなかった。

 臨時の捜査本部も設置されたが次の捜査方針はなかなか決まらなかった。事態を重く見た事件担当の捜査課の刑事は横浜から”柳谷笈斗(やなぎやきゅうと)”という腕利きの刑事に応援要請する事を決定し、本日到着予定であった。

 実はこの刑事、タレントで自称美しすぎる占い師兼メイクアップアーティストの”飯能マヤ”の手下であった。百発百中の占い師マヤ様に難事件を占ってもらい次々と解決したので出世し今では警部である。

「柳谷警部お待ちしていました。この事件を担当する刑事 径(けい)と申します。」
「はじめまして。宜しくお願いします。」

早速、径刑事は事件の概要を柳谷に説明した。その内容はマヤ様にリアルタイムで逐一メールで報告している。

「なるほど、これまで数年間真面目に勤務して来たのですっかり信頼していた矢先の突然の犯行だったのですね。荒木は妻子持ちで近所の評判もいいと。しかし間は真面目な警備員だったが学生時代の素行は悪かったと。それで主犯は間と睨んでいるのですね。」

柳谷は少々短絡的だと思った。何故なら人間など所詮獣が進化しただけの存在で皆同じようなものだと思っているからだ。性欲ゆえの性犯罪、腹が減れば窃盗、目の前に大金があれば欲に負ける事もある、評判が良く犯罪歴も無い人間の犯行など腐るほど見て来たからだ。

「私は荒木が主犯だと思います。なぜならマヤ様が・・・いや、刑事の感です。」マヤ様はすぐ占い結果を柳谷にメールしていた。

「おーっほっほっほ。イケメン刑事柳谷が出世すればするほど私には都合がいいわ。このままこいつを警視総監にしてやる。」
いくらマヤ様でもそれは無理である。しかしマヤ様は自分に不可能はないと本気で信じているのだ。

第一話END





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